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小説:『想うもの』010

これは 小さな者の 小さな想いの物語。
あなたには 「想い人」が 心の奥にちゃんといますか?


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いつもだったら 地中で目を覚ます時を迎えても、 私の意識はまだ小さくまぁるい塊だった。何も聞こえず 何もみえず、何の感覚もない まぁーるいかたまり。
自分の心の声のみが 心の中で響き渡る。
今はただ じっと何も考えずに ただじっと。それが良い。それで良い。
今 何か考えたら、この塊さえも消えてしまいそうだから…。私は強い 強いから だから じっとする。暗闇が いつまでも此処にいても良いのだと こんな私を受け入れてくれていた。
ただ動かずに そこにいる事が 今は一番心地が良い…理由はそれだけで十分だった。それ以上もそれ以下もない 心地よいから此処にいる…それだけで…。喉も乾かず お腹も減らず 恋しくもなく 寂しくもない。喜びも 悲しみも 嬉しさも 楽しさも 何もない。私だけがポツっと存在するだけの真っ暗闇。
それで良かった。

長い月日が流れ、まあるい塊に角が生えてきた。少しずつ土の感触が何処からか流れ込む。暖かい…久しぶりに感じたものは 暖かさだった。何も感じずにいた心地よさから抜け出した この時 待っていてくれたのが 暖かさであった事 生まれ変わった時の初めての感触 … 大切な感触。
温かみは 沢山の感情を連れてくる。
ぬくもり 優しさ 尊さ 幸せ 安堵感 愛しさ 喜び 慈愛 愛着 親切み 暑さ 愛情 余熱 感謝…そんな感情だけが 今の私の中に存在する。とても優しく 嬉しくて 愛おしいこの気持ち。他には何もいらない とそう思えるほどに私は満たされていた。
そんな感情の渦の中心に 光があった。暖かい色を放つ光は 私の真ん中で 揺るがない強さで光り輝いている。温かみしか知らない私は 何の疑いも不安もなく それに手を伸ばした。
触れた瞬間 溢れてきたのは ”想い人”に 出逢った時の 美しい温かみだった。他には何もいらないと、この人だと感じたときの強い愛おしさ…それは底知れぬ勢いで 煌々と暗闇を照らしていった。
綺麗だった。辺りが晴れていく様は 見とれてしまう程に とてつもなく綺麗だった。これが自分の心の中心…これが私の強さの源で、ここから私は また始まる。私の”想い人”への思い…それを信じて 私はまた始まれる。

見返りもいらない。綺麗なままでいてくれなくてもいい。
彼の気持ちが変わってしまっても、 彼の記憶から消え去ってしまっていてもいい。
自分の 彼への変わらぬ気持ちは ここにこうして存在している…自分の気持ちだけを信じて 始められれば それでいい。

今 彼に会いたい…。

何が起きようとも どんなことを目の当たりにしようとも…どんなに辛くても 悲しくても 傷ついて ずたずたになっても…私の心から 彼を消し去ることは 出来ない。その事実を自分自身で 理解し、自分自身を認めてあげた時… 本物の”想い人”を持つ存在になれた気がした。
本物の 彼を”想う者”になることが出来た そんな気がした…。

私には あなたじゃなきゃダメなんです。

私は小さな小さなフキノトウ。地中深い 真っ暗闇の中で あなたを想う自分を見つけた。
もう大丈夫。もう揺るがない。彼を想う 自分の気持ちだけには これほどとない自身がある…大丈夫。
私は この日を境に 暗闇から抜け出した。


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本日のバックグラウンドミュージックは ノート友達のひろゆきさんのこちらの記事に載っていた

Sigur Ros の Untitled 3 でした。


そして今回の音声配信はこちら


今までの物語は こちらのマガジンからお読みいただけます:)
もし読んでいただいて、率直な感想をお聞かせいただければ嬉しいです。

第一話はこちら


本日を持ちまして、子供達の長い3か月の夏休みが終わりました:)
今週はまだ午前中授業ですが、来週からは自分のペースが戻ってまいりますので、皆さんの所にお伺いできるようになると思います:)
この3か月間、コメント見落としやなど 色々あった中、
それでも優しく支えてくださってくれて 本当にどうもありがとうございました:)


七田 苗子




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