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ブックマーケティングの編集者の役割は○○

僕はブックマーケティング、主に経営者が発信のために出版する書籍の編集者をやっている。
刊行点数の一番多い会社で一番長く責任者をやっていた経験があり、独立してからもブックマーケティングの事業を続けているから、たぶんこのジャンルには業界でもっとも濃く触れてきたんじゃないかと思う。

今日は、「ブックマーケティングの編集者」というニッチな仕事の持つ役割について、僕の思うところを述べたい。
商業出版で何十万部のベストセラーをバンバン出す編集者と僕は領域が違うので、いわゆる編集論とか「売れる本とは」みたいな話を期待される方は、この記事は読まなくて良いと思う。そういう話を僕がする資格はない。
企業の目的達成のための本づくりの編集をどう考えてやっているかという、マニアックな話だ。

広告代理店の営業+クリエイター

一般的には編集者というと、”クリエイター”の括りに入る職業として認知される方が多いかもしれない。
(現役の編集者から言えば「そうだ」という方も「違う」という方もいると思う)

そして、ことブックマーケティングの編集者でいうと、企画書を作ったりタイトルを考えたり原稿に赤字を入れたりといったクリエイティブの実務にくわえ、広告案件のクライアント担当者としての色が濃くなる。
ブックマーケティングは言ってみれば広告サービスで、著者はイコールクライアントであるからだ。出版社がリスクマネーを投じて決定権を持つ通常の出版とは根本的にビジネスモデルが違う。

広告代理店だと普通は営業がアカウントプランナーとして受注後のクライアント窓口もこなしていくと思うが、こういう代理店営業の仕事プラス、実務班のクリエイティブディレクターも兼任するようなイメージをしてもらえると、ブックマーケティング編集者の仕事の実像に近いと思う。

つまりは制作において、まずはクライアントの納得、そのうえで読者に満足してもらえる本を作る、と二段構えのステークホルダーに向けて仕事をすることになる。クライアントがいくら満足していても狙った読者に全然メッセージが届かないのであれば良い仕事をしたとは言えないし、たとえ本としてよく売れたとしてもクライアントのビジネス目的が達成できなければそれは失敗だ。

僕は出版する以上は著者の目的を達成すべきだと考えている。
なので、もちろん書店に出して恥ずかしくない顔つきと中身の本を作る通常の編集努力はするが、本によって上手にクライアントのビジネスに誘導しつつ宣伝臭さを排除する、針の穴を通すような絶妙なラインの表現を同時に提案するように意識している。
これは実は特異な脳の使い方だと思っていて、こうしたブックマーケティング的な編集思考ができる人間は、編集者としてのキャリア自体はベテランの方でもほとんど見たことがない。編集者は「良い本を作る」ことに脳のリソースを全振りしているのでビジネス部分は苦手な人も少なくないのだ。
むしろ、書籍の編集自体は素人に近い広告畑出身の人間のほうが、すんなり身につけているスキルな気がする。

「初めて出版するオーナー社長」の心情への理解

ブックマーケティング編集者の仕事における、編集思考ともう一つ大きなポイントは、なんといってもクライアントワークだ。「クライアントワークが9割」と言い切っても良い。それぐらい大事な部分だ。

そもそも無形商材の宿命で、ブックマーケティングはしばしば顧客とのトラブルが起こるビジネスという側面がある。
この話も掘り下げるといくらでも掘り下げられるけれど、今回は簡単にまとめると、次のような理由による。

・契約時に現物がないためクライアントの期待値と実態がズレやすい
・クライアントと出版社で制作プロセスに対する情報格差が大きい
・出版社の社員はビジネスオーナーでも出版経験者でもないので著者の心情が想像しにくい
・言葉という「誰でも使えるもの」が主役なのでお互いの主観ですれ違いやすい
・案件のスパンが長く不満が蓄積されやすい

過去に注文住宅の工務店であるお客さんから、注文住宅はトラブルがよく起こると聞いたことがあるけれど、性質としてブックマーケティングもそれに近いビジネスだと感じる。

とくに、担当者のコミュニケーションを心地よく感じるか、出された成果物のクオリティを高いと感じるか、という2点は極論すべてが主観による。
幸い僕の場合、独立したあとは大きなトラブルはほとんど起こらずにここまで来れているが、同時に50件以上の案件を並行で稼働していた若手時代はトラブルがしばしばあった。
正直当時は多忙で仕事が粗くなっていたタイミングは多々あったので、クライアントの大切な一冊に対してベストを尽くせなかった案件が過去にあることは今でも心残りだ。

