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連載小説「オボステルラ」 【第三章】15話「強い男」(7)
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15話 「強い男」(7)
「…本当に良かったわね、無事で…」
2人の様子を見ながら、ナイフも安堵のため息をついてリカルドに話しかけた。そういえば、真っ先にゴナンに飛びついていきそうなリカルドが、随分おとなしい。
「……リカルド?」
「……無事……? 無事だって? これの、どこが……?」
見ると、リカルドは真っ青な顔で立ち尽くし、ブルブルと体を震わせていた。ギョッとするナイフ。
「…リカルド、どうしたの? 無事だったのよ?」
「…ゴナン…。こんなに、傷だらけで、顔が腫れて、血まみれで、血も、吐いて…。し、死んで、しまうかと……」
「ちょっと、リカルド。しっかりしなさい」
リカルドの取り乱した様子に気付いたディルムッドは立ち上がり、リカルドの肩をポンと叩いて、肩をぐっと握った。
「…大丈夫だ。ひどくは見えるが、そこまで深い傷はなさそうだし、命に別状はない。落ち着くんだ。ゴナンが不安になってしまう」
「あ、ああ…。本当に、大丈夫なのか…?」
「大丈夫だ。さあ、そばにいてあげてくれ」
「……」
リカルドはディルムッドに導かれるままに、フラフラとゴナンの元に駆け寄り、しゃがみ込む。
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「…ゴ、ゴナン……」
「リカルド…。ゴメン…。家、散らかしちゃって…。椅子も、壊して…」
そう申し訳なさそうに言うゴナンに、リカルドは血が服につくのも厭わず抱きつく。
「ゴナン…。家なんて、どうでもいいんだよ…。大丈夫…? 本当に? 本当に?」
「リカルド、大丈夫だよ。俺、弱くて、役に立たなかったけど…」
「君が、弱いわけ、あるか……」
そう小さく口にすると、リカルドはそのまま嗚咽し始めてしまった。ナイフはその姿にギョッとする。彼が人目も憚らず泣き出すなんて、これまでのリカルドからは想像もつかない行動だ(厳密に言えば、素面のときは、だが)。
リカルドは、ゴナンの傷に障らないよう優しく、しかし体を震わせながら、ゴナンにしがみつく。
「…君が、死んだりしたら、どうしようかと、僕は……」
「……リカルド、大丈夫だよ。皆が来てくれたから…」
「……よかった…。ゴナン…、僕より先に、死なないで……」
ゴナンの肩に顔を乗せたまま、泣き続けるリカルド。流石のゴナンも、リカルドのそんな様子に驚いている。ミリアとエレーネも、あっけに取られた表情でその姿を見ていた。
ナイフはふう、と息をついて、リカルドの首根っこを掴んで引き上げる。
「あっ、ナイフちゃん。そんな雑な扱い…」
「ほら、もういいでしょ、リカルド。ゴナンはすぐに治療が必要だし、いい加減、体がきつそうよ。病院に連れて行きましょう。本当に死んじゃうわよ。泣きたいのはゴナンの方よ」
ナイフのその言葉に、リカルドは涙を拭いて頷き、ゴナンの体をそっと抱える。リカルドの腕の中で、ゴナンは心底安心したように、スゥッと眠りに入った。
「…ああ、気を失っちゃった。息はしてる? ゴナン、ゴナン…」
「だから、大丈夫だって言ってるでしょ。早く病院に連れて行くわよ。こいつらの荷馬車を使って。さあ、サリーも、さっさとこんな場所、失礼しましょ」
先ほどから背筋を伸ばして座ったままのミリアに声をかける。ミリアはナイフを見上げた。
「…ナイフちゃん。わたくし、立ち上がれないの」
「……あら」
ナイフはかがんで、エレーネと顔を見合わせる。終始、気丈に振る舞っていたミリアだったが、腰が抜けてしまったらしい。体も震えている。ナイフは優しく微笑んで、ミリアの頭を撫でた。
「…あなたもよく頑張ったわね。立派よ。ご褒美に、私がお姫様抱っこをしてあげるわ」
そう言ってひょいっとミリアを抱え上げるナイフ。男達の処遇をディルムッドに任せ、一行は荷馬車に乗って、この郊外の小屋を後にした。
↓次の話↓
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