3つのコンテンツ

PJ03-プロジェクトが拡がるコツとチームづくりの一歩

多様な人が関わるプロジェクトにおける「コトの立ち上げ方、進め方」のコツとして

・すでにあること(やっていること)を活用。無理しない。

・狙いの一石三鳥

・小さく試し、イメージを共有する

この3点をお伝えした前回の記事「コトの立ち上げ方、進め方」

コトが立ち上がり、動き始め、ある程度こなれてきたらプロジェクトは「輪を広げ、どのように進めていくか」というフェーズ(拡がる期)に入る。

立ち上げ期ではワクワクした気持ちや関わるメンバーのテンションが高いことからスタートしてしまえば、一年ぐらいはテンションの持続はできる。しかし、やはり何も新しい動きが出てこなければ、急速に飽きが来たり、内輪っぽい雰囲気が出るのが、プロジェクトの難しいところだ。特にコミュニティに関連するプロジェクトは、内輪のベクトルが一層強くなる。

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 プロジェクトの当事者が、その危険性を察知し、次の一手を打てるのであれば、プロジェクトの寿命は数年伸びる。「次の一手」は、当事者の数だけ多岐に渡るが、私がここで提案するのは、“多様な人が混ざる「場」”に特化したものだ。

 私が取り組むのは社会に開かれたカタチで「何のために、何をするか」という目的達成型のプロジェクトであるが、結果として(ここが重要)、関わる人たちにとって家庭や職場だけではない関係性が育まれるサードプレイスとしての場(コミュニティ)になっていくことを一番大切にしている。

 改めて強調するが、私は居場所づくりのために活動をしているわけではない。居場所づくりを目的にしてしまうと内輪のベクトルが強く、共依存の関係に陥りやすい。共依存の関係は否定しないが、会社や家庭同様に従属性が強く、多様性が魅力であるプロジェクトの本質が活かされない。

そういったことも踏まえ、今回は外に開かれた形であったり、社会に関わりあいを持ちながら活動する【仲間のつくりかた、見つけ方、輪の拡げ方】に言及していきたい。

【出会いの打率を上げる3つの取り組み】

・見つけるコンテンツ、出かけるコンテンツ、迎え入れるコンテンツ

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 「飽きがこないように…」と思った時、誰もが思いつくのは「仲間探し」。しかし見つけるのに「興味があるから、話を聞きたい」だけで行動するのは相手に(忙しいのに…)と思われるリスクがある。一方、いきなり「一緒に何かしましょう」というコミュニケーションから、スタートさせるのも相性が悪かったらダメージが大きいし、そんな風に近づく振る舞いはあまり信用されない。だから仲間を探して、関係性や距離を少しずつ近づけるには「見つける・探すこと自体が発信になるコンテンツ」があると良い会いに行く理由づくりとして、発信媒体を持つ体裁はかなり効果的だ。街の音楽スポットを一元化して情報発信を行った「伊丹オトラク」の初期アプローチがソレにあたる。もっと分かりやすく言えば、テーマ性をもったMAPやフリーペーパーなどだ。

「あなたのこと、知りたいんです」という聞く側の姿勢から始まり、「よう、調べて、俺にたどりついたな」「宣伝してくれるの?!」という相手に感謝される気持ち。関係の始まりからすれば、上出来である。

これは発信目的という体裁をとりながら、裏目的として「キーマンを見つける、探す」ことが最重要としてある。取材して「あ、ちょっと違うな」と思えば記事にするだけで関係性は一旦終われるし、お互い気があうようならば、すぐに「一緒に何かやりましょう」と提案できる。

