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『おくのほそ道』イントロ01(古典ノベライズ前編)

「おじいちゃんがいなくなっちゃった!」

 ぼくのおじいちゃんは、散歩好きで、めっちゃ健康。
 去年小学校4年生のとき、1年間冬もずっと半ズボンで皆勤賞をもらった時には「忍耐強いのは俺に似たな」と頭をなでて褒めてくれた。
 おじいちゃんは若いころから格闘技をいくつかやっていたみたいで、なんといまでもバク転ができる。
 近所のお母さんたちが「かんれきなのに宙返りができるなんて、本当にすごいわね」ってほめてくれるんだけど、ぼくにはその「かんれき」がどんな意味なのか、よくわかんない。

 おじいちゃんは、いつもニコニコ優しい。
 でもときどきなんでか、急にふいっと家を出て、しばらく帰ってこないことがある。
 いつもであれば、だいたい最初に気づいたおばあちゃんがそれはそれは遠慮がちに「おじいちゃん、いないかも?」ってぼくのパパやらママやらに小さな声をかける。
 するとパパ&ママにはピリリとした緊張感が走るんだけど、だいたいはスーパーにバナナを買いに行っていたり、近所の友達と将棋をしていたり。
 もともとすぐにふらっとどこかへいっちゃうから、その将棋仲間の人からは、「どろん」っていうあだ名で呼ばれていた。
 でもやっぱりぼくにはその「どろん」がどんな意味なのか、よくわかんない。

 でもどうやら、今回おじいちゃんがいなくなったのは、いつもの感じとは違うようだった。

「どうせまた競艇か競馬に行っているのさ」

 パパは子供の頃におじいちゃんが大好きな、船にお金を賭ける遊びや、馬にお金を賭ける遊びに、よく連れて行ってもらっていたんだって。
 だから「船か、馬だ。船か、馬だ」ってあんまり真剣におじいちゃんを捜すつもりが最初はなかった。
 でも……。

(明日に続く)

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