長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5-④
~初秋のスキーヤー@Halloween前の神戸~
Vol.5-④
サイドテーブルのスウィッチを押しながら、彼は云う。
「どの道、ウォークマンじゃ聴けないし、流すだけならインストものでも好いよ」
手持ち無沙汰に部屋を眺めまわしてから、ナカサンは
「缶ビールある❓」
と尋ねた。
好きなの飲んで、とばかり私は金庫みたいな形の冷蔵庫を開けた。キリンビールに手を伸ばしたナカサンを視て、いつもは『何か飲む❓』と先に気を回してしまう自分が、他人と居て気配りを忘れている事に、ハタと気づく。
当たり前に自分で取って、
「君は飲まないの❓」
と訊くナカサン。自分のペース持っているヒトって楽だな、とふと思う。
「今、トマトジュース飲んでる」
「ビールで割ると美味しいらしいよ❓」
「ん。聞いた事あるよ」
でも今は呑みたくない。今の状態で心地好いから。
それ以上押し付けようとせず、当たり前の貌して美味しそうに、飲むナカサン。楽やな、とまた思う。
「悪いけど、少し楽にさせてくれる❓」
ベッドのヘッドボードを、彼は指差した。
「どうぞ」
テーブルに向かって文庫本とCDを片付け、私はトマトジュースを口にした。
「眠ってたの❓」
背中で声を聴いた。えっ❓と振り向く。ヘッドボードに持たれ、足を投げ出してリラックスしている、ナカサン。
「眠ってた跡があるよ。起こしちゃった❓」
「少しだけ眠ってた。でも電話の時も来はった時も、起きてた。大丈夫。ありがと」
「普通の生活してる人と、あんまり付き合いないから。俺」
「眠いの我慢出来へんから、眠たくなったら眠るの」
ナカサンは穏やかに微笑んだ。集団の中に居ると個人主義に観える彼も、1対1で他人と接する時は案外細心なのかもしれない。
私はBGMチャンネルを、クラッシックに換えた。
「好い曲がかかってるねえ。。。こういうの聴くと落ち着くよ。クラッシック好き❓」
「スウィッチ入れてみただけやけど、今好いなあって私も思ってたとこ」
「これはわりとポピュラーな楽曲だけど、俺、クラッシック好きなんだ」
「へえ。意外やね」
「なんかこう、一枚の絵画を思い出すんだ。。。」
「クラッシック聴くと❓」
「おう。風景画なんだけど、森に囲まれた湖の絵で。ブルーとグリーンだけの。〈イレール〉だったかな」
「そう言えば、、、美術館で流れてそうな楽曲やねぇ。。。」
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