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 兵庫県伊丹市の伊丹市文化振興財団の職員時代の仕事。「伊丹オトラク」は、地域のライブを定期的に開催するカフェやバーを紹介する内容ことから始まった。市立の劇場に勤めていた頃に立ち上げたので、館主催の劇場公演には挟み込みができたことと、市内の公共施設や市外の文化施設に配布もできたため、毎月3,000枚ほど配ってPRできることが参加してくれる店舗のメリットとなった(もっとも、官民連携のプロジェクトと言うPRができるので市立劇場の立場でもメリットは大きかった)。それに加えて仕掛ける側からすれば毎月、店舗と連絡を取り合う機会ができることと、他店舗を紹介してもらえるネットワーク形成は大きなメリットであった。ここから「普段づかいの音楽プロジェクト」は始まり、今では街中の暮らしに滲み出ていくような活動ができた。

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大阪府堺市の堺東駅界隈のまちづくり会社「堺まちクリエイト株式会社」さんのアドバイザーになって、初めに手がけたのが、 MAPづくり。とは言え、ただ情報を取りまとめたMAPではなく、その地域の特性がうかがえたり、店長の人柄が見えたりするように、テイクアウトもできる飲食店に限定した「ガシ横テイクアウトMAP」を作った。「昔は市場やったけど、最近は子供が気軽に来れるような感じじゃなくなったから、お小遣いで買える70円のコロッケ、用意しているねん」といったエピソードなどが拾え、また校正のやりとりやMAPを渡したことのリアクションを通して、店長の人柄や性格を把握することができた。後々、これが名刺がわりのように「あぁ、これを作った人ですか」と認知されることにもなり、そういう入り口的な機能も果たすことになった。

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兵庫県伊丹市の伊丹市文化振興財団の職員時代の仕事。季刊発行のローカルメディア「アイテム」。「文化と街をつなぐ」をテーマに、地元の人も知らない地元情報に特化した。見つけて発信する取組で、これ以上の理想的なものはない。毎号テーマに特化した16pの冊子を3ヶ月単位で作り込んでいくことは、数々の街のキーマンと出会えることとなった。この出会いから様々な企画を一緒にやることになったことはもちろんだが、それ以上に「え?自分の街にこんな人おるんや、こんな場所あったんや」という読者の反応は、その後噂となり、阪神支局に赴任してきた新聞記者や阪神間エリア特集をする情報誌の編集スタッフが「情報源として関係性を作っておきたい」と連絡がきたのだが、それも「アイテム編集部にコミットしたら、伊丹の旬な情報や人を知ることができる」と情報媒体関係者に認知させたことは、かなり効果があった。

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と言っても、仲間を探し、見つけても”一緒にやる”には自分が何をしているか、何を提供できるか、というものがそもそもないと何も始まらない。それがなければ出会う事だけが目的化して、やはり内輪感のあるコミュニティになってしまうし、「うちにきて、やってちょーだい」というギブを求めるだけでは信頼性が損なわれる。なんでもギブ&テイク、50:50の関係性が大事なのだ。人と連携するには、まずはこちらから出かけて協力することから始めることが効果的だ。「出向いて相手の活動に付加価値をつけるコンテンツ(信頼関係を築く一歩)」があると良い。相手の“本丸”に出かけて、相手が得になることをする。取材して盛り上がって、出向いて、相手の活動にメリットが生まれるコトを行う。そうすると次は必ず「また、やろうね」「今度は行くわ」となる。ここがポイントなのだ。

では、どういうものがあればいいかと言えば、フットワークが軽く柔軟性の高いコンテンツだ。

 「伊丹オトラク」のような出張できる音楽コンテンツは、公園や飲食店、商業施設など、もともと人が集う場所とは相性がよく、様々な対応ができる(もっとも、オトラクは”普段使いの音楽”というコンセプトであったため、機材やステージも最低限で場の特徴を活かすミュージシャンが集っていた、ということも大きい)。

 逆に、イベントや文化施設などコンテンツを元々発信する機能を持っている場所であれば、効果的なのが〈カフェ〉。伊丹市昆虫館の展望スペースを舞台に、昆虫館で飼育しているミツバチから採れたハチミツを活用し、六甲山で定期的に出張カフェをしている人たちに協力してもらって限定カフェ「ハチミツカフェ」を実施した際は、新聞にも取り上げられ、これだけで十分、立派な企画となった。他の例では伊丹市立美術館の「シャガール」展で、色とりどりのオリジナルハーブティを提供する「シャガールカフェ」などを実施した。

