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「罪のない者だけが石を投げよ」


「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」

聖人はそう言いました。

しかし、誰も立ち去っていきませんでした。


「問題はそういうことじゃない!!」

そういうと老人がが怒鳴り始めました。

「それはそれ、これはこれだ! みんな、迷惑しているんだぞ!!」

「そうよ、そうよ!! テレビでいっていたわ! とんでもないことをした女よ!」

となりの老女もそう言い出しました。

「あなた! いま彼女のことを”オンナ”と呼び捨てにしたわよね! 男尊女卑にもほどがあるわ!!」

奥にいたそこそこ年のいっているだろう女性が叫びました。

「女性だからといって、罪がどうこうなるわけじゃない!」

「名前を呼ばないなんて! 女性を見た目だけで判断している!」

「なんだそのいで立ちは! ろくなヤツじゃないだろうに!」

「反論しないのがなによりの証拠だ!」

「喋るな!! みんな、言い訳なんて聞く必要はないぞ!」



やいのやいの、一人またひとりと叫びだしました。
女の罪はもはやだれも覚えておらず、霧散し、聖人はもみくちゃにされました。


そして、気付くと広場には大きなひとだかりができました。。

人はだれ一人立ち去らず、増え続けます。

人は群れとなり、騒ぎとなり、集団になり、群衆になっていきました。




いつの間にかそこには、ひとりも 人 がいなくなっていました。



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