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ショートショート:「いろえんぴつの人」


これはノート友達のペンギン人さんの2行ホラーから作った、
心温まるお話。コラボ作品です。


「いろえんぴつの人」



ぼくは みんなとちがうんだ。

思い出せるだけの記憶を引っ張り出しても、
どんなに時をさかのぼっても、
一番初めのぼくの記憶は みんなと違うと感じた事だった。

公園のはしっこに ぽつんと座ると
同じくらいの友達が 汗をかきながら笑っている。

おにごっこ。
ブランコ。
てつぼう。
すなあそび。。。

あんなに笑って どんなに楽しいのかな。。。

団地の上の窓から ピアノの音が流れてくる。
へたくそな「猫ふんじゃった」…でも、弾いている子は今
どんな顔をして 鍵盤たたいているのかな。。。

楽しそうに跳ねるピアノの音が なんだかぼくには痛くって
”家に帰ろう” そう思った。



ぼくは みんなとはちがうんだ。

みんなとちがう… そっと両手を開いて じっとみる。

ぼくの両手には10本の いろえんぴつ が伸びている。
青 赤 黄色 緑 ピンク 黒 白 オレンジ 黄緑 水色
みんなとおなじ指…じゃない。

おかあさんが 何も触っちゃいけないよ。

おうちに帰れば なんでかわかる。
まっ青な時計に、まっ黄色のお皿、トイレはぼくが使うと毎回色が変わるんだ。
いろんなものが いろんな色に染まってる。

ごめんね。

そういうと ピンク色のおかあさんが悲しそうに笑っていうんだ。

ぜったいお友達をさわっちゃだめよ。


こんなゆび…いらないや。。。
かなしくて かなしくて
えんぴつけずりを とりだして ぼくのえんぴつを差し込むと
えんぴつけずりが 緑になった。。。
涙がわぁーーっと流れてきて いっぱいいっぱい泣いた。




あめふり後の みずたまりの午後。
おかあさんが ”にじがでてるよ”って教えてくれた。
まっ赤な窓から見えた空の虹が とってもきれいで もっと近くでみたくなった。
みずいろと きみどりいろの長靴を履いて 公園へとあるきだす。

虹はどこまで追っても遠くにあって なかなかたどり着けなくて
手からのびた いろえんぴつをカチャカチャと合わせて音を出す。

ぴちゃぴちゃと足音が後ろの方から聞こえてきて、
ぼくはあわてて ぎゅっと腕をくんだ。

さわっちゃ だめ。
さわっちゃ だめ。

小さな女の子が トタトタと走ってゆくと その子のピンク色の長靴が
みずたまりに写って 優しい気持ちになったけど
ぼくの手のなかには いろえんぴつが10本にぎられたままだった。


とおくまでかけてった 女の子が ばちゃっと転んだ。

あっ!!!
だいじょうぶかな?いたくないかな?

ぼくには何にもできなくて、優しい気持ちが一気にさみしさに変わっていった。
わぁーーーんと響く女の子の声にぼくは とおくから

ごめんね って呟いた。


そうしたら
遠くにあったはずの虹が ふぅーっとその子にかかったんだ。
道の角から黒い帽子をかぶった人が 女の子に話しかけてて
ちょっとすると おんなのこは
”あーがと”っておおごえでお礼を言って またおもいきり走って行った。

とおくから 黒い帽子のひとが僕を見てほほえんで
ぼくのほうにいっぽいっぽ近づいてきた。

だめ!!ぼくのちかくにきちゃ だめ!!

それでも 黒い帽子の人は 近づいてくる。と
空の虹も ぼくの方にちかづいてくる。

え。。。


やぁ。きみも「いろえんぴつの人」だね。

やさしい笑顔と一緒にさしだされた 右手には 
5本のいろえんぴつが伸びていた。



それから 「いろえんぴつの人」とぼくは 公園にいったんだ。
もちろん そらの虹も一緒に。

「いろえんぴつの人」は僕にこう言った。

私もきみも みんなとちょっとちがうんだ。
でもね、この手は みんなを幸せにも出来るんだよ。

ぼくにはよくわからなかった。

でも、ぼくはみんなみたいにあそべない。
ぶらんこにのったら ブランコも色に染まっちゃうし、おにごっこ 僕が鬼になってみんなをおいかけたら、みんなが色に染まっちゃう。。。
おかあさんも そまっちゃったもん。

ぐっとこらえてた涙がぽろっとこぼれると、
「いろえんぴつの人」はふっと笑ってこういった。

色って不思議でね、心までも色で染める事が出来るんだ。


「いろえんぴつの人」が辺りを見回して、一匹の子猫をベンチの下にみつけだした。
そっと子猫に近寄ると、子猫を手の上にのせて ぼくの目の前にさしだした。

こんなに小さな子猫…一人ぼっちで 今どんな気持ちだか わかるかい?

