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140字小説

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140字以内で書く超短編。
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2023年6月の記事一覧

【140字小説】100点の福祉

AIが人間に点数をつけて、それに応じた福祉がなされるようになった。
点数一桁の福祉は凄まじく、望めばすぐに豪華な飯が出てくるし、あらゆる娯楽が無料で楽しめる。
かたや私は戦車の砲撃を躱しながら、値段8倍の珈琲を啜り、仕事へ向かう。
これ以上点数が増えないように、容器をポイ捨てしながら。

【140字小説】動脈と紫陽花

二人だけの文芸部室で見せてくれたミステリ小説のトリックは私達しか知らない。
原本は既に処分したから、もう誰もそれを知ることはない。
トリックを考えるのは得意なんだから、浮気くらい上手に隠してくれればよかったのに。
彼の頭から流れる血が、贈った紫陽花の色に似ていた。

【140字小説】静脈と紫陽花

送られてきた紫陽花の静脈のような色が綺麗で、暫く見蕩れていた。
添えられたカードには見覚えのある彼女の字。
懐かしい記憶には雨音が伴って、二人で傘の下歩いた景色を想起させた。
これを僕への贈り物として選んだ彼女は、おそらく知っている。
もう花の色は変わってしまったことを。
ゴミ箱が揺れる。