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三者面談

私がホームセンターで店長をしていたときの話です。

あるとき、隣接する中学校の男子生徒による集団万引事件が発覚しました。

彼らが万引きしたものを調べると、文具やお菓子だけでなく、なかには化粧品や工具といった、明らかに必要だから万引きしたわけではないと思われるものも散見されたため、動機を聞いたところ『万引きゲーム』だったことが分かりました。

『万引きゲーム』とは、集団で万引きをし、誰が一番高い物を盗ってこられるかを競うというもの。

私はすぐに学校へ連絡し、後日、保護者同伴で万引きした商品の支払いに来るよう伝え、生徒たちも一旦家に帰しました。

翌日、万引きをした生徒一人一人が保護者と一緒にお店にやってきました。

レジで会計を済ませると、そのまま一組ずつ事務所へ通しました。

席に案内すると「この度は、大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ございませんでした」と、どの保護者もまずはじめに謝罪の言葉を口にされました。

一通り、謝罪を聞き終わると、私は保護者にこんな話をしました。


私にも子供がいまして、それはそれは可愛いです。
皆さんもそうでしょうが、我が子に勝る可愛いものはありません。
それ故に、我が子にはこれでもかというくらい愛情を注いで育ててきたつもりです。
おそらくお母さん(お父さん)もそうでしょう。
まさか、万引きをするような子になるようにと思って育てたことなど一度も無いと思います。
ですが、結果としてこのようなことになりました。
これまで愛情を注いで育ててこられたことを否定するつもりはありませんが、それでもやはり何か間違っていたのだと思います。
子を持つ親として、このようなことを申し上げるのは本当に心苦しいですが、それでもあえて言わせてください。
子供は、親や大人が育てたとおりに育ちます。
結果として、このようなことになったことを、まずは保護者様がしっかり反省してください。


そこまで言うと、次に私は万引きをした生徒の方へ向き直り、こう話しました。


そのうえで、一番悪いのは君だよ。
自分がやってしまったことの重大さを受け止めて、しっかり反省しなさい!


ここまで言うと、保護者も生徒も目に溜めていた涙が溢れて泣き出します。
そこにたたみかけるように、私はこう続けました。


そのうえで、君がした一番悪いことが何だか分かるかい?


質問された方の生徒は、何と答えれば良いのか分からずに口ごもっています。
そこで、私は再び保護者に向き直り、こう続けました。


お母さん(お父さん)、お子さんの名前にはどういう意味があるのですか…


この言葉を耳にすると、殆どの保護者は号泣し始めます。
そして、涙ながらに『○○な人に育って欲しいと思い…』等と、我が子の名前の由来を語ってくれました。
隣に座っている生徒の中には、初めて自分の名前の由来を聴く生徒もあり、彼らの目からも大粒の涙が溢れていました。


君がした一番悪いことは、お父さんお母さんが一生懸命考えてつけてくれた名前に反する行動をとってしまったことなんだよ。
私も子供の名前を考えるときは、心の底から子供の幸せを願って、ああでもない、こうでもないと何日も何日も考えたもんだよ。
それこそ、産まれてくるずっとずっと前からね。
それなのに、君はたかだかゲームのために、お父さんお母さんの思いを踏みにじってしまったんだ。
それがどれだけ大変なことなのかを、今日、しっかり考えなさい。
大丈夫。
君は今こうして涙を流すことが出来ているじゃないか。
それに君はまだ中学生だ。
これから幾らでもやり直せるよ。
お母さん(お父さん)、今回、このようなことになってしまいましたが、寧ろ今で良かったのかもしれません。
これが社会人になってからでは、ただの万引きで済まされません。
場合によっては、このことが原因で仕事を辞めなければならないかもしれません。
ですが、お子さんはまだ中学生です。
まだまだ幾らでもやり直しは効きます。
これを良い機会だと捉えて、今夜、もう一度家族で話し合ってください。


そこまで話すと、私は親子を帰しました。
彼らがやってしまったことはけして許されることではありませんが、自分の名前に込められた親の愛情を知り涙を流せる彼らには、まだ心の美しさが残されているのだと思えました。
人は過ちを犯すときがあります。
過ちという程で無くても、失敗をすることは誰しもあることです。
大事なことは、そこで立ち止まるのではなく、どう改善していくのかだということを、帰って行く親子の背中を見つめながら思ったのでした。

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