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「ソーシャルディスタンス・タイムマシン 積極的忘却」ショートショート

「タイムディスタンス?」
次は何事か、と男は思った。

新型感染症の猛威は予想以上だった。
その感染力の高さから人々は、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取ることが前提の暮らしを余儀なくされた。

しかし、それでも感染は止まることを知らず、
また感染者の外出を抑止するにしても、膨大なコストがかかり、恒常的に発生することになった。

物理的にも金銭的にも、そして、抑圧され、精神的にも人々はパンク寸前だった。

「人が多すぎる」

最終的にはそこに行き着いた。
最低限度の行動をするにしても、母数が多すぎるのだ。

そのためにもはや社会はもはや崩壊寸前だった。

とはいえ、人を減らすことなど社会的にも道義的にもできはしない。
しかし、もはやどうしようもない。

そんな時に提案されたのが、「タイムディスタンス」。

生きる時代をずらす、ということだった。

なにを、という荒唐無稽な話は、しかし、切羽詰まった現実に後押しされて、
計画され、そして、実行された。

それは コールドスリープ技術 を用いて、計画的に大多数の人々を眠らせて、未来で起こす、ということだった。

遠い未来では、感染症は解決しているかもしれない。
そうではなくとも、とりあえずいまの時代の窮屈さを解消することはできる。

大量に人を眠らせて、時代差をつけて、起こせばいい。
これから生まれてくる人をある程度抑制しなければならないかもしれないが、それはいま生きている人を殺す、ということよりも道義的に抵抗が少なかった。

だれが、と言う問題だったが、大量の福祉と手当を約束することで応募を募った。

すると、多くの人が、心配をよそに応募してきた。

感染症による不況が、不幸ながらも、この時代を生きるよりも未来でのある程度保証された暮らしをかなりの人が望んだのだ。

そして、荒唐無稽なその計画は実行された。

世界規模の人減らしだ。

しかし、人々はそうとは口に出さず。英雄として希望者を見送った。

あとはコールドスリープを維持すればいいだけだ。

後日、感染者の隔離として、タイムディスタンスが実施されることが決定し、
さらに加速度的に実行された。

今の時代でいきながら隔離するには、時間もコストもかかりすぎる。
一旦眠らせてしまえば、維持費は最低限のエネルギーのみ。あとは未来にお預けだ。

遠い遠い未来。
すべてが解決した未来ならば、感染症も問題にならないだろう。

人々はそう、楽観的に考えた。眠る人も、眠らなかった人も。
ともかく、現代よりも、未来はマシであることだろう。


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「本日のニュースです。
 前世紀からのコールドスリープ者は手違いで大量に破棄されていたことが、当局の調べでわかりました。

 コールドスリープは、前世紀の感染症流行時の対策の一環で行われたもののようですが、詳しい情報は管理上の手違いで破棄され、わかっておりません。

老朽化が進んだコールドスリープ施設は更新手続きもれから、予算が降りず、対処に困った職員が廃棄を指示した模様です。

管轄の役所は、「重要なものだという認識がなかった。申し訳ない」「再発防止に努める」とのコメントを発表しています。

 次のニュースですーー

https://mobile.twitter.com/nazy_niz


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