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足元物語

とある日。
夫と行ったホームセンターの駐車場。

日に照らされて、それは生きていた。

私はテンション高めに夫に
「みてっ!すっごいド根性で生えてるっ!!」
と報告した。
そしてボソッと「撮りたいぃ…」と言った。

今回の被写体のド根性は、普段興味を持たない夫の胸にも少しは刺さったらしく、撮る時間を与えてくれた。(いや、夫の許可無くとも撮ってるけどね。空気感ね。)
本当に駐車場なので、二枚程度撮ってやめる。
袋を抱えた大人がホームセンターの駐車場でしゃがんでスマホを雑草に向けている姿は、なかなか目立つのだ。

私以外に誰が撮るというのだろう。

でも、見れば見るほど美しい。
ところどころ、紅葉した葉も、落ちている葉も、日を浴びて出来た影も。

別れる(普通に帰宅するだけ)のが、惜しくなる。
許されるなら、様々な角度、なんなら這いつくばって見上げるようなショットなど撮りたいくらいだったが、先程も書いたように駐車場であり、しかも人の多い時間帯のため、諦め車に乗った。
振り返って『元気に生きろよ。踏まれるなよ…』と思う。


撮った、たった二枚の写真。
ぼーっと眺める。


私の脳内では1cmに満たないサイズの人達が、何もない大陸の片隅に生える大きな木を目指すストーリーが始まる。

少し加工して雰囲気を出そうと頑張る。


残雪の場所(白線)にはクレバス(ヒビ割れ)があり、小さな人達は知恵を絞ってそこを越えてくるのだ。
木より更に先には城壁(車止め)がある。まだ親交のない北の国の城壁だ。

閉ざされた北の国の近くに静かに立つ一本の木には伝説がある。
その木の下で、紅葉した落ち葉を拾い持つと、不幸から身を護ってくれるという伝説。
だから、冒険者は少し遠回りでも、まずこの北の国の近くの木を目指す。
雪が溶け始めた時だけに近づけるのだ。


そんな事をサラサラと考え出す。
アスファルトは溶岩っぽいから、北の国は溶岩地帯で、地熱を利用して生きているのかもしれないとか、だから、周りに他の植物はないのにあの木は不思議と立ってるので伝説が生まれたんだなとか、とにかく沢山思いつく。

なんの役にもたたないけれど。

私はそういう、なんの役にもたたないことが得意なのだ。


しかし、写真の子は本当になんなのだろう。
あんなところにド根性で生きている。
ホームセンターのガーデンコーナーから種がこぼれたのだろうか?

あんなに綺麗なのに、誰も立ち止まらない。
なんなら、あることさえ気が付かない。
柔い陽の光をうけて少し透明感のある葉っぱや、しっかりとした茎が美しく光っていた。

たったそれだけ。
たったそれだけの景色に心はこんなに動く。


だから、足元の景色もたまに見てほしいな、なんて思う。

足元は何時だって美しくて、儚い。
二度と同じ花や草や生き物には会えない。
同じに見えても、命の短い彼らに何度も長い期間会うことは難しい。
その一瞬をみたということは、実は凄く尊いのかもしれないと、私は思っている。




物語が生まれたり、心が動く絶景があったり、足元はとても豊かである。
あなたが足元をみた時、そこに広がる世界がありますように。











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