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「伊丹オトラク」は、場のシチュエーションや雰囲気をうまく活用できるミュージシャンたちが揃っているため、実に様々なところで演奏している。商店街の朝の清掃活動、高齢者と地域の子供たちが集う「こども食堂」など、僕らが「応援したいな、ステキだな」と思うところに出向いたり、それこそ大阪の阪神百貨店の催事に呼ばれたりすることもある。商業ど真ん中であったり、社会貢献であったり、その幅は広いが、ジャンルは問わず、出向いて一緒にやっていくことで地域や近隣のコミュニティの顔役と繋がっていっている。近年は、オトラクのミュージシャンたちが、この演奏スタイルをリクエストされて、地域のフェスティバルや農村地に呼ばれるなど、活動するフィールドが広がり「オトラクがキッカケです」と感謝され、ミュージシャンのコミュニティの中でも「オトラク」が一つのブランド化していっている。

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兵庫県伊丹市の伊丹市文化振興財団の職員時代の仕事。「ハチミツカフェ」は伊丹市昆虫館の展望スペースが、昆陽池を一望できるビュースポットなのに、あまり利用されていないのが勿体無かったのと、伊丹市昆虫館で採れるハチミツも、売ることはできないし、関係者内で消費していたのを活用したいところから思いついた企画だった。得てして、こういう視点は内部にいると気づきにくく、実施した後、伊丹市昆虫館の方から「こういう切り口は学芸員をしていると思いつかなかった。また機会があれば一緒に何かしよう」と言ってくださったので、秋の鳴く虫を街中で愛でる企画「鳴く虫と郷町」を提案した。今となってはすっかり伊丹の秋の名物企画となった「鳴く虫と郷町」だが、キッカケはハチミツカフェのような出張的関わりだった。

ただ、人に頼むとコストがかかる…という心配を持つ人には、一箱古本市やミニ図書館(まちライブラリー)であったり、薫製機であったり、既存のモノで見栄えのするものを活用すると良い。(年配の人ならレコードもいいし、なんならスピーカーとパソコンだけ持って行ってご機嫌な音楽をかけるだけでも良い)。大事なのは、あらゆるシチュエーションを楽しむ柔軟性だ。これについては、日頃から自分の身近な暮らしをどう楽しむか、という視点を持っているか否かが大きく左右する。


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かつて一緒にシェアスペースを運営していたベランダ長屋の面々(みつづみ書房鹿鳴舎シロップ研究 か)はそういうフットワークの軽さが絶妙で、ちょっとしたイベントがあれば出張古本屋をやったり、マーケットイベントでご機嫌な音楽をかけたり、出張かき氷をしているが、もうそんな気軽さと自分たちが楽しいから、という理由に勝るものはないんじゃないかと思う。

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こういうことをやっていると徐々に「今度はそちらへ行きます」「私も一緒になんかしたい」という人が出てくる。そんな時、大体どんなものでも一緒にできる受け皿となる「懐深く何でも受け入れられるコンテンツ」があるといい。伊丹で言えば、音楽イベントやプラネタリウム、日本酒BARなどと融合した「鳴く虫と郷町」だ。最近で言えばマーケットやマルシェイベントがソレにあたる。

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兵庫県伊丹市の伊丹市文化振興財団の職員時代の仕事。「鳴く虫と郷町」は伊丹市の中心市街地100箇所以上で15種類3,000匹以上の秋の虫の音を愛でる企画。虫の音を愛でるだけでなく行政、文化施設、商業者、NPO、市民有志、アーティストなど多岐に渡る人たちが関連イベントを同時に実施してくれる。これも「和」「秋」「自然」「虫」というキーワードに関係していれば基本何でもOKとしている。公共の文化施設を運営するいたみ文化・スポーツ財団が主催しているので、参加の間口はかなり幅広い。

