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WSプログラムデザインの記録「HOW TO or NOT HOW TO」

実施日:2019.2.11 12:30-17:30

場所:ふじのくに文化情報センター

参加者数:約80名

イベント名「ふじのくに文化情報フォーラム2019 創造思考のイロハを学ぶ」

WSタイトル「HOW TO or NOT HOW TO」

カテゴリー区分:アイデア創出

プログラムデザイン&ファシリテーション:中脇、渡邉


【狙い】

創造思考を意識して使っているだろうか?程度の差こそあれ、それを自覚している人は少ないだろう。というか僕は意識していない。だから創造思考を学びたいと言われても、教えられない。なぜなら僕ではない誰かの思考回路に、部分的に僕の思考を伝えても、まったく機能するとは思えないからだ。

であるならば、そもそも考え方を考えるのではなく、最初の入口(設定)やアウトプット(出力方法)を変えることから初めてみよう。おのずと身体の使い方は変えざるえなくなり、伝え方も思考も状況にあわせざるえないようになる。そこで立ち上がってくる「いつもと違う」感じに敏感になってほしい。

これは創造思考の「HOW TO」講座ではない。「いつもだったらこうするのに」「普通はこうするよね」「なにこのやり方?!」というギャップや戸惑いに敏感になってほしい。それこそ、非創造思考の「NOT HOW TO」のツボなのだから。

課題解決のデザインではなく、悪ふざけ、いたづら、暇つぶし、個人的趣味。これらの初期騒動や無目的なものとの出会いから立ち上がってくる“なにか”をよく見届けてほしい。

【内容】

12:30-13:00 「知り合う時間」

◎狙い

・いろんな人と知り合うように。

・途中からでも参加できやすいもので、10分ごとに完結するアイスブレイクをする。

・いつもと違うぞいう雰囲気にしたい。

◎ゲーム

・仲間集め(●●といえばゲーム)

3〜4つほど、シアターゲームを用意していたが、「仲間集め」のみで終了する。「歩く&止まる」ゲームまで行きたく、渡邉氏の進行に介入してみたが、彼がどのグループにもかかわることを大切にしたい反応があったため、「仲間集め」のみとする。むしろ、渡邉氏の迷いのない瞬間的な反応から、彼の進行する時間は彼の流儀に一任し、こちらはすべて合わせることをここで決める。即断している、ということは「場が見えている」ということだから。

※会場デザイン/両端に荷物おき、上着おき用の長テーブル。イスは並べず、台車につんだ状態でOK。

13:00-14:00 「まなぶ時間・レクチャータイム」

(実際は13:00-14:10)

甲賀さんと中脇による創造思考へのレクチャー。甲賀氏は概念的なお話が中心。中脇は「へんてこ」「遊び心」をキーワードにした実例を紹介。(「淡路島カレー名作劇場」と「知らない街」「ツレヅレ市場弁当」「ワイルド午後ティー」)

※イスを各自で運び、好きな場所に着席。

※テーブルはなし。クリップ付き下敷きなどあると良い。

仕事で手がけた事例と仕事未満のまち遊びを並列で紹介することで、「要は日常を見つめる視点次第」というメッセージを伝える。淡路島のプロジェクトもウケたが、「知らない街」「ツレヅレ市場弁当」がかなり響いたようで、こういう手軽かつ変な遊びへのインパクトは最近高まっていることを実感する。

14:00-14:10 休憩

(実際は14:10-14:20)

14:10-15:00 「言葉にたよらない時間・アクションタイム」

(実際は14:10-15:20)

NOT HOW TO①「課題解決という思考を避ける」

日頃の悩みを紙に書いて、「今日は忘れましょう」と促し、クシャクシャポイしてもらう(実は後に使う)

ワークをやっていく上での狙いを改めて伝える。

行事名「創造思考のイロハ」であるが、「HOW TO」を伝えることが目的ではないし、創造的な内容を思いつくことが大事、というようにもしないために(そこを目標にすると介入しすぎる危険度が高まるとともに、安っぽいまとめ(自由に考えることで創造的になりましたね)を避けるためにも、「いつもと違う方法といつもと同じ方法との差異に敏感になり、今後、創造思考に対する内省を深めるための時間です」と“比べる”ことで発見があることを強調する。

