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連載小説「オボステルラ」 【第三章】17話「盃」(5)


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第三章の登場人物



17話 「盃」(5)


 リカルドは話題を変えた。

「ディル。君はミリアがなぜ城を出たのか、何をしようとしているのかに、あまり気を払っていないように見えるけど。それに、ミリアへ城に戻るようにと言わなくなったね?」

「ああ、そうだな。今の私の役目は、ミリア様が何らかの願いを叶えるまでお護りすることだ。ミリア様の意思を尊重する。それが第一であり唯一であるから、特に知る必要はないかと思っているのだが……」

なんともくっきりはっきりとした思考回路である。しかしリカルドは、うーんと腕を組んで思案した。

「……とはいえ、知っておいてもらったほうがいいと思うよ。一応、旅の仲間、になるんだからね。僕らがなんでこんなメンバーで旅をしているのかも…」

「仲間…」

その言葉に、ディルムッドは自嘲じみた表情を浮かべた。

「…ふふ。仲間、などと生ぬるい関係の中に、我が身を置くとは思わなかったな」

「…ディル、まだ27歳って言ってたよね。騎士の生き方とは、なかなか厳しいものなんだね。僕の何倍も生きてきているような面持ちだなあ……」

ほうっと呟くリカルドに、フッと我が身を振り返るような微笑を浮かべるディルムッド。

(こんな風に、自由な空の下で仲間と旅をする…。アーロン殿下が夢見ていたことを、まさか私がミリア殿下と叶えることになるとは…)

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 ーーーさて、一通り、ミリアのこれまでのいきさつを教えてもらったディルムッド。たいそう頭を抱えている。

「…城の自室から巨大鳥に飛び乗り、3ヵ月も1人で野山の草や実や水を口にし、1人で街を彷徨い、帝国軍人に絡まれ、飲み屋の貸部屋に一人で泊まり…」

「貸部屋の件は、リカルドの差し金だけれど」

「……そもそも、いとも簡単にミリア様に家出をさせてしまうとは、城の警備は一体、どうなっているのだ…」



彼が想像していたよりもはるかに、ミリアはやんちゃをしていたようである。わなわなと拳を振るわせるディルムッドに、慰めるように声を掛けるリカルド。

「まあまあ。彼女は自分を『不運の星』の持ち主だなんていってるけどさ。そんなの関係なく、今日この日まで無事だったのだから」

「……ああ…。私も『不運の星』などは信じていない。アーロン殿でん…、兄君も『ばかばかしい』と仰せだった」

周りを気にして王子の名を伏せるディルムッド。しかし、3人の近くには客はいない。マスターが配慮して、席の周辺の人払いをしてくれているようだ。

「そうなんだね」

「……とはいえ城内では、アーロン殿下の『幸運の星』とミリア殿下の『不運の星』を信じ込んでしまっている者が、少なくなかったのも事実だ。その筆頭が王妃様であられたから、なおさら…」

「その、本物の影武者のサリーさん? なんかややこしいわね、その彼女が
『本物の方の王女』であってほしいと思っている人も?」

「ああ、そうだな…。愚かなことだ」

ふう、とため息をつくディルムッド。

「しかし、むしろ貴殿等と偶然、出会えていたことは、ミリア様にとって恐ろしく幸運なことであろう。ゴナンが雑踏の中からミリア様を見つけ、リカルドがいち早く王女であることに気付き保護し、貴族の令嬢であるエレーネが付き添ってくれ、そして、かの『ミラニアの戦士』が護衛についてくれるとは」

「まあ、そうだね。……ん? 『ミラニアの戦士』?」

聞き馴染みのない言葉に、首を傾げるリカルド。ディルムッドは不思議そうにリカルドに説明した。

「ナイフはミラニアの戦士だろう? そのブロンズの肌に、あの体術。見れば分かる」

「いや、ご存じとばかりに言われても…。格闘術のことは流石にわからないよ。そうなの?ナイフちゃん」

少し心配そうにナイフを見ながら尋ねるリカルド。その目線に気づき、ナイフは呆れたような目線を返す。

「ええ、そうよ。私の故郷はミラニアよ。戦士として戦場にも出ていたわ。別に隠しているわけではないから安心して。ただ、あなたは私の素性に全く、全然、なーんの興味も持っていなかったようだから、ご存じない様子だけど。聞かれなかったから教えてないだけよ」

「ははっ。そうだね。これまで聞こうとしたこともなかったな、そういえば。僕のことは洗いざらいしゃべってしまっているのに」

ナイフの秘密を暴いてしまったわけではなかったことに、少し安心したように微笑むリカルド。基本的に自分本位な男なのよね、とナイフはさらに呆れ顔だ。

「それにしても、ミラニアか…。また、ややこしい場所の出自だったんだね、ナイフちゃん」

「そうね…。まあ、こちらの王様のおかげで、今は落ちついてるけど」

ミラニアとは、ア王国北部にある、帝国との国境に接している地域の名だ。その立地の特異さもあり、何かと両国間の争いに巻き込まれてきた地域である。

「しかし、ミラニアの戦士の中でも、ナイフの実力はかなり高い、最高レベルと見受ける。戦乱の時には敵であったことも味方であったこともあるが、あなたほどの戦士はいなかったように思う」

「あら、でも、どこか同じ戦場にいた可能性もあるのかしら?」

腕を組んで感心するディルムッドに、ナイフはまんざらでもない表情だ。が、ふと気付く。

「……ていうか…、ミラニアが敵であったことも、って、それは10年以上前の話よ。あなた、27歳と言っていたわよね。一体、何歳から戦場に出ているの?」

「……初陣は13…、いや、12歳だったな。家の方針で、ショーン家の男子は早い内から最前線へ放り込まれるのだ。嫡子である兄上も同じだった」

「はあ…」

「とはいえ私は少年期から体が大きかったから、特に早く現場へとられたが。兄上は15歳だったかな…」

驚く二人。そしてリカルドは少し思案する。

「……ディル…。その、初陣が12歳だとか15歳だって話、ゴナンにはしないでもらえるかな。あの子は君にとても憧れているから、『自分も戦場に行くべき年齢だ』って変なベクトルに気持ちが行きかねない」

「…そうね…。ゴナンなら大いにあり得るわね」

「そうか…。わかった…」

ディルムッドはふふ、と笑いながら承諾する。





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