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アイドルの追っかけ

その日、私は札幌から東京へ戻るため飛行機の中にいた。
8月とあって満席だ。ガヤガヤと賑やかな機内。
飛び立つまでもう少し時間がかかるだろう。


「KAT-TUNですか?」
いきなり隣の女性が声をかけてきた。
歳の頃は、20代後半か。私より歳下だと思う。
私は意味がわからず、問い返した。
「へ?KAT-TUN?」
「あ、KAT-TUNのコンサートでは無かったのですね、すみません。
実はKAT-TUNの札幌公演を見に行った帰りなんで、もしかしたら
同じかなぁと思って声をかけてしまいました。」


なるほど、周りを見ると若い女性ばかりだ。
皆んなグッズを買ったのだろう。KAT-TUNの大きな袋を持ち歩いている。
「ホントだ!皆さんKAT-TUNのコンサートへ行かれたんですね。
いやぁ、それにしてもコンサートを見るために、一人で札幌まで
来たのですか?スゴイですね!」
「そうなんです。コンサート会場は、それぞれ良さがあるんですよ。
東京ドームは仕掛けが大掛かりだから、エンターテイメントとして
凄く楽しめるんです!そのかわり、メンバーが皆んな遠くて小さい。」
「ほう!」
「でもね。地方のコンサートになると、東京ドームほど大掛かりなものは
ない代わりに、メンバーと距離が近いんです。
私、亀梨くんと目が合っちゃったんですーっ!!!」
女性は、思い出して悶絶している。


いやはや。
私はアイドルの追っかけをしたことがないから知らなかったけど、
そういう楽しみ方があるのね。
なるほど。おもしろい。
とはいえ、その行動力はマネできん。
好きなアイドルを追いかけてあちこち見に行くなんて、私にゃ無理だ。


「札幌は、旅行ですか?」
「いえ、大好きな馬の競馬を見に、、、」
「競馬ですか?一人で?凄いですね!」


おやおや。
もしかして、私も同じか?


私は大好きな牝馬ブエナビスタの札幌記念を生観戦するために、
一人で札幌へ来たのであった。
一人でホテルに泊まり、一人で競馬場へ行き、一人で札幌記念を生観戦。


「よっしゃー!ブエナビスタ!行けーっ!」
「きゃーきゃーきゃー!ヤマニンキングリーが残る!」
「頑張れ!行け!ギャアーッ!!!」
一人ゴール前で絶叫するも、結果は2着。

「くぅ〜っ!
いつか内の先行馬にやられるんじゃないかと思ってたんだよなぁ。
はあぁぁ!」
大きなひとり言を言いながら、一人で競馬場を後にした。


もしかしたら、これもアイドルの追っかけと同じかい?
だとすれば、よ〜くわかるよ。その気持ち。
ブエナビスタが走る競馬場なら、どこでも着いて行くぜーっ!

2009年。
ブエナビスタを『追っかけ』をした、36歳の夏であった。


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