全体の前置きを伝えたあとアクションタイムの狙いについても説明する。

◎実施ゲーム

1、歩く&止まる(自己紹介+知り合う)

2、ステータス(うそを楽しむ。自分と相手の価値観を図る)

上記二つのゲーム後、相手と対話するやり方を比べた時に、自分の中でどんな変化があったか話し合う

3、ナイフとフォーク(不自由は楽しい(非言語)。イメージ共有)

この時間は、後半のクリエイションタイムのために、頭と身体の準備運動を兼ねていたため、他にもYes andを体験することや、無責任・不条理を楽しむもの、理屈で理屈から外れることなども目的としたゲーム5つを用意していた。しかし時間の都合上、その中から2つだけ実施することにした。ちなみに最初の「歩く&とまる」は、本来なら開場前の時間にやろうかと思っていたものであるが、まだ参加者同士がどんな人達がいるのか、まったく知らない状態だったので、用意していたゲームをするより、これを実施することを最優先とした。この動的判断は開演前と最初の休憩中に渡邉氏と話して決めた。もう一つの動的判断は、1つ目のゲームと2つ目のゲームが終わった後に、比べて語り合う時間を設けたこと。講義と体験をあわせたプログラムの場合は、頭の理解と身体の経験が接続されていないことが多いため、こまめにふりかえる時間を設けることで、自分の変化や感情の機微のメタ認知が生まれ、体験による変化が頭に定着できるからである。その部分を大切にしたため、3つの体験の中にある“エラーやバグを楽しむ中から生まれるもの”“相談せずとも即興から生まれる共振関係の創造性”という部分は丁寧に説明し、最初の講義とこの時間の接続を意識する。なお、「ナイフとフォーク」は「○○人で○○を表現」という即興ゲームだが、ここでかなり参加者の発想力や心と身体をひらく状態が確認できたので、後半のクリエイションワークへの成功イメージがかなり掴めた。またメイン進行の渡邉氏より事前の打合せで「このゲームでは、多くのグループが表したことについて、“ちゃんとみてます”と伝えるためにも、リアクションをしていってください」とポイントを伝えられていたので、私もかなり見て回りながら、コメントをつけていったのであるが、渡邉氏は、私の「もうええやろ」という状態よりも、1歩2歩踏み込んで、ほぼ全部のグループへの反応をここでも徹底していた。彼の「安心・安全」の場づくりをホールドする流儀には、心底感心した。むしろ反対に演劇WSの危険度を回避するには、ここまでやらないといけないんだなあ、ということを実感した。

※会場デザインはイスを会場端によせ、フラットな状態。

15:00-15:10 休憩

(実際は15:20-15:30)

15:10-16:00 「考え・つくる時間・Creation タイム」

(実際は15:30-16:15)

この時間の説明を冒頭に行う。

【流れ】

1、グループリーダーの紹介

2、グループ分け。(グループリーダーと参加者を均等にランダムにわける)

3、簡単なグループ内での自己紹介

4、アイスブレイク「輪ゴムくくり」

5、冒頭に捨てたお悩みくじ引き

6、お悩みをお題にした演劇づくり(場面はグループリーダーが普段活動しているシチュエーション。人の出はけはあらかじめ、指示。)

