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連載小説「オボステルラ」 【第三章】15話「強い男」(5)


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第三章の登場人物



15話 「強い男」(5)


「…ゴ、ゴナン…?」

 どうやって拘束を解いたのかと驚く見るミリア。ゴナンの手には、石が握られていた。北の村から大事に使っている、刃物代わりの切れ味鋭い石だ。寝室で隠れるときに、念のため寝間着のポケットに忍ばせていたのだ。

「ちっ」

帝国男は舌打ちしゴナンに斬りかかるが、ゴナンはその石で刃を受けた。

「はあ? 石?」

思わず男も叫ぶ。


しかし、直後に衝撃で石が割れてしまい、勢いで刃がゴナンの左腕に届く。さらに深い斬り傷。他の男達も一斉に押し寄せてミリアを奪おうとするが、今度はゴナンは、ミリアが座らされていた丸椅子を振り回す。

(…くそ…、先に石でミリアの縄を切れば良かった…)

熱でクラクラする頭を抱え、少しふらつきながらも、ゴナンは椅子で必死に敵の手から守る。

「…ゴナン、ゴナン…!」

「…大丈夫…。サリー」

しかし、あえなく椅子が蹴り飛ばされ、ゴナンは顔を殴られて床に伏す。ミリアは帝国男に奪われてしまった。

「…おい、このガキをやる方が、効き目がありそうだ」

デイジー指名男がゴナンを指して、他の男にそう指示する。男が2人、倒れるゴナンのそばに来た。

「…お嬢さん。サリーというのが本名か? 早く話さないと、こいつがひどい目に遭うぜ」

「…!」

帝国男の一人が、ゴナンを思いきり蹴る。ゴナンは声を上げずに苦しむ。

「ゴナン!」

ミリアの体をデイジー指名男が押さえ、ゴナンの姿がよく見えるようにする。さらに帝国男達が、ゴナンを蹴ったり、剣で傷を入れたりといたぶる。ゴナンは声を上げないが、痛みにうめき、体をよじらせた。

「やめて! ゴナン…!」

「ほら、早く話せよ。このガキが死んでしまうぞ」

「……だから、わたくしは何も知らないのよ! 話せることは何もないわ!」

よく通る声でそう叫ぶミリア。男達は舌打ちをする。

「強情なお嬢さんだ」

男の一人が、仰向けに倒れるゴナンの右手を引っ張り出し、足で踏みつけて床に固定し、手に剣の切っ先を向けた。

「この勇敢な坊やの右手からだ。指1本ずついくか? もう剣を持てなくなっちまうな」

「ゴナン…!」

ミリアが暴れて何とか駆け寄ろうとするが、男達が抑える。

「ゴナン!起きて!逃げて!」

「…う…、ゴホッ……」

ミリアの声に、ゴナンが少し反応する。

「お嬢さん、お前が卵の在処を話せばいいんだよ」

「わたくしが命惜しさに何かウソの情報を口にすれば、それであなた方は納得するの? こんなことをしても、あなた方には何の益もないわ」

怯えた様子も見せず、そう凛と言い放つミリアの迫力に、男達は一瞬、たじろぐ。

「……生意気だな、お嬢さん。気にくわねえなあ…。やはり、あんたの体に直接、聞いた方がよさそうだ…」

(ミリア…!)

ミリアの顔に、剣が向けられた。ミリアは男の目をキッとにらみ付ける。

…そのとき、ゴナンの右手を踏みつけていた男が「痛ッ」と叫んで体勢を崩し、その隙にゴナンが踏まれていた腕を抜き立ち上がった。ゴナンの左手には、先ほど割れた石。男が脛当てをつけていないのを確認して、石で脛を思い切り打ったのだ。

 ゴナンは傍に倒れていた丸椅子を握ってまた振り回す。どこからこんな力が出るのか驚くほどの勢いでミリアに付いていた男達に体当たりすると、ミリアに飛びつくように体を入れて、また背後に護った。足を縛られたままのミリアは、部屋の角に倒れ座り込む形になる。見上げるゴナンの背中が、とても大きい。

「ゴナン、ゴナン…。逃げて」

「……」

血だらけになり高熱でフラフラとしているが、ゴナンは椅子をぎっと持ち、その目線はしっかり男達を見据えていた。しかし、両手足を縛られたミリアを抱えてこの場をどう脱出できるか、何も思いつかない。

(どうしよう…。くそ、くそ…、なんで、熱なんか出てるんだ…。もっと、俺が強かったら…)



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