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【極私的読解】『或社会主義者(芥川龍之介作)』をこう読む ~その2~

先日、YOUTUBEに『或社会主義者(芥川龍之介作)』の朗読をアップしました。

この作品を読むにあたって、私自身が「作品をどう解釈したか」という事を前回よりメモしております。ちなみに、前回はこの「読解」を記録していくにあたっての前置きと、今回の作品タイトルでもある「社会主義とはなんぞや?時代背景は?」というところをメモしたところで、お開きになりました。ほ~た~るの~…っつってね。ほたる。

今日は、いよいよ作品の中の「解釈」…
…というと大仰ですが、ぶっちゃけ「ここは重要やなぁ」とか「これはようわからん」という個所をあくまで極私的な解釈でメモしていくんでー、正解求めないんでー、そこんとこヨロシクシクヨロ。はい。

あ、まず読みたい人はコチラ。

※題材はパブリックドメインのものを使用しております。

 

さて、では私が起こした原稿をもとに見ていきましょう。

【02】勘当しようとした父。屈しなかった彼。

前回のnoteで、当時の社会主義活動がいかに困難で風当たりの強いものかが見えてきましたね。特に政府当局からは目の敵にされている状況…そらそやわな、産業の近代化により資本主義経済が急速に形成されてきた矢先。

「『息子を勘当しようとした』とは穏やかじゃないですねぇ」と最初は思ったけど、父は小官吏(=小役人)…到底受け入れがたい立場。体裁的にも認められない様子が見えてきた。

しかし特筆すべきは『彼は屈しなかった』の一文。いや親子関係で「屈する」とかゆう?…こら、相当こじれとるな(笑)
ところがどっこい『屈しなかった』…つまり「社会主義やめるくらいなら勘当されたらぁ」ってことでしょう。相当入れ込んどる事がわかる。

可愛いのは、結局勘当されてないんですよね。ちょっと先で『彼の父も今となっては…』っつって語られてて、親子の縁切れてない。「いや、勘当は、ちょっとまぁ、わしも言い過ぎたけど。」みたいなおとん。小官吏なおとん像が垣間見える。おとんの人柄が丸裸にされました。

疑問は「彼がなぜ社会主義に傾倒し始めたのか」。これは本からは読み取りにくかったので、勝手に想像しました。

【03】彼の情熱…①

この作品では、彼の状況が変化するたびに『彼の情熱』がどうであるかに立ち返るように語られています。音楽でいうところの主題といったところでしょうか。一番重要なセンテンスですね。

先に言うと、これがどんどん歯切れ悪くなっていくのですが、最初の『彼の情熱』は『烈しかった』と、はっきりくっきり書かれてます。そらそや、「いつでも勘当されたらぁ!」の人やからな。

【04】論文読まれない彼…?

『彼の論文は彼ら以外に誰も余り読まないらしかった』

ま、さして重要ではないのですが、後半に実は大阪のある青年が読んで、社会主義者になった事が語られるので…これはネタフリですね、一種の。
少しフックをかけるような読み方がいいのかなぁと思いました。

【05】リイプクネヒトとは誰ぞ?

ドイツの社会主義指導者でドイツ社会民主党の創設者、ヴィルヘルム・リープクネヒト(1826年 - 1900年)と思われる。
幼少期に両親を失った彼は、叔父のF・ルートヴィヒ・ヴァイディヒの元で育った。ヴァイディヒは教育者だったが、市民革命と民族統一を目指した革命家でもあった。度々非合法の政治的パンフレットを出版するも当局に逮捕され、過酷な拷問と侮辱の末、自殺。壁には血文字で「屈辱の死よりも自由の死を取る」と残した。
この出来事がきっかけで、リープクネヒトは社会正義に目覚め、民主主義運動に傾倒する。労働組合を組織・けん引し当時の当局の政策を攻撃した。また、マルクスの忠実な弟子としてマルクス主義の強力な代弁者だったとされている。

wikipediaには、「機転の利かなさと乱暴な放言」「闘士としての資質」「議会政治ではなく戦場における実力行使が社会主義の運命を決するという考え」と、情熱的な漢であったような記述が多数みられる。

作中の彼の論文は『緻密な思索はないが、情熱に富むもの』と説明されており、彼自身も情熱に燃えている漢だから、やはりリープクネヒトに通じている感じがする。

【06】『実行』とはなにか?

