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チルなイベントをした

 若い頃、海外を旅して歩いていた。
まだスマホもなくて、困ったら周りに頼るしかない。ある時、スイス人の友達と車で旅をしていたら、ニュージーランドの山の中の国立公園で友人が鍵を車に閉じ込めてしまった。途方にくれていたら、通りがかりのイスラエル人グループが、今から焚き火するから一緒にどうかと声をかけてきた。結局その日は暗くなったので一緒に焚き火を囲み、イスラエルのスープをご馳走になり、火の周りに一緒にテントを張って過ごした。
火を囲みながら、私が日記を書いている手帳を覗き込み、イスラエルからきた女性が「字がアートみたいね」と言った。そんな彼女の文字もまたアート。私とは全く違う文字で、違う方向から書いていた。
 人と違うことを、共通言語である英語で語り合う。いろんな訛りの英語が飛び交って、いろんな文化、違い、発見と受け入れが飛び交う。あの感じが懐かし過ぎて。オンラインで焚き火を囲むことを考えた。

思いつき企画が発展

 このコロナ禍で私が得た道具、それはzoom。これは良かったと思ってる。感謝している。早速私は友人たちに声をかけてみた。私の教室で一緒に先生をしてくれている方は日本人ではあるけれど、カナダ在住歴がある。もう一名のスタッフもフィリピンにルーツがあり、日本に来る前はフィリピンで暮らしていた。そして関東に住むアメリカ人の友人(若い頃我が家にホームステイしてからずっと家族)と、今年知り合いになったウクライナからの留学生。それにかつて私の教室で先生をしていたブラジルの友人は帰省先のブラジルから参加。その6名で6つの国のことを思い出しながら話そう。めっちゃ楽しそう。

 だったら...6人だけで話すのも良いけど、私の生徒の皆さんにこの感じを一緒に味わって欲しいな。あ、子どもたちから聞きたいことを募ったらどうだろう。そんなアイデアが浮かんで、教室の生徒に尋ねてみた。
出るわ出るわ、私の頭では思い浮かばない様な面白い質問。私には浮かばなかったけど、そういえば気になるよね…みたいな。集まった質問を全部英語にして参加者に送る。さ、当日楽しみだ。

当日

 緊張はしなかった。だって、元々楽しみのための会なんだもん。
ただ一つ、観ている人たちに伝わる様に時々日本語で解説を入れよう。それは心がけた。でも学習者の皆さんだから、最初はリスニングにトライしてもらって考える時間も必要。簡単に日本語で補助。そんな話し方したことないから、そこはちょっと予測不可能で軽くプレッシャー。でもきっと大丈夫。

 ブラジルからの中継が気になったけど、開催時刻30分前の6時30分にブラジルのマルちゃんからLINE。「もう起きたよ。朝ごはん食べて待ってる♪」日本時間土曜日の午後7時というゴールデンタイムで設定してしまったばかりに、地球の真裏のマルちゃんは早起きをしなければいけない羽目に。
ありがとね、マルちゃん。

 出た質問は、かなり多かったけど設定は90分。その中でみんなの話を十分に聞けるくらいの質問数にあらかじめ絞っておいて、時間があったら少し広げるつもりだった。今回採用した質問は以下の通り。

*あなたの国で流行っている日本のアニメは?また現地アニメのおすすめは?
*中高生の制服ってありますか?
*メイクやピアスは何歳くらいから?
*ペットにするなら犬と猫どっち?(ちょっとほぐすタイム)
*ペット飼ってますか?自分のペットとその国で人気があるペットは?
*自分の国で普通に見られる野生動物は何?
*あなたの国の小学生の一日を教えて。
*あなたの国のクリスマスとお正月の過ごし方は?

 これで90分いっぱいいっぱいだった。途中ちょっとチャットで質問も出たけど、それもライブ感あって面白かったな。子どもたちからの質問、すごいでしょう?本当に興味深かったし、参加してるみんなもそれぞれの国のことを興味深げに聴いていた。

ライブ後

 ありがたいことに、視聴した方からイベント直後に早速アンコールの依頼が届いた。もちろんまだ答えられていない質問もたくさんあるし、とっても楽しかったから是非したい。
 そして自分が想定していなかった感想もいただいて、嬉しかった。
「いろいろなアクセントの英語が聞けて良かった。何度でも聞きたいから、次回は是非録画を残して欲しい」
 確かに。本当に生きた英語で「もっと聞きたい」と思える興味深い内容。これは何よりのリスニング教材になり得るかも。
そして視聴しながら「もっと聞き取れる様になりたい」日本人も数人いたことから「自分もあんな風に英語でコミュニケーション取れる様になりたい」とモチベーションに繋がった生徒さんも多い様子。

 ほぉ。私の楽しみが誰かのモチベーションに繋がるなんて。でも確かに私がニュージーランドの山の中で焚き火を囲みながら感じたあの感激は、その後の私のモチベーションになったかも知れない。同じ気持ちを味わってくれたのなら、何よりだ。

その後

 その後参加してくれた友人たちにお礼のメッセージを送った。全員「楽しかったわ、またしようや」と。こういうの、コロナ禍ですっかり出来なかったもんね。みんな実はこういうの欲しかったのかも。

 ウクライナの方には「今私たちが知っているウクライナは、悲しいニュースの中ばかり。昨日のお話であなたが笑顔で楽しいウクライナの生活の話や学校の話、家族やイベントの話をしてくれたことで、きっとみんなの中にちゃんと"ウクライナの日常"が伝わったと思うわ」と伝えた。

 情報が多い時代。手元ですぐに入る情報は増えたけれど、そこには温度がない。その向こう側が見えない。下手すると「知った様な気になって」いるだけで経験値が全く上がらない、浅い知識に頼る人が増えてしまうのかも知れない。少なくとも生の声を聞くこと、表情や声色、その人が思い浮かべる景色や家族の顔を一緒に思い浮かべながら過ごす時間から得られる"体全体で感じる情報"に勝るものはないな、と皮肉にもzoomを通したイベントで感じることとなった。
 本当は一緒に焚き火を囲みたいけどね。でも限りなくそれに近い体験をみんなと一緒に出来たのなら。そしてこの経験が本当にいつかみんなをその輪の中に導いたら、そんなに嬉しいことはない。

 またやります。乞うご期待。

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