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連載小説「オボステルラ」 【第三章】16話「彼方に誓う」(2)


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第三章の登場人物



16話 「彼方に誓う」(2)


 「さて、まず例の鉱山の方だが、警察と軍が乗り込んで抑えた。私兵は捕らえられ、あそこに売られてきた者達は、警察で調査を受けた上で解放されるそうだ。ただ…。あそこの管理人の男はすでに逃げていた。あの人相の悪い、グレイという男だ」

「あの、とても人相が醜悪な男か……」

リカルドが思い出し、顔をしかめる。

「あそこから掘り出していた2種類の石のうち、黒い石がかなり希少な鉱石だったらしい。普通の鉄鉱石の何倍も硬度が高い金属になるそうだ」

「あれは、やはり鎧黒鉱がいこくこうか」

リカルドは、ゴナンが見せてくれた石を思い出す。

鎧黒鉱がいこくこうが国内の鉱山で普通に掘り出せるなんて、とんでもない発見だね」

「そのようだな。あの鉱山の主は偶然あの場所を見つけ、まっとうに掘って商売をすればよいものの、さらに暴利を貪ることに腐心し、挙げ句の果てに人身売買の組織と手を組んでいたようだ。しかも、掘った鉱石の多くが帝国の方に流れていたらしい」

 それを聞き、ゴナンは複雑な表情になる。そんな場所で一生懸命働いても、何か報酬をもらえたり、外に出してもらえるはずはなかった。一度ならず二度までも、耳障りの良い言葉を信じてしまった自分が恥ずかしくなる。

「様々な犯罪行為が行われた場所だから、国で差し押さえることになる。鉱山を丹念に調べた後、ツマルタ鉱山と同じように国営で運営されることになるだろう。あの黒い鉱石は硬度が高い分、加工がとても難しいそうだが、多くの量を自由に扱えるようになれば技術の開発にも繋がり、国力増強につながる。ケガの功名というものだな。これまで帝国に大量に流れてしまっている分が気になるが…」

「鉱山の主はわかっているの? あの人相の悪い男はオーナーではないのよね?」

ナイフが尋ねる。

「ああ、ユートリア伯爵という貴族だ。ただ、この数年間は行方不明だと聞いている」

「ユートリア?!」

ゴナンとリカルドが同時に声を挙げた。その名を、また聞くことになるとは…。




「なんだ? 知っているのか?」

「ああ、会ったこともある。つい数ヵ月前にね。汚職で王都を追われて、北の村…、ゴナンの故郷に屋敷を建てて隠れ住んでいたんだ。卿はつい最近、帝国に亡命したはずだよ」

リカルドが苛立たしげな表情で答える。そして暗い目になった。

「…あの引きこもりのタヌキ、いや、ブタめ…。自分では小指一本動かさないくせに、ゴナンをこんな目に遭わせるとは…」

突如、リカルドの口を突いて出た口汚い罵りに、一同は驚く。リカルドはすぐに、微笑みを戻した。

「……失礼。とても嫌な印象を抱いている奴なんだ」

「…まあ、実質的な権限は、あのグレイにあったようだ。人身売買云々も、流石に伯爵自ら手は出してはいないだろう。……ただ、帝国に入っているのなら、追うのは難しいか…」

ディルムッドは腕を組み、思案した。

「…それは警察に任せるところだな。情報だけは伝えておこう。あと、ミリア様とゴナンを攫った連中だが、ただ『身代金欲しさに、品の良さそうなお嬢様とその従者を攫った』の一点張りだ」

「はあ?」

一同が呆れたように声を挙げる。リカルドはゴナンに確認をした。

「…あの中に、ストネで卵を狙っていた連中の一人がいたんだよね?」

「うん…。それに、ミリアから卵の在処を聞きだすために攫ったってハッキリ言ってたし、俺はその拷問のために連れてこられた感じだった」

「……」

ディルムッドは腕を組み、厳しい表情になる。

「…2人にそこまで知られてしまっていたのだから、ミリア様が卵のことを話す話さないにかかわらず、あいつらは2人を殺すつもりだったのかもしれないな…。今更とぼけているのは、悪あがきにも程があるが……」

「えっ? ……ゴホッ、ゴホッ……」

ゴナンは驚き、咳き込む。ナイフも頷き、はあ、と深く息をついた。

「確かにね。本当に、間に合ってよかった…。ディルのおかげね」

「……」

ディルムッドは少し何かを考え込む。が、すぐに報告を続けた。

「…まあ、奴等が軍属なのは間違いなさそうだから、身柄は軍の方に引き渡されてさらに厳しい取り調べを行うだろう。多少は張り合いがあればいいのだがな」

そう言って、ギラリと目を光らせるディルムッド。その迫力に、一同はゾクリと体を震わせた。




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