どろだらけになって ぷるぷるとふるえるちいさな子猫。

さみしくて こわくて かなしいんだとおもう。。。

ぽつりとそう呟くと 「いろえんぴつの人」は ”うん”と優しくうなずいた。

君は 心がちゃんと読める子なんだね。
そう、この子猫の心色は今 くすんだ黒っぽい色なんだ。

この子猫を想ってごらん。一生懸命 おもってごらん。
君はこの子の心を 何色に染めてあげたいかな?

ぼくは 小さな女の子の長靴色を思い出した。

優しいピンク色!!!

「いろえんぴつの人」は そっと僕のピンクのいろえんぴつをもちあげた。

子猫を想いながら そっと触ってあげてみて。

でも、、、おかあさんが なにも触っちゃダメだって。。。

「いろえんぴつの人」はふふっと笑って言った。

私がどうやって あの小さな女の子を笑顔にしたと思う?

小さくウィンクしながら、僕のピンクを子猫に近づけた。

子猫をちゃんと想うんだよ。。。

ぼくは目を閉じて いっぱいいっぱい子猫の事を考えた。
この子猫が 元気いっぱいに走り回って、たのしく跳ねまわれます様にって。

にゃーーーー。

そっと目を開けると、泥だらけの子猫は どろだらけのままだった。
ピンク色にもそまってはいなかった。

けど、子猫は笑ってにゃーにゃー言いながら、ぼくの色鉛筆に小さな体をこすりつけて、ごろごろと音を出していた。

君のいろえんぴつが 子猫の心を染めたんだ。



生まれて初めて 泥んこ色のままの子猫をやさしくなでた。
べとべとで、毛がこんがらがって、泥臭い子猫を
長い間 なで続けた。。。
ぼくの涙で 少しはきれいになったみたいだったけれど
それでもやっぱり いつまでも泥んこ色が うれしくて うれしくて。


「いろえんぴつの人」は僕に色々教えてくれた。

一生懸命我慢している子には 青色をあげて いっぱいいっぱい涙をながさせてあげるんだ。
頑張りすぎている人には 優しい黒色をあげて ふっと落ち着きをあげるんだ。
勇気がない人には 赤色をあげると 前を向いて進めるようになるし、元気がない人には 夕陽の様なオレンジをあげるんだ。
やさしさ色に、休憩色。晴れる色に、涙色。安心色に まっさら色。

「いろえんぴつの人」は10個の色で 沢山の色を作り出すことが出来る事も教えてくれた。

君の心を信じて色を混ぜてあげなさい。

「いろえんぴつの人」が 頭上の虹に色えんぴつを伸ばしてつかむと
ぼくの頭に ふわりと虹を分けてくれた。

君もわたしも みんなとちがう。
君も私も 「いろえんぴつの人」なんだ。


あたまの上に乗っかった いままでどこまでも追いかけていた虹。
いつだって ぼくの手の中にあったんだね。

もういかなければ。。。

そういった「いろえんぴつの人」は最後に ぼくの手を握ってこういった。

沢山の虹を 人の心に描きなさい。


だんだん小さくなってゆく「いろえんぴつの人」を ぼくはずっと見ていた。
その姿が小さくなった時 「いろえんぴつの人」は黒い帽子をぱっととって、おおきなおじぎをしてみせた。
ちょっと恥ずかしかったけど、ぼくも ぼうしがあるふりをして おおきなおじぎをして見せた。



あれから何年もの月日が経って、僕はいまだにこの公園にいる。
子供達は ぼくを「虹のおにいさん」と読んでいる。

足元には あの日出会った 子猫のマッド。

公園を見渡すと、僕がいつも座っていたあの隅に
小さな男の子がひとりぽつんと座っていた。

にゃー。

ふふっ、そうだなマッド。彼のもとに行ってみようか。


ぼくらはすっと立ち上がり 男の子へと一歩一歩歩き出す。
オレンジ色と ピンク色の いろえんぴつを
黒い帽子にトンっと鳴らしながら…





おわり。




今回、ノートお友達のペンギン人さんからの素敵なお誘いで この物語を作らせていただきました:)もととなった、たった2行の掌編小説はこちら!

ペンギンさんの作品はホラーなのですが…私が読むと なぜか こんな物語が出来てしまう。。ふふふ。いろえんぴつと指が こうして形を変えて2つのまったく分野の異なる物語を作りだせるだなんて、本当に素敵な経験をさせていただきました。
ペンギン人さん、今回私にやらせてくださって本当に有難うございました:)

ペンギン人さんは エッセイや小説などを手掛けていらっしゃいます。
「LINEの生活」という 私たちの携帯画面の中の世界の物語。こちらもスピンオフを是非とおっしゃっていただいているので、時期を見て書いていければなと思います:)



最後までお読みいただいて ありがとうございました:)
皆様も 「いろえんぴつの人」に公園で出会えます様に:)


七田苗子





 

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