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歴史小説「Two of Us」第4章J‐11

割引あり

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country

J‐11

 ガラシャ珠子の返答に、細川与一郎忠興は条幅半紙から離れ、侍従を呼ぶ。四男立孝(たてたか)の側近をしていた侍従が、最近はあなた珠子の傍に居る。

「それがしと珠子に、茶菓子を頼む。珠子は、何が好いかの❓」
「はい。珠子は、こういう日にはやはり、胡桃柚餅子(くるみゆべし)を所望でござります」
「そうか。〈胡桃柚餅子〉が食べたいか。昔から好物やったのう♬
 何か、思い出したのか❓」
「はい。胡桃柚餅子を頂くと、思い出す光景がござります」
「教えてたもれ。珠子」
「はい。いつかお聞かせしようと思っておりました。
 八女茶を、お願いしてよろしいか❓」

 忠興は侍従の方を向き直って、縦に頷いた。
 若手の元服して数年くらいの侍従が、「御意!」と言って広間から下がって行った。

杵築城門跡の内側@大分県杵築市
(撮影:上原麻美)


「では、お煎茶と胡桃柚餅子を召し上がりながら、珠子の『大坂玉造屋敷大脱出』の経緯をお聞きくださいますか❓
 その後で、谷町四丁目の和菓子屋女将と廻船問屋ご主人と、それから長屋の庭師親子のお話をいたします。
 じっくりと、本日はお聞きいただけるのでしょうか❓」
「むろん、いかにも。
 本日はゆっくりとこの杵築城にて過ごせるのじゃ。気の済むまで、珠子の大活躍を聞かせておくれな❓」
「かしこまりました」


 たおやかな動作で、八女茶を両手で口に運び、ガラシャ珠子は、ほっこり笑顔を見せた。
 白陶磁器〈古伊万里〉のひとくち飲み茶碗で、ぐいっと飲み干した忠興は、京丹波から取り寄せたらしい〈胡桃柚餅子〉を、目を細めて味わう。

 このようなふたりの優雅な時間を最後に過ごしたのは、いつのことだったか。。。❓と、あなた珠子が思い及ぶと、丹後宮津城での暮らし以来だと、ハタと長い年月の経過を実感した。


 
 あれは、、、父上が本能寺にて織田信長殿を討ち死にに追い込んだ日以前のこと。その頃から、忠興殿もわたしも〈胡桃柚餅子〉がたいそう好きではあったけど。。。
 さにあらず!
 あの沓掛の三叉路は、父上の討ち果たし決起の場所ではござらぬ。わたしと忠興殿が初めて逢うた竹林が〈沓掛〉なんぞえ⁉
 ねぇ、忠興殿❓

 と、ガラシャ珠子が顔を上げ、忠興の横顔を見つめた。忠興は、あなた珠子の心の声を知ってか知らずか、ニコリとしてから急に早口でせかすのだ。

「珠子。はよう。はよ『大脱出』を語ってくれぬか⁉
 あれからもう10年経ったが、未だ訊いておらぬ」
「はい。お待ちください。只今、記憶を辿っておりますゆえ」
「はよう」
「、、、ほな」

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