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「幸福論 ー生き様と評価とー」ショートショート

「やっぱ、人はどう生きるか、だな」
「ああ。幸せかどうかは、どう生きたかなんだな」

葬儀に参列した男2人は、禁煙となっている元・喫煙所で、合法の電子タバコを吹かせながら、一人一人つぶやいた。

葬儀が立て続き、奇しくも、短い期間のうちに2人は顔を合わせた。

1人の葬儀は、盛況だった。葬儀に盛況とは言葉が合わないが、多くの人が参列し、多くの人がその人に生前の感謝を述べていた。

今日の葬儀は正反対だ。まばらな人に、誰も感情のこもった言葉をたむけることもない。

1人は清貧な男だった。しかし、男は生涯を通し、多くの人を助けた。自分のことを二の次として、他者のために尽くしたのだ。
その結果、財も社会的な地位も自分ではえなかったが、多くの人に感謝されて、逝った。

もう1人の男は、強欲な男だった。人のために何かをすると言うことをせず、自分のやりたいようにやった。
その結果、為したいことを成し、財を築き、名声を得て、社会的な地位を得た。その代わりに、身勝手な振る舞いは多くの人に反感を与え、嫌われて、去っていった。


2人は双子の兄弟だった。
顔もなにもかも同じだったというのに、正反対の人生を歩んだのだ。

1人は多くの人に感謝されて悔やまれて、1人は孤独に誰からも悲しまれずに、死んでいった。

ーーーーーーー男は病床に伏せながら、人生を回想していた。

自分の死期がわかるというのは不思議だが、受け入れる覚悟をくれた。


1人の男は、人生を思いかえし、自分の時間をすべて他者のために使っていたことに気づいた。それに気づき、最後にふとこぼした。

「私の人生は、幸せだったのだろうか」

そうこぼしてーー

もう1人の男は、人生を思い返し、自分の時間すべてを自分自身に注いだことを思い返していた。それで身勝手と言われ、こうして1人寂しく死ぬのもわかっていた。

しかし、

「私の人生は、幸せだったな」

そう、こぼしてーー人生の幕を閉じた。

ーーーーー

電子タバコを吸い終えた男たちは、葬儀場にもどろうとする。

「ちなみに、さっきのさ」

1人の男がふと、歩きながらいう。

「ん?」

「どう生きたかが幸せか、みたいな話さ」

「ああ」

そう言われて、男はちょっと前の、ちょっとした世間話を思い出した。


「どっちのことをいってた?」



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