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Ettore Sottsassのマジック・オブジェ

素晴らしい展覧会へ行ってきました!ポンピドゥセンターで開催中の"Ettore Sottsass - L'objet magique"展。展示は2022年1月3日まで。

Ettore Sottsassは1940年から1980年代に活躍したイタリア人デザイナー。合理主義を嫌い、物質の感覚的で情緒豊かな面を引き出すことに取り組み、人と物との新たな関係性を継ぐデザインを多く生み出しました。名前を知らずともトップ画の、バランス感覚豊かで遊び心ある家具を見たことがある人も多いのではないでしょうか。


" J'ai toujours pensé que le design commençait, là où finissent les processus rationnels et où commencent ceux de la magie."
「わたしはいつも思っていたのですが、デザインとは、合理的な過程が終わり魔術的な工程が始まるその一点から、始まるのです。」


展示は1940年代、彼の初期の習作から始まります。これが作家の頭の中を覗いているようで非常に楽しい。

はじめに芸術家の頭の中で湧き上がるイメージやアイデア。それを自分の外にある紙の上へ書き出す第一段階。そこから立体へ仕上げ、さらに作品へと昇華していく、この一連の流れのダイナミズム。その完成度の高さと、頭の中のものを外の世界へ落としこむ技術の高さに圧倒されます。


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写真家杉本博司の『建築』というシリーズを思い出しました。

「建築家が頭の中で初めにイメージした建築のフォルムを見る」というコンセプトのもと、世界的に有名なモダニズム建築を無限遠の2倍の焦点で撮影することで建築の現実的なディティールを削ぎ落とし、ぼやけたピントの中に建築家のインスピレーションの源泉を露わにするという連作です。

杉本博司 「建築」シリーズ


芸術家の発想の原点や頭の中を覗いて見たいとは、誰もが抱く想いではないでしょうか。今回のEttore Sottsassの展示は特にその欲求を満たしてくれるものでした。

ちなみに杉本博司さんの作品は、太古の人類も眺めたであろう永遠から続く海と空を見つめる『海景』シリーズや、映画一本の光を写真に映しとる『劇場』シリーズなど、ロマンチックなコンセプトにシステマティックに取り組んだ作品がどれも素敵です。


さて、40年代のEttore Sottsassの習作とともに並べられていたのが、年代別の彼のスケジュール帳。これが本当に良かった!きっと気にいるスケジュール帳がなかったのでしょう。大きな無地のスケッチブックに切り貼りして作られたオリジナルのノート。配色も目を引き、特にピンクと緑の組み合わせが美しい。こんなごくごく個人的なところへ行き届いた気配りとこだわりに、この人の美意識とセンスの高さを感じます。彼のまとまったノートを見ていると、センスが良いだけでなく、頭の中がすごくスッキリしていた人なのではと推察されます。

死後の芸術家のスケジュール帳を盗み見るなんて、覗き見趣味っぽくてSottsassさんには申し訳ないですが、イタリア語がわからないので許してもらいたい。


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アイデアや予定のまとめ方、色使い、参考になります。


そして彼の代表作とも言える陶芸作品。

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デッサンにも見られる有機的なフォルムと色彩の心地よさ。

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どことなく星新一著『きまぐれロボット』の表紙、和田誠さんの絵を思い出します。

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最近のエルメスの口紅シリーズやアクセサリーにも、その色形にEttore Sottsassの影響を感じます。

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https://www.graziamag.ma/articles/alerte-rouge-hermaes-lance-sa-premiaere-ligne-de-make-up/ZBFZEFDH

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https://www.hermes.com/fr/fr/product/bracelet-h-equipe-grand-modele-H057089FL04S/


Ettore Sottsassさんはアクセサリーのデザインもしていました。幾何学模様を組み合わせるデザインは近未来的で、最近の流行りなのかなと思っていましたが、すでに60年代には完成されていたデザインだったのですね。


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他にもSFに出てきそうな未来都市のデッサン、独自のバランスを保ったインテリア家具、有機的なフォルムにピカピカした巨大な作品などなど、盛りだくさん。現代のデザインにも多大に影響を与えているなと、デザインの変遷を楽しめる内容でした。

ぐるっと展示を見てからまた初めに戻ってくると、時代やマテリアルが変わっても彼には常に一貫した美意識があったのだと感じられます。

図録も買ってきたのでしばらく眺めて楽しめそう。たくさんの色を混ぜてもうるさくならず、心地よい調和を生み出せるセンスの良さは、おうちのインテリアや毎日のお洋服選びにも取り入れたいし、まずはアイデアノートのまとめ方を真似したい。

パリにいらっしゃる方、ぜひ!おすすめです。ポンピドゥーセンターではジョージア・オキーフ展も開催中です。



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