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NAK &ひーちゃん
2023年2月3日 08:54
【不毛の地⑴】「ほれ、起きれ。ほれ、行くぞ。」 重たい瞼を開けると、浅黒い皺くちゃの顔がこちらを覗き込んでいる。驚いた僕は身をよじり、咄嗟にこの見知らぬ男から離れようとした。 「話はあとやね。もう出発しなきゃなんねぇ。ほれほれ、起きれ。」 男が僕の腕をつかむ。腕を引っ張られた僕は、よろめきながら立ち上がった。何か言おうとしたものの、乾燥した上唇と下唇が張りついて上手く喋れない。
2023年2月6日 07:45
【不毛の地⑵】 僕が寝ていた低木が遥か彼方の点となり、とうとう見えなくなったとき、僕はため息をつき呟いた。 「生まれたてのほやほやとはね。ふざけた話だ。」 そして、馴染みのない自分の手を見つめながら、ぞんざいな口調で男に話しかける。 「ところで、こんな大きな僕を生んだのは、いったい誰なんだろうね?」 男は皺くちゃの顔を僕に向け、口元を緩めた。 「そりゃあんた、あんたは始ま
2023年2月10日 08:36
【不毛の地⑶】 今、僕の身には不可思議なことが起きている。僕は僕を知らない。ここがどこなのかも知らない。しかし、この男は僕を知っていると言う。 とりあえず、それだけでもこの男についていく価値はありそうだ。こんな乾いた何もない赤土の上で、何もわからず立ち尽くしていても飢え死にするだけだろう。 僕の記憶は、この男が僕を覗き込んだところから始まっている。それ以前の記憶はない。記憶喪失なのかもし
2023年7月14日 08:31
【暗闇⑶】 「はははっ、そうかぁ。不思議だよなぁ。お母さんは朗らかで清々しくて、とても魅力的な人だった。けれど、お父さんは寡黙というか、根暗というか・・・なぁ?」 娘のクックックッと肩を震わせるような笑い声が聞こえてくる。 「根暗ではないんじゃない? まぁ、寡黙かもしれないけれどねぇ。お母さんは差異が小さいお父さんと一緒にいるのが心地よかったのよ。」 僕は言葉を失った。確かに妻は僕