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連載小説「オボステルラ」 【第三章】15話「強い男」(4)


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第三章の登場人物



15話 「強い男」(4)


 馬車は15分程走ったようだった。

止まる感覚がしたのち、ミリアとゴナンは荷馬車から降ろされる。遠くに工場街の煙突の煙が見える。ツマルタの郊外のようだ。一軒の小屋の中に2人は運び込まれた。

「…おいおい。お嬢さん1人のはずだろう? こいつはなんだ?」

「あの小屋に一緒にいたんだよ。顔を見られてしまったし、話を聞き出すのに役に立つと思い、連れてきた」

「なるほどね…」

小屋の中には、もう2人、男がいた。1人はミリアを丸椅子に座らせ、もう1人はゴナンを床に転がし、それぞれ猿ぐつわを外す。が、男がゴナンの顔を見てはっとした。

「…なんだ? デイジーちゃんじゃねえか、お前がいたのか。なんでまた、真っ昼間から寝間着姿なんだ? この前もだったよな」

「あ…」

他の面々は初めて見る顔だったが、その男だけはゴナンも見覚えがあった。

(…ええと…。確か…)

ゴナンは記憶を辿る。『フローラ』でゴナンを指名しようとしたが、リカルドにことごとく阻止された…。

「…ゴホッ、ゴホッ…。……確か、俺を指名しようとして、卵を探してたけど、いろいろ詰めが甘くて、ニセモノをつかまされていた、おじさん…」

「…おい! 何だ、その覚え方は」

ゴナンの記憶に、デイジー指名男が思わず叫ぶ。他の男達は嘲笑する。
デイジー指名男は頭を抱えた。

「…おっしゃる通りの有様だったから、怖いおじさん達にとーっても怒られたんだよ、ボク達。他の連中は国に戻って、お説教を受けてるとこさ」

「…はあ…」

「…ただ、俺は気付いたんだよ。トムスが卵の代わりによこしたあの革のバッグ。あれに小さくだがア王国の王家の紋章が刻印されていた。あれは、このお嬢さんが背負っていたものだろう?」

「……!」

ゴナンとミリアはハッとする。トムスとはロベリアの本名だ。ロベリアがどれだけ探しても見つからないはずだ。あのまま帝国人達が持ち帰っていたのだ。ミリアの素性が、帝国人にバレてしまった…?

「王家の紋章が入ったバッグなんて、貴族でもそうそう身に付けられねえ。王族か公爵家か…」

「……」

「だが、まさか臆病な『ア王国』の王女本人が、こんなところにいて1人で街をうろついているはずもない。ということは、この女は王家の勅命を得て卵に関わっている人物と見た。あんな意味ありげな形のバッグを背負って、わざわざ王女と同じ名前を名乗っていたことからもな」

「……」

『臆病』呼ばわりは、ア王国が王子王女を影武者で徹底して守る姿勢のことを指している。帝国が王国を揶揄するときによく使われる言葉だ。しかし、やはり「詰めが甘いおじさん」のようで、ひとまずミリアの素性がバレていなかったことにホッとするゴナン。

「トムスが働いている女装バーを張っていたら、お前を囲っていた黒髪の男がトムスを訪ねてきて、その後ツマルタにやって来た。この女も一緒の可能性があると、つけてきていたんだ。それで、お嬢さんが一人になる所を狙っていたというわけさ」

「…リカルドが、ストネの『フローラ』に……?」

リカルドがゴナンを探しにストネまで戻った時のことだが、ゴナンはそのことは知らない。

ゴナンはデイジー指名男に迫った。

「でも、…なんで、こんなことを…。ゴホッ、ゴホッ…」

「このお嬢さんに、卵の本当の在処を教えてもらうためだよ、デイジーちゃん」

「!?」

ミリアとゴナンは共にきょとんとした。ミリアがそんなことを知るはずはないのだが…。

「…わたくしに、教えられるようなことはないわ」

ミリアは何も嘘はついていない。しかし、帝国男達はそうは捉えていない。

「…ふん、いつまでとぼけられるものかな」

帝国男の1人が剣を抜き、ミリアの頬に切っ先を向ける。

「…おい、やめろ…!」

ゴナンは手足を縛られたまま、ジタバタと暴れる。

「…おじさん達は、拷問の方法をたくさんお勉強しているんだよ。こんな可愛らしいお嬢さんをいたぶるのは心が痛むが、大義のためだ、仕方が無い」

「大義…?」

ミリアはひるまず、まっすぐに男を見据える。

「どれだけたいそうな大義かは存じませんが、脅されても話せることはありません」

「脅しじゃねえよ。まずはそのキレイなお顔かな。いや、耳を削ぐか、片目を潰そうか…」

そう言って、帝国男はさらに剣をミリアに近づける…。

「ミ…、サリー!」

と、ゴナンは念のため影武者の名で呼んで、ミリアと剣の間に立ち塞がった。



「!」

「おい、なんで縄が取れている!」

ゴナンを拘束していた両手両足の縄は、切れて床に落ちている。先ほどの格闘で全身傷だらけだがかまわず立ちはだかり、そのまま、帝国男の剣を何かでカン、と弾いた。

「ゴナン…!」

「逃げるぞ…!」

ゴナンは丸椅子からミリアを抱え、入口の方へと動いた。




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