『じりじり実行へも移ろうとしていた』

これが何か作中には描かれていません。しかし、論じたりパンフ出したりから次のステージへ…しかも『地下水が石をうがつように』って相当ゆっくり、気づかれないように行動に移すという雰囲気。
これはちょっと過激なにおいのする言葉です。前回、当時の社会主義にまつわる時代背景で記載した「眼科事件」を想起してしまいますが、年代が自分の想像と合わないのでそうとはしていません。でも、キナ臭い行動を想像しました。

【07】干渉を加えなかった父

…これはねぇ。実は、やり直したいところ。

【06】と【07】の間は、本文では段落が変わっているのですが、今回の収録では繋げて読んでいます。それはなぜかと問われると、父が干渉を加えなくなった理由を、「彼(彼等)の行動が過激になりつつあることをうすうす感じていたから(もはや手に負えない状態)」としたからです。つまり、前文の『実行へも移ろうとしていた』それ故に『干渉を加えなかった』としたわけです。

でも、やっぱり段落があることに気持ち悪さも感じていて。今では、後文の「結婚して一国一城の主となり大人の責任を抱えた(変化を見守る)」を理由にすればよかったと思っているのです。

すると必然的に読み方も変わってこよう。…まぁ仕方あるまい。

【08】妻、子犬、庭先のポプラァ?何言っとんじゃワレ。

さて、いよいよ歯車が狂ってきましたよ(笑)

彼は、恐らくは社会主義とは無縁と思われるお嫁さんをもらいます。
そして、言わば表の顔、雑誌社でのお勤めのお給金なのか、嫁はんの家柄がいいのかは分かりませんが、小さいながら家(庭付き)を持ち、子犬も飼って、狛犬も置いて…は書いてないけど、あまつさえポプラァの木まで手中に納めてしまい「いやん。幸せやないのん。」って感じています。「ええお湯やないのん。」とかも言ってます、きっと。

彼は社会主義者です。でも、いまそこにある幸福は「資本主義的な幸福」と言えなくはないでしょうか。仕事に見合う対価をもらい、それによって潤った生活に幸せを感じているように見えます。

『彼の生活に「何か」今まで感じなかった或親しみ』

この「何か」って絶妙やなぁと思う。あるとないとでは大違いですね。本人も漠然とした、とりとめもない変化で、それによる矛盾にも気づいてないような微妙なずれ。「俺もようわからんねんけど」みたいな芥川自身も断定できない意外感を出したいなぁと心の中では思っていました。

【09】会合? あー…行けたら行くわー。

家庭と仕事を優先し始める彼。私にも「或親しみ」が湧いてきましたよ。明らか優先順位が変わってきているが、本人は気づいてない…か、これも忙しさにかまけて考えないでいるのか。

しかし多分「いや、だって、しょうがないでしょ。」とか言うようになってしまいました…

【10】彼の情熱…②

来ました。2回目の「彼の情熱」です。前回【03】は学生時代で、はっきりと「烈しかった」と言い切っておりましたが、今回やいかに?

『決して衰えたわけではなかった。』

んー…?切れが悪い…

『少なくとも彼は…(中略)…変わらないことを信じていた。』

ん、いや、なんか言い訳がましいです!
なんかこの人、言い訳しようとしてますよ!モゴモゴしてる!

まず『衰えたわけではなかった。』これは【09】に対してのアンサーでもあるので、まあ、見逃せんこともない。
『少なくとも彼は…』いやいやいや?これは匂います!少なくともの話はイカンですよ。「周りからはどう見えてるか、これは分からん。けど本人はやる気あるって言ってる。」これは以前に比べると説得力かけますね。
『以前と変わらないことを信じていた』…これに関してはもはや意味わからん。なにを他人事みたいに言うてけつかんねん(笑)「俺の情熱よ!どうか変わらずにいてくれ、否!きっと変わらない!…はず!…だよね?」っとまぁ、事実というより「そう思い込みたい」っという感じになってきた。

 

 

ずいぶん情熱の所在が揺れ動いてきたように感じてきました。

さて、概ね半分まで来ましたね。
次回は完結編。後編の読解をメモしたいと思います😄

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藤江なるし
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