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連載小説「オボステルラ」 【第二章】6話「新しい日々」2


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第二章の登場人物



 「うん、よく似合ってるよ」

 自分があげた新しいバンダナを着けたゴナンを見て、ニコニコ顔のリカルド。洋服店を目指し、2人で街中を歩いていた。

 旅人の往来が多い街道沿いにあるストネの街は、地面は土がしっかり踏み固められていて、馬車も通りやすいように整備されている。大通り沿いは木造やレンガ造りの2階、3階建てのお店が並び、商店街の方まで行くと屋台も出ていて、昼間は夜と違う賑わいがある。最初は人の多さや建物の多さにビックリしていたゴナンも、1週間もたてば随分慣れてきたようだった。

 ゴナンは少し照れくさそうに、バンダナを触る。

「汚しそうで、いやだな…」
「だったら、洗い替えも買ってあげるから。ね。色違いのものを買おうよ」

 とことん尽くすリカルド。たしかにヒマワリでなくとも、ちょっと引いてしまうかもしれないが、ゴナンは「リカルドさんに任せるよ」と、特段気にはしていない。

「……ゴナン、念のため確認なんだけど」

歩きながら、真面目な表情になってゴナンに問いかけるリカルド。

「?」

「…アドルフさんが送り出してくれて、君は僕の所へ来てくれたわけだけど、これから一緒に旅をしてくれるってことで、よかったんだよね?」
「もちろん…」

はっと、ゴナンは顔を上げる。

「あ!…でも、お店でトップを取って、ナイフちゃんに恩返しをしてから…」
「あっ、いや、それは、なんとかするから。その件は大丈夫、気にしないで」

「…もちろん、一緒に旅するつもりで、来たけど」

少し泣きそうな顔で、リカルドを見上げるゴナン。

「ああ、違うんだ。迷惑とかじゃないからね。君が来てくれて、本当に、飛び上がるほど嬉しいんだよ、僕は」

昨晩はいろんな驚きが多すぎて、飛び上がるどころではなかったのだが。

「…もちろん僕も一緒に旅をしたいけど、それがゴナンにとってベストかどうかが、ちょっと心配でね…」

それを聞いて、ゴナンは捨てられそうな子犬のような顔をした。

「…そんなこと言われても、俺はわかんないよ。俺は、リカルドさんと…」

そう言ってうつむいてしまった。リカルドは慌てて、ゴナンの前に立ってかがみ、両肩に手を置いて、目線を合わせる。

「ごめん、不安にさせてしまったね。僕は、君を大事にしたいと思っているだけだから…。一緒に旅をしよう。そしていろんなことを見て、いろんなものを見つけよう、ね」
「…うん…」
うつむきながらそう返事をしたゴナンにニコリと笑って、リカルドはまた、歩みを進めた。

(…僕が迷っていたら、ゴナンを不安にさせてしまうな…)

また反省である。ずっと一人で生きてきて、一人で旅をしてきたリカルドにとって、このようなふれあいは初めて経験することだ。困惑も多いが、難問を解くために思案するような楽しさもある。

「しっかり準備をしないとね。ゴナンが門番さんにもらったっていう装備、あとでしっかり見せてね? 寝袋はないんだったね」
「うん」
「…寝袋は、ここの近くにあるツマルタの街で買った方がいいな。前に話した、工業と職人の街だよ。あそこなら、ほら、あの魔術の寝袋がある」
「…!」
ゴナンの表情が少し光る。寝心地の良さに特化して素材や構造が工夫された、魔法の様に寝心地がよい寝袋。北の村でゴナンが感激していたものだ。どの世界でも男子はギアやツールには弱いものである。
一見無愛想な子だけど、実はテンションがわかりやすいな、とリカルドは心の中で思ったが、口にはしなかった。

「あとは…。狩りをしながらきたんだったら、ナイフは持っているんだよね? あ、ナイフちゃんじゃなくて、刃物のほうね。ややこしいな」

「持ってないよ」

「え? じゃあ、狩りはどうやって…?」

「えーと、獲るのは罠を作ったり石を投げたりだけど…」

「ん? 石…」

「獲れたのをさばくのは、これ」

そういって、自分のバッグから取り出したのは…、鋭利に研がれた、石。

「これも、石…」




「金属のものは貴重だから。うちにあったのは、母さんが調理に使う包丁だけ」

「そうか…」

 そういえば村ではテントの金属の杭にも驚いていた。穴を掘るにも木のスコップだったし、本当に原始的な暮らしで成り立っている場所だったんだな、とリカルドは改めて思い出す。

「…じゃあ、刃物があるとかなり便利になるね、ナイフも買おう。僕は狩りはできないから、野営の時に食料を調達してもらえるのは、とても助かるなあ。あとは…、一応、武器もいるかな…?剣とか」

「…剣…?」

 寝袋以上に、ゴナンがワクワクっと反応した。表情は変わらないが、目の輝きが違う。

「…ああ。そんなに使う機会はないけど、やっぱり街の外に出ると物騒な場所もあるからね。あるにこしたことはないよ。さすがに、あの村では剣の扱いは習わないか…」
 ゴナンは無言で頷く。アドルフはどう見ても武闘派ではなさそうだし、あの村で剣術が必要だとは思えない。

「剣…」

 ゴナンの表情がさらに輝く。子どもの頃アドルフに読んでもらったことがある唯一の絵本が、王国の騎士の物語だった。その中での騎士達の活躍を、一気に思い出していた。今まで、すっかり忘れていたのに。

「…僕は学校で習った程度ではあるけど、基本くらいなら多少は教えられるから。剣も買ってあげるよ、大きい剣を買おう、一番大きなやつを買おう、ね!」

「…大きいのは俺の体じゃ扱えないから、一番安いのでいいよ…」

そう言うゴナンにふふ、と笑って、ゴナンの手を引いた。

「武器屋は明日かな…。いろいろ買わないといけないから、時間がないよ、さあ、行こう!」

↓次の話



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