見出し画像

『おくのほそ道』イントロ02(古典ノベライズ前編)

(先週 ↓ から続き)
https://note.com/namikitakaaki/n/nb33ae34d52f5
https://note.com/namikitakaaki/n/n383b18b67631

「おばーちゃーん! 大変だよぉ!」

 おじいちゃんの机の上に置いてあった紙をつかむと、ひらひらと掲げたまま、ぼくは和室のおばあちゃんのところへ急いだ。

「あらあら、そら君。どうしたの?」
「おじいちゃんが死んじゃう! 遺書だよ! おばあちゃん、これ見てよ!」

 遺書という言葉にぎょっとした目のおばあちゃんに、その紙をぐいっと差し出した。
 震える手で受け取ったおばあちゃんは、真っ白な顔でその紙を読んでから、にこりと笑って、ぼくに「これは遺書じゃないわよ」と告げた。

「古典……って言って、ええと。大昔の文章。おじいちゃん、俳句教室に通っているでしょう?」
「うん」
「その俳句は昔は『俳諧(はいかい)』っていったんだけど、その遊びのルールを大昔に作った偉い人の書いた文章よ。『おくのほそ道』っていうの。月日は百代の過客にして、って。おじいちゃん、気に入って、きっと自分で書き写したんでしょうねぇ」
 パパのさっきのダジャレはこれか、と思いながらもぼくは「ああ、よかった」とため息をついた。

 遺書じゃなかった。
 ぼくは安心から、その場にへなへなと座りこんだ。
 おばあちゃんが言うには、「ひょっとしたら、その『おくのほそ道』の舞台を、急に見てみたくなったんじゃないかしら?」と。
 ところがだ。
 本当の問題は、おじいちゃんがいなくなったことそのものではなかったんだよね。

(明日へ続く)

お読みいただきまして、どうもありがとうございます! スキも、フォローも、シェアも、サポートも、めちゃくちゃ喜びます!