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フグ田ナマガツオ
2023年5月15日 21:02
(帝視点)かぐや姫が月に帰って、一年が経った。彼女が最後に残した不死の薬が入った瓶をつまみ上げて、ため息をつく。外に目を向けると、月はあの夜よりも傾いて、放つ光も不安げに見える。辛いだけだと知っていながら、気が付くと見上げてしまう。届かないことは分かっているのに。 たまにすべてが夢だったのではないかと思うときがある。それぐらいには、現実離れした体験だった。しかし、この激情がいつだってそれを否定
2023年3月16日 19:56
お題:過ぎ去った日々語り終わる頃には、自然と涙が零れていた。「すまないね。長話に付き合わせちゃって」袖で拭って、隣を向いた。月光で表情がうっすらと見える。真剣だが少し困ったような表情。「いえ、とても興味深い話でした。私と重なる部分もあって」女官は名を夕凪といった。夕凪は、先月ここに来たばかりだと言っていた。「重なる?」「はい。私、ここに来る時、家族を置いて来たんで
2023年3月15日 19:39
書く習慣 お題「月夜」こうして見上げるだけで、あの日のことは鮮明に思い出せる。夢のような出来事だったけど、確かに覚えている。二人で過ごしたあの時間も。幾度も交わした歌も。薬と手紙だけを残して、私のもとから去っていく後ろ姿も。かぐや姫が月に帰って、10年の月日が流れた。あの後、私は数ヶ月間、全ての気力を失って、死人のような生活を送っていた。皆があの日の衝撃から立ち直り、普通の生活