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連載小説「オボステルラ」 【第三章】15話「強い男」(6)


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第三章の登場人物



15話 「強い男」(6)


 そのときであった。

突然、ドアがガン、と蹴破られた。すぐに大きなシルエットが2つ、小屋の中に飛び込んでくる。ディルムッドとナイフだ。ディルムッドが馬車の轍を追い(といっても、常人には見極めるのが困難なほどの僅かな痕跡ではあったが)、この小屋に辿り着いたのだ。

 入ってきたディルムッドは、両手両足を縛られ部屋の隅に座り込むミリアと、彼女を守るように立っている満身創痍のゴナンを見て、一気に怒りを噴出させる。

「…貴様等ぁっ…!」

小屋が震え軋むほどの大声で叫ぶディルムッド。全身から目に見えるかのような圧を放ち、それだけで男達はびくりとたじろぐ。丸腰のディルムッドは男の一人に襲いかかると、瞬く間に打ち伏して剣を奪った。脇でナイフも一人に飛びかかって即座に締め落とし、さらに襲いかかってきたデイジー指名男に強烈な蹴りを食らわせている。

「……あら、どこかで見た顔ね。2回もうちの店に来てくれた常連さんじゃない」

ナイフは、蹴飛ばした男に声を掛ける。デイジー指名男はちっと舌打ちをすると1人逃げようとするが、すぐにナイフは飛びつき、また締め落としにかかった。

「…く……そ」

「店の修理費払いなさいよ!」

 乱戦になるかと思いきや、あっという間にこの2人で5人の帝国人風の男共を制圧してしまった。




(……すごい…)

ゴナンはただ、2人が戦う姿に見惚れていた。あっという間に、場は収まってしまった。ナイフが部屋の中から縄を見つけ出し、皆を縛り上げ始める。

 少し遅れて、リカルドとエレーネがやって来た。そして、室内の状況を見て愕然とする。エレーネはすぐに、ゴナンとミリアの方へと寄り添った。

「…ミリア、すぐ縄を切るわ。ゴナン、ここに座って。もう大丈夫よ。止血をしないと」

一旦、ゴナンを壁にもたれさせ、ミリアの縄を小刀で切るエレーネ。男達を縛り終わったディルムッドが駆け寄ってくる。

「…ミ……」

「ディル、わたくしはサリーよ」

拘束から解かれたミリアは、床に座ったまま背筋をすっと伸ばしてそう、答える。男達の存在を意識し、ディルムッドは応じた。

「…サリー殿、ご無事ですか…」

「わたくしは大丈夫。傷一つ付けられていないわ。…ゴナンが守ってくれたから。でも、ゴナンが…」

「ゴナン…」

ミリアの無事を確認したディルムッドは、エレーネにミリアを託して、ゴナンへと寄り添う。

「…ドズ…さん……」

「…大丈夫か? 傷を見せてくれ」

ゴナンは床に座り込みつつも、未だ手を震わせながら力いっぱいに丸椅子の脚を握っていた。ディルムッドは安心させるように微笑んでゴナンの手を優しくさすると、ようやくゴナンの手から力が抜け、椅子を手放す。左手から、一緒に握り込んでいた石も転がり落ちる。そして全身をガクリと脱力させた。一気に、全身の傷から痛みが押し寄せてくる。

ナイフが小屋の水場から水を汲んできた。ディルムッドは自らの服を裂き、ゴナンの傷を洗い流して止血のために巻く。特に斬られた腕からの出血がひどいようだ。

「…顔もかなりやられているな…。目はちゃんと見えるか? 歯は折れていないか?」

「うん、大丈夫…」

「腕以外に痛い場所は?」

「…腹を、何回か蹴られて、ちょっと痛い…。あとは…、大丈夫……」

そう言いながらもゴホッと咳き込むと、口から血を吐き出す。とても大丈夫ではない様子だが、強がるゴナン。高熱もあり、表情がボンヤリとし始める。

「……よし、大きな傷の止血はこれでいいだろう。早く医者にかからなければ…」

「…お、俺……」

安心したからだろうか。ゴナンの全身が震え始めた。ディルムッドはその震えを抑えるように、ゴナンの両肩へ大きな手を優しく乗せる。

「…よく頑張ったな。すごいぞ。どうやって剣に立ち向かったんだ?」

「……椅子と、い……石…」

「……石?」

ゴナンの手元に転がっている石を見つけるディルムッド。血がべっとりと付いている。

「なんと…、これで、か…」

「……俺、もっと強かったら…。全然、ダメだった…」

「……」

ディルムッドはゴナンの両肩に置いた手でゴナンを優しくさすりながら、目線を合わせる。

「ゴナン…。弱い者は、こんな小さな石で剣には立ち向かえないものだ。それに、お前が体に負っている傷を見れば、どんな戦い方をしたかよく分かる。向かい傷ばかりだ。お前は勇敢に戦い、結果、サリー殿を守ったんだ。これは強い者の戦い方だ。前に教えたな、心の筋力だ。誰もができることではない」

「……でも、ドズさん達が来てくれなかったら、もう、どうしようもなかった…」

「でも、事実、間に合った。お前のおかげだ。それが全てだ」

ディルムッドが温かい眼差しでゴナンを包む。ゴナンは、少しだけ泣きそうな表情になった。



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