とはいえ現在、経験を重ねることによってトラブルを最小限にできているのがなぜかと考えると、「想像力の発達」が一番かなと思う。
思い返せば若手時代、オーナー経営者という生き方も、自著の出版という極めて重要な局面に対してクライアントがどう向き合っているのかも、本当の意味では理解できていなかった。
ただ、僕自身が経営者になって、経営者の心情は多少なりともわかるようになった。時には三桁万円以上の投資をすることもあるから、そういうときに決裁者としてどういうマインドになるのかも実地で経験できた。
この点はすごく大きいと感じる。ヒアリングや取材で聞く内容のクオリティや、相手が不安になる点を察して先手を打つようなコミュニケーションの質はここ数年でかなり改善したと思う。

あとは、エグゼクティブ層の基礎知識になっている諸々の教養が溜まってきて、クライアントレベルのかかとに手をかけられる程度には、高めのレイヤーで議論できるようになったことも改善点なのかもしれない。
社長という肩書きもあるのかもしれないけれど、最近は業者というよりパートナーとして見てもらえているように感じるシーンはかなり増えていて、その点はとても充実感がある。

「ストライカー」であることが最も重要

さて、偉そうなことを述べてきたが、実際の案件進行としては、実は僕はパッと見なにもしていないシーンがけっこう多い。
ライターが入る案件で原稿執筆のためのインタビューをする現場ではほとんど口を挟まないし、そうして上がってきた原稿に直接大きな手を入れるケースもそんなにない(修正は書き手自身がやったほうが基本的に質が上がるからだ。「フィードバック」はかなりする場合もある。)。
著者が原稿を書く場合はさすがにいくらかリライトすることもあるが、こちらで変に大工事するというより基本はコメントバックしてご自身で直していただいている。

なぜそれで成り立つのかというと、そういう必要が生じないように先に知恵を絞っておくことに全力を注ぐからだ。
たとえば、取材を始める前の目次について僕は、一冊分の原稿が自分の中でほぼ完全にイメージできる解像度まで熟考したうえで、クライアントと合意する。(ここはある程度経験のある編集者なら当たり前かもしれない)
さらに、打ち合わせ現場の外での、制作を手伝ってもらうスタッフとのやり取りやディレクションは、めちゃくちゃやっている。一仕事終わると制作メンバー内で長文でやり取りしたメールが100往復を超えているケースは珍しくない。

なぜかというと、誤ったマインドセットで一度制作物を作ってしまったらそれでおしまいだからだ。一冊分の仕事を全ボツにして作り直しなんてブックマーケティングの案件では現実的じゃないし、そんなことになったらお金の問題になってくる可能性もある。
なので、著者やパートナー作業者の背中を押して走ってもらえば目的地に到達するようなレールを、徹底的に作り込んでから現場に臨む。

サッカーに例えると「運動量は少なくてもオフザボールの場面で巧みに動き、点を取る決定的な動きをする」という意識だ。よく編集者は監督に例えられるが、同時にストライカーにも近いと思う。
つまるところ、一つひとつ質の高い意思決定をするのがミッションに他ならない。自分にボールが来た局面は絶対に外さない、そういう緊張感を持っているつもりだ。

少し話は逸れるが、出版業界に限らず会議でむやみに発言量を増やしたり、やたらと作業的なタスクに時間を費やして仕事しているつもりになっている人は多い気がする。
ムダな時間を使わないために早いうちにとことん頭を使っておく、という考え方は仕事において大事だと思う。そのほうが、成果を出しながら夜はしっかり休めるような幸せな状態にもなる。

まとめ

ブックマーケティングの編集者という仕事について、大枠で考えることを述べた。
個人的には、ブックマーケティングは編集担当で誰がつくのかによってかなり違った体験になると思う。
出版を考える方が、優秀な編集者と出会って成功に向かうことを祈るばかりだ。

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