見出し画像

半世紀共に過ごした桜。そこに伐採計画が。「また来年も・・・」70代女性が思いを語る。


 「日本人は桜に対する特別な思いがありますよね。桜の木へのこだわり愛着というか。ずっと長年、そばにあった桜であればなおさら」

 高橋圭子さん(仮名・70代女性)は30代の頃、結婚を機に横浜市旭区に引っ越してきた。豊かな自然に惹かれ住み着いたその土地は開発により住宅の多さが目立つようになった。
 それでも1本の大きな桜の樹だけは生き残っていた。

「地域住民の間では『あの白い桜』で知られています。桜の色は白くて、多分ソメイヨシノではないんでしょうね。
とにかくホッとするんです、木そのものを見ると。安らぎというか」

 桜は地面につきそうなほどに枝を広げる。春は見事な桜を見せつけ、夏には涼しさを届けていた。「あの白い桜」が満開になると友達を誘い散歩に出かけ、写真を撮り、他の住民らと交流を深める。
もうすぐ桜の季節。「あの白い桜」を待つ高橋さんのもとに伐採計画の知らせが届いたのはその頃だった。

「まさか。そんなわけない」

あわてて桜の木を見に行った。間も無く伐採をすると知らせる看板が立てかけられているのをみて、現実なんだと知った。跡地には住宅が建つという。

「やっぱりさみしいですよね。周辺の緑がなくなっていたので貴重な場所でした。これも切られると殺風景な場所になる」

 かつて、街には桜の木がいたるところにあった。「あの白い桜」ほど立派ではなかったが、道路のそばなどに点々と存在していた。しかし今ではそのほとんどが姿を消した。唯一残る大きな桜。間も無く48歳になる長男が生まれる前から、成長をいつも見守ってくれた桜だった。
屋根が立ち並ぶ街に、高橋さんは「今はつまらないわね」と語りかけた。
 
「あの桜切られちゃうんだって」
看板が設置されたから近所の人との世間話はこの話題で持ちきりだった。あの桜だけは切って欲しくないとみんな同じ願いを抱いていた。すると、誰が言い出したのか、「桜を守ろう」と大勢の地域住民が立ち上がった。署名活動がはじまると、1000筆近い署名が集まった。それを市へ提出すると、市の職員、大学の准教授、緑化専門家までもが視察に訪れ、大きな活動へと発展を遂げる。この街以外の人も、貴重な美しい桜を守ろうと動いたのだ。
 

 今年は新型コロナウイルスで歩きながらの花見となった。来年は、桜の下で住民たちが写真を撮ったり世間話をする“いつもの花見”ができることを願っている。

2020年4月取材

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?