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健常者優位主義の見えない世界

 「本を読むなら紙か、電子か」は時々メディアで特集されたり、日常の会話にも時々出てくる話題ですよね。
 私も紙の本が嵩張るから、数年前にKindleを購入しましたが、あまり十分に活用できていないまま置いています。逆に紙の本にたくさんメモしたり、ページをめくったりする方が真剣に本に向き合っていると思いました。 
 しかし、最近捲った『ハンチバック』に頂門の一針をされました。

「こちらは紙の本を1冊読むたびに少しずつ背骨が潰れていく気がするというのに、紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣い電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。…文化的な香のする言い回しを燻らせていれば済む健常者は呑気でいい。出版界は健常者優位主義ですよ」

『ハンチバック』市川沙央

 「本を読むたびに背骨が曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ」、「身体は生きるために壊れてきた」重度障害を抱えている主人公(作者本人も)方が、本を読むという健常者にとってごく自然で簡単なことでも、莫大なエネルギーを使っています。なのに、健常者が呑気に、紙の匂いが好きとか、選択肢の贅沢さをアピールしているような発言しています。確かに腹立ちます。本の中では出版界は明確に矛先を向けられていましたが、読者も、図書施設も、健常者優位主義(マチズモ)ではないでしょうか。読書が一つの例で挙げられていますが、この世界の凡ゆるところはマチズモとも言えるように感じます。
 『ハンチバック』は、障害者の就労、性、生育、ジェンダー、福祉、存在意義など様々の問題が包含されていて、健常者を含める読者に普段では見えずらい世界を呈しています。
 日本で生活するとあまり障害のある方と接する機会が少ないですが、学生の時に講習を受けた福祉社会学の授業の一環で障害者施設に訪れたことがあるのを思い出します。手作りの置物を作ったりして収入を得ている障害の方が作業しているところを見学させてもらいましたが、「浄化」されて閉じ込められた環境の中の彼女/彼らが、まるで健常者と違う世界の中に生きているようです。障害者施設から出れば、何事もなく違う世界にまた戻ったような感覚でした。
 日本では障害者雇用率制度があり、「障害者雇用促進法において、企業に対して、雇用する労働者の2.3%に相当する障害者を雇用すること」を義務付けています。時々子会社を設立して障害者を「まとめて」雇用している事例は見ますが、これもまた障害者をある特定の環境に置いて、見えないようにしているのではないかと制度の本意を疑ってしまいます。
 多様化している世界、マチズモにならないように気をつけていきたいです。
  



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