復讐

『復讐』

「『フクシュウ』って、したことある?」

他愛もない会話の中で、いきなり妹が聞いてきた。

「『フクシュウ』って、復讐?」
「そう。」
私は考えた。

「実は、あるねん。一回だけ。」
「マジで!?なになに?」
「高校生のころ、あまりにもムカついて夜中に電話してやった!」


そう。一度だけある。
どうしても許せないことがあり、私は悩んだ末、仕返しをすることにした。若気の至りである。
さて、仕返しは何をしようかとあれこれ考えたのだが、
大それたことはできない。
自分にできる最大の嫌がらせは、夜中の電話だった。


深夜近くなった23時半過ぎ。
私はこっそり電話の前に座った。
決心したはずなのに、いざ電話を前にすると、
心臓がバクバクと早鐘を打ち始めた。
何度もダイヤルを押そうとするのだが、怖くてボタンが押せない。
ダメだ!決めたことだ!負けるんじゃない!
やっとのことで決心がつきダイヤルを押した。


「トゥルルルル!!!!!!」


ひぃーっ!!!


ビビりながらかけたせいか、呼び出し音が想像以上に大きくて飛び上がった。


「ハイ。もしもし。」


出たーっ!!!!!あやつだ!
何でこんな早く出るんだ!!!
心の準備ができていないではないか!

うぅぅ。。。
どうしよう。。。
・・・そうだ!無言だ!
めまいを起こしそうなほどの緊張感の中、
私は必死に無言を貫いた。


「あれ?もしもーし。」


ガチャン!!!

緊張に耐えきれず、5秒と待てずに電話を切ってしまった。
運動もしていないのに、ゼーハーと呼吸が荒くなっている。


あ~怖かった。
オシッコちびるかと思った。


しかし!
私は決行した!
ついに仕返しをしたのだ!!!

・・・ハズなのに、
なんて後味が悪いんだろう。。。
仕返しをしてスッキリするはずのつもりが、
自己嫌悪と罪悪感でイッパイになってしまった。
気分はサイテーのどん底。
二度とくだらないことはやるまいと、心に決めた。


私は、生涯誰にも話すつもりのなかった秘め事を、初めて告白した。
復讐を実行することの覚悟、恐怖、緊張感。そのあとの罪悪感と自己嫌悪。
私は自分が体験したことを、臨場感たっぷりに妹へ伝えた、、、
つもりだったのだが、妹はキョトンとしている。


「は???それが復讐?」
「そうや!復讐や。」
妹はバカにしたようにフッと笑った。


「あのな。そんなの復讐って言わんねん。ただの『いたずら電話』やん。」
「!?!?!」
「復讐っていうのはなぁ。『夜中に電話をかけて、お経を聴かせる!』
これが復讐や!!!」


えぇぇぇーっっっ!!!!!!!!!!!!
衝撃だった。
私がこれまで「復讐」だと思ってきたことが、ただの「いたずら」だと? 
お経を聴かせるだと?
私は一瞬、パニックになった。


・・・いや、待てよ。
確かにその通りだ。
相手からすれば、「もしもし」と電話に出て3秒ほどで切れたら、
間違いかイタズラだと思うだろう。
では、もしもお経を聴かされたとしたら?
確実に、誰かの嫌がらせだと認識する。 


す、すごい。
なんだコヤツは!?


「ほかに、どんな復讐があるの!?」
「そんなんイッパイあるやん。たとえば
『大量の石を箱に詰めた高額の宅急便を、着払いで送りつける!』」

す、すげぇ!
確かに、これも相手に悪意が伝わる。


「他には?」
「封筒に髪の毛を入れて、無名で送る!」


うおぉぉぉぉ!!!
もしかして、天才か?
無限の想像力だ!!!


「すごいな!あんた、ホンマにすごいわ!
そんなの想像もつかんかった!それ、どれか実行したことあるの?」
「するわけないやろ!腹立ったことを考えるとイライラして
胃が痛くなるから復讐を考えるけど、復讐を考えてたらもっと胃が痛くなるねん!だから、そんな時おねぇはどうしてるのかなと思ったんや。」


なるほど。。。

ちっぽけな復讐を震えながら告白する姉。
めくるめく復讐を妄想して悶える妹。

甲乙付け難い、アホ姉妹である。


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