連載小説「オボステルラ」 【第二章】51話「リカルドの人生」(5)
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リカルドは、「ユーの民」についての説明を淡々と続けた。
「この『ユーの民』は村民の中でも産まれやすい血筋があって、僕の父方の家系もそうなんだ。僕の曾祖父、大叔父、そして父も…、そうだった。もうみんな、亡くなっている。そしてその度に、発光石の発見のような、何かの幸運から幸福が生まれている」
「……リカルドのお父さん、も……」
「ユーの民の死に方はそれぞれだけど…、僕の家系は病気で亡くなる人が多くてね。そして、恐らく僕もそうだと思う。普段は、ちょっとした風邪や病気はすぐ治っちゃうし、ケガもそうだし、お酒も酔いにくい。でも、寿命に帳尻を合わせるように、たまに何かが強烈に内臓を蝕む時がある。それが、昨日の朝の症状なんだけど」
「……あれが…?」
昨日の朝、猛烈に痛そうに苦しんでいたリカルドの様子を思い出すゴナン。
「父や曽祖父も同じ症状がよく現れていて、そして寿命の歳に衰弱して病死したそうだから。多分、僕も病死で間違いないね」
「……」
「まあ、でも、それさえ我慢すれば、寿命までは絶対死なないってことだからね。だから、僕は多少無理したって平気なんだよ。何度か自死しようとしてみたこともあるけど、いつもなぜか果たせなかったし」
そう言ってリカルドは笑うが、ゴナンは泣きそうな顔で見つめている。あんなに苦しそうだったのに、とても残酷な言葉なのに、こんなに平気そうな顔をして語る、そのことがゴナンは信じられない。
リカルドは力を込めて、じっとゴナンの瞳を見つめた。
「……僕のこの話、信じてくれる?」
「…し、信じられないけど……、でも……」
信じたくない、と言うほうが、よりゴナンの心情を正確に表現できた。ただ、今まで不思議に思っていたリカルドの言動が、すべて腑に落ちるのだ。リカルドはそんなゴナンの表情を見て、また微笑む。
「自分の家系にユーの民が現れると分かっているから、僕は子どもは作らないつもりだ。同じ運命に遭う人間を少しでも減らしたいから。まあそれでも他の家からも現れてしまうんだけどね。今は僕を入れて3人、かな。生きているユーの民は」
「そんなにいるの…?」
「他の2人は村に残っているよ。確か、1人は、自分の寿命を周囲にも知らせている…。同じユーの民でも、いろんな生き方があるよね」
そう言って、リカルドはまた夜空に目を向け、ゴナンも空を見上げる。彼方星のギラリとした赤い光が、ゴナンに何かを語りかけているかのようだ。
「巨大鳥の伝承ほど広く知れ渡っているものじゃないけど、ユーの民のことも、この国では知る人ぞ知るおとぎ話なんだよ。死ぬことで幸福をもたらす、全身にアザのある一族がいるってね。アドルフさんも知っていたし」
「おとぎ話……」
「そう。でも、ユー村にとっては伝承でもおとぎ話でもなく、ただの現実、ただの事象。でも、なぜそういうことがユー村の人間にだけ起こるのか、なぜ寿命を知る必要があるのか、この呪いから逃げるすべはないのかは、誰にもわからない。そもそも、このユーの民の幸運のおこぼれをもらってユー村は栄えているから、それを調べようなんてしないんだよ。村民の間では、遠い昔にユー村民が良い行いをした、その恩恵だ、という説が信じられてるしね」
「そんなの、ひどいね…」
同じ村人の命の犠牲を恩恵と語る、その事実に思わずそう漏らしたゴナン。リカルドはまた少しだけ笑顔を見せる。
「だから、10歳で寿命を知った僕は、村を出て王都の学校へ行き、旅をして、自然の摂理の全てを調べ尽くしてユーの呪いの謎を解き明かそうと思っていたわけだけれども…。結局、何もね、何も分かっていないんだ」
「……」
「で、おとぎ話と思われているユーの民がここに実在するなら、巨大鳥と卵の伝承だって実在するのでは? もしかしたら、卵に願って僕のユーの呪いを解くこともできるのでは? そんなほのかな期待も持ちつつ、でも諦め半分な気持ちで、余生を楽しむ思いで旅を続けていたんだけど…」
夜空を見上げて話していたリカルドだったが、ふと、また、ゴナンの方を見つめた。
「北の村でゴナンに会って、なんとなく、僕の心が変わってね」
「俺?」
「あの過酷な場所で生き抜くために、何も求めず、自分の全てをすり減らしているゴナンを見て、残りを消化するだけの自分の生き方が突然、嫌になった。すると、巨大鳥まで現れるものだから、もう、大変だよね」
そう言って、ふふっ、と笑う。
「そういう感じで、まあ、この街でもいろんなことがあって、またやるべきことは増えたけど、結局、僕が定められた死に向かって緩やかに落ちていくだけの人生を送るってことは、変わらない」
「……」
「ゴナンは、そんな先のない人間と一緒に、旅をしてくれる? もっと、学校に行くとか、街で働くとか、そういう『意味のある暮らし』を送りたくはない?」
リカルドは、少し切なそうな微笑みを浮かべながらそう、ゴナンに尋ねた。こんなことを告げられたら、きっと彼は一緒に旅をすることを躊躇うだろう。そうなったとしても、ゴナンにとってベストな環境を用意してあげたい、そんな決意も込めて。
↓次の話
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