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夏のような人

夏になると必ず聴くアルバムがある。

サニーデイ・サービスの「sunny」だ。

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もう3年も前になるのか。
平成最後の夏、私はサニーデイ・サービスを好きな人に教えてあげた。

彼はとても気に入ってくれた。
当然だ。絶対気に入ると思ったから教えてあげたのだ。

当時、彼の一番の理解者は私だという自信があった。
趣味も笑いのツボも双子みたいにそっくりだった。
と同時に、彼がすべての答えを知っていると思い込んでいる節があった。
それだけ心から尊敬する師であり、私との補完性が高い人だと思っていた。


彼はバイト先の先輩だった。
名前は遠山さんといった。
元芸人で、笑いに取り憑かれたような人だった。

初めて会ったとき、遠山さんは隣のレジにいて、私は見事な初ボケを食らった。

「僕ね、最近ペットを飼い始めたんですよ、左手に。」と言って見せてくれたのはキツネの形をした彼の左手だった。「よろしく」とキツネが言った。

初対面相手に平然と事件を起こす彼の人間性に私は強く魅かれた。
恋愛感情は全くなかったが、すごく友達になりたくなった。
爆笑じゃなくていい。
誰も傷つけないで場を和ませ、クスっとした笑いを取る。
当時、私が目指していた生き方そのものだったから。

月に2、3回程度だったが、遠山さんとはいろんなところへ出かけた。
映画を観た後に、誰も気づかないであろうセットの細かい部分について考察を広げたり、待ちゆく人にBGMを当てたり。
日常にツッコみ、ボケずにはいられない変な人だった。

真っ新な会話に鋭い差色を投下してきて、一気に色が滲み広がっていく。
そのハッとする感覚は忘れられない。一緒にいて飽きなかった。
考えることが異常に好きな人だった。

私は遠山さんとずっと一緒にいられたらいいなと思いはじめていた。
遠山さんも私を必要としてくれているという確信はあった。
でもちょっと怖かった。気持ちを伝えたら遠山さんとは永遠に会えなくなる気がした。彼は多くの人から慕われていたが、人との関係性が表面化した瞬間に一気に冷めてしまうような臆病な一面があった。

結局、遠山さんのテンポについていけなくなった自分への嫌悪感に耐えられなくなって私から自然にいなくなることにした。
別れ方はひどかった。あまり思い出したくはない。
自分でも信じられないくらい私は未練がましい女で、ドラマみたいに上手くいなくなれなかった。
最初のまま、いたく気の合う友達という関係でよかったのかもしれない。
後悔は十乗くらいある。



サニーデイ・サービスを教えたあの夏に、遠山さんは私に、夏と冷うどんという最高な組み合わせを教えてくれた。
うどんが苦手で麺を啜れなかった私だけど、もう丸亀製麵の株主優待持ってるし、啜れるようにもなったよ。


遠山さんは、飄々と生きる夏のような人だった

この3年で私の考え方は大きく変わったし、きっと彼も変わっただろう。
あの夏、たまたま人生の同じ地点で隣にいただけだ。
誰にも人を縛る権利なんてない。
私は彼のことを何にもわかってなんかいなかった。
だから、もう二度と間違えないように、人を失った悲しみを楽しかった夏に思い出そうとするのかもしれない。

そんな彼が今年の夏も、白いTシャツを風に煽らせながらうどんを美味しそうに食べている。選曲はそうだな、「今日を生きよう」だろうか。
想像してほんのちょっと涙しながら私はサニーデイ・サービスを今日も聴く。












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