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歴史小説「Two fo Us」第4章J‐12

割引あり

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country


J‐12

「たしかに。云われてみると、朝鮮半島へ出征して以降は、珠子と逢えたのはまだ両手で数えられる程だ。
 悪かったの。もう、小倉の財政難も落ち着いた。悪かったの」

 【癪持ち】用の丸薬を口に含んで白湯を飲み干す、与一郎忠興。若い時から未病の医学には造詣が深いが、40台半ばにも成ると、さすがに負け嫌いな忠興『悪かったのぅ』を連発する。
 だが、同じだけガラシャ珠子も歳を重ね、同じ年夫婦である事に変わりはないのだ。

「こうして、この杵築城の天守閣から伊予灘を見下ろすのも、激しい闘争の戦況ではなく、穏やかな凪の光る海を見渡すだけ。
 有り難きことに、わたしは新鮮な気持ちでまだ許嫁(いいなづけ)の頃みたいな気分なのです」
「まことか⁉十五の娘の気分に戻ったのか⁉」
「いやですわ。忠利でさえ、間もなく三十路を迎えますよ」
「そやの⁉」
「そやし♪」
「そやそや♬」
 
お喋りが弾むと、京言葉が戻ってしまうふたり。


「それがしは、この逢瀬が楽しみなのだ。『源氏物語』の通い婚みたいではないか。
 姪っ子の畿知
(きち: 忠興の側室。珠子の妹の長女)も、はよう珠子に会いたいと申して居る。今は立孝の側に居るが『杵築城で伯母様と暮らしたい』とさえ、申し出て居るぞえ❓」
「まあ!さようで❓」

「また話が脱線してしもうた。
 珠子と語らうと、いつも横道逸れてなかなか『珠子の大脱出劇』には辿り着かぬぞえ❓」
「ほんに」
「いつもじゃ」
「今宵の夜中かけて、珠子が思い出すままじっくりと、お話しいたします。
「頼むぞ、珠子。10年分を語っておくれな❓」

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