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小説 『想うもの』:005


音声配信の最後でご紹介したバックグラウンドミュージックの詳細は最後に書かれておりますのでみてみてください。

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ー ”かわいいねぇ!!!”

ハッとした。張ち切れんばかりの笑顔で ニカっと笑いながら彼が言った。
屈託のない その笑みから零れ落ちた一言が私に向けられたものだった事に気づくのに 何秒かかっただろうか。
生まれて初めて可愛いと言われた気がする…含み笑いをしていた私の中に 一転して 恥ずかしさが一気に流れ込んだ。今まで美味しそうだとか 綺麗な緑色だとか 誉め言葉をもらったことはあったけれど、一度たりとも 可愛いと言われたことはなかった。これが他の人であろうことなら ただただ嬉しく喜べただろうに、よりにもよって 初めてを私にくれた人が 彼だなんて…恥ずかしい、でも とてつもなく嬉しい。ごちゃごちゃになった気持ちを抱いた私をよそに 彼はじっと私を見続けている。その視線で私をすべて見透かされているようで またまた恥ずかしくてたまらなくなった。
熱っぽく赤らんでしまったせいか 薄紫色の外衣が 一枚 はらりと少し開いてしまった。
あっ…!! 今まで一生懸命固く閉じていたのに…恥ずかしさと動揺が入交り 目が潤んでくる。もう摘んでもらえないかも知れない…不安が広がり ぷつっと糸が切れた瞬間、涙が溢れだした。

ー ”あっ!!”

彼が更にその目を丸くしながら言った。
ー ”このフキノトウ、可愛いって言ったら照れてるよ!!”
いたずらっぽく口を横に伸ばしながら…

どうして…どうして分かったの… 私はちいさなフキノトウで ここを動くことも出来なければ 言葉だって発せられない。あふれる涙も 人の目に写つらなければ、 高鳴る鼓動だって 人には聞こえ無い。恥ずかしさに埋もれる この姿だって 彼には伝わらないはずなのに。。。

なんで?どうして? 嬉しい ! ありがとう。

前よりもずっと大きな涙の粒がわんさか 私を滑り落ちた。


ー ”この子はね、女の子なんだよ。向こうの方にあるのが男の子だねぇ。
 花がすこぉーし違うんだよ。蕾でもちゃーんと可憐だろう?”

彼は一生懸命私を観察しながら言った。
ー ”うん。かわいい!”


この日、私は彼の暖かい左手で摘まれ ”おばあちゃん”のいつものビニール手提げに入ることなく 彼の手の中に握られたまま 二人が帰路につく道のり 幸せの中で意識をなくした。
今まで生きてきた中で 一番幸せなひと時だった。とても とても 幸せだった。彼の手から伝わるぬくもりは 今でもずっと心の奥に 大事に大事に しまってある。


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そして、本日の音声配信にて使用したバックグラウンドMusicは、ノート友達のさりなさんお勧めアルバムの中から2つ、
The Charm Park の ”Bedroom Revelations”より 「Until you fall asleep」と 「In Heavenly peace」でした。是非彼女のページでフルアルバムをチェックしてみてください。

音声配信はこちらからお聞きになれます:)今日は短めだったので、つまずきが最小限…だと思います(笑)。…あっ…”可憐”を”かわいい”と読んでしまった気がする…聞き直すのが怖いので、間違っていたらごめんなさい。



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