構成上、開場直前まで頭を悩ましていたのがこの時間。どうすればドラマが生まれるか(物語は進むか)、どのように伝えれば思考の転換が生まれやすいか、そのためのグループ分けはどうするか、時間の長さは…などなど。当初の予定では、演劇づくりの前に2つぐらい発想転換とアイデア着想をドライブさせるゲームを二つほど考えていたが、本番中、流れの雰囲気から、ゲームはなしでいける、と判断した。が、休憩し、チームに分かれた瞬間に、少し温度が冷えた印象が拭えなかったので、瞬間的にゲームを一つ入れることにした。それが輪ゴムくぐり。視点をどのように変えるかでバリエーションの幅が生まれることと、身体接触もあるので、リラックスできるかな、と考えて。あと、一方で、悩みを素材にしてドラマをつくっていくわけだが、「なぜこのような視点の転換を促すか」を頭で理解してもらうため、全国各地で課題を視点の転換からユニークな活動をしているプロジェクトを色々紹介し、「悩み」という素材をどのようにあつかえばいいのか、というのも伝える。ここでの本質的構成は渡邉氏の演劇WS経験に頼る。「場面はグループ内だけで共有し、画像は他グループの人には見せない」「出る順番を決めると物語が動く」「即興的に発表までいったらいいので、正味30分もいらない」などなど。個人的にこの時間に危惧していたのは、悩みを素材にするため、理屈に思った以上ひっぱられること。悩みを考えることに気を配る意識と時間が必然的に減るこれらの工夫には「なるほど、うまい演出だ」と思った。なお、渡邉氏は演劇づくりに費やす時間は15分と判断した。私はせめて20分だろ、と思っていた分、驚いたが「ああ、5分追加ができるようにするためかな?」と納得し進行の様子を見守っていたが、本当に15分きっかりで締め切ったのには仰天した。

16:10-17:15 発表(1グループ3分)

(実際は16:15-17:30)

舞台上にて発表。発表する前に「静岡誰かのお悩み劇場 第○話 〜(ひいた悩み)〜 。はじまりはじまり〜」とアナウンスする。

即興劇として高いクオリティと、はっちゃけて発表してくれる数々の作品は、驚きの連続であった。視点の転換としては「悩み×場面」がうまく噛み合い、特別にユニークなものへの有無より、「演劇」が加わることでディティールが細かく表現され、随所にその場で何かをやる際の「ヒント」が散りばめられていた。そのため、こちらとして発表を通し「このグループは悩みをどう捉えたか」「演出や演技の細部から、他のアイデアにつながる点はあるか」「発表が現実の事例に共通している点はどこか」など細かく見つめ、瞬発力で15グループを15通りの返答をすることに集中力を要した。これは意外に難易度が高い。粗い視点で応えていくと「あぁ、この人は観ていないんだな」とバレてしまう。この瞬発力は常日頃から「モノゴトの本質は何か」「この人は何を伝えたいのか」といった「観る・聴く・訊く・応える」といった対人コミュニケーション力と、それを言語化する内省の筋トレにつきるだろう。このあたりはACOPマンデイプロジェクトのFAの経験が異常に役に立っている。

17:15-17:30 まとめ

(実際は17:30-17:45)

発表グループで、今日の気づきや発見、学びについて語り合ってもらう。

その後、主催のふじのくに文化情報センター長や甲賀氏からのコメントをつけてもらって終了。

時間はなかったが、今日のふりかえりをしてもらうことを重視した。今日は「いつもと何が違った結果、どう変化があったか」を語り合い、持ち帰ることが重要だから。個々で内省し、持ち帰ってもらう、というふうに省くこともできるのだが、語り合うことで確認しあえる、ということにつながり「ああ、この気づきは私だけではなかった(ということは、これで良かったんだ)」という学びの安心化である。


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後記

このWSでの狙い(というより、むしろ仮説)であった「出力(アウトプット)の方法が変われば、出てくるものの質が変わるのではないか。さらに言えば、思考にも変化が生まれるのではないか」は、個人的には一つの解であるように感じられた。そこに「演劇で発表をやってほしい」という甲賀氏のリクエストを交えたわけだが、旧知の仲である渡邉氏と一緒に手がけたことは非常に大きい要因であった。一緒に一つのWSを手がけたのは初めてであったが、彼を大阪芸大の授業でゲストに招き、演劇WSをやってもらった時に、そのプログラム構成の堅実さと言語化できていること、動的判断のブレのなさが確認できたことが大きかった。ファシリテーターは、ジャズのセッションのように互いに動的判断のポイントを確認しあいながら、即興的な構成にも応じていくような体験は、自己研鑽にもつながるし、自らの判断力についても確認ができ、確固たる在り方が形成されることにもつながる。往々にしてファシリテーターは孤独である。誰かと現場を手がけても、自分が一番、ワークショップやファシリテーションに詳しい、ということが多く、満足なフィードバックがもらえることが少ない。ワークショップデザイン力、