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兵庫県加西市、加東市で取り組むマーケットイベント「イチガタツ」「社のおにわ亭」。空き家やリノベーションをした旧家を活用したマルシェイベントで、それぞれ年に数回、という開催だが、迎え入れられる取り組みをしていくと出店者同士が繋がって新しい取り組みが生まれたり、新しい活用方法などが生まれている。人が集まる場、出会う場としてマーケットイベントは実に効果的だ。

迎え入れるコンテンツで大切なコツは、みんなが自分でできることをちょっとずつ出し合うだけでいいという関わり方だ。自分の活動の延長上に協力できる形がある、というところまで間口を広げたものがいい。小さな取り組みの集積が、一つのプロジェクトを作り上げている、という見え方を意識すると良い。そしてできるならば、集まっているもの同士が交流できたり、同じ時間や体験を過ごすコトを大切にしたい。むしろその

 しかし、その点で注意しておきたいのが、コンセプトやテーマである。本当に何でも良い、という風にすると、大切にしている雰囲気が損なわれたり、何でもあるはずなのに魅力的なものは何もない事態に陥る。

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 色んな取り組みを迎え入れるには、串でキッチリ一本通しておくことが大切だ。コンセプトと言った方がわかりやすいかもしれない。しかし、あえて「串」と表現しているのは、言葉で考えるのが苦手なタイプの人もいるからである。言葉が苦手なタイプの人がコンセプトを考えたり、話し合ってしまうと、却って魅力が削がれた凡庸なものになることもあるからだ。私自身もコンセプトとビジュアル、両方からディティールを決めていくタイプだからだ。だからこそ、ここではコンセプトが重要、という一択にはしておきたくない。雰囲気の「串」でも良いし、「何となくこの人なら良い」という相性の「串」でも良い。しかし、コンセプトという串を使わない場合はかなりディレクションが大切になってくるので、その場合は本当にわかり合っている数名のメンバーだけで決定権限を持ったままの方が良いだろう。一方、コンセプトで考えられる人は、タイトルやキャッチコピーなどを再点検することを勧める。コンセプトがキャッチコピーのような端的な言葉やタイトルから伺えるのであれば、より取り組みが明快となっていくからだ。

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 そして、いろんな串を持つことを推奨したい。毎回同じメンバーではなく、串によってメンバーを変える。実はここに工夫がある。ある一定規模の賛同者やプレイヤーが増えた後はたぶん少し伸び悩む。その時、串の変化とメンバーの組み合わせ方の妙で、鮮度を保つのである。いろんな串があるおかげで、集まって来る人の多様性が担保できる。

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さて、「串」について色々述べたが、見つけるコンテンツ、出かけるコンテンツ、迎え入れるコンテンツ。この三つのコンテンツが融合し、噛み合うと、「どんな相談でも応えられる」という状態ができあがる。むしろ、面白い人に出会った時、その人の事情に応じて、参加の関わり方を提案できる、という状態が実現してると考えたい。つまり出会いの純度を高めることができるのだ。それを続けていけば、つながりは必ず地域に根差すものとなるし、プラスのスパイラルが発揮されていくだろう。

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 さて、こうやって、関わる人が広がり増えてくると、今度は違う必要性や配慮が求められることが出てくる。それがチームづくりである。次回のnoteではチームづくりの最初のコツを伝えていきたい。


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今までのnote記事
<プロジェクトのHOWTO もしくはAtoZ>

・はじめに
「平成」という時代とファシリテーター、ワークショップデザイナーに至るまで

・プロジェクトが始まる前に気をつけたいこと
プロジェクト型チームの危険性と心構え

・さあ!スタート!そんなコツ
【コトの立ち上げ方、進め方】

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今までのnote記事
<ワークショップの記録と振り返り>

「HOW TO or NOT HOW TO」(アイデア創出系)

「ツレヅレ市場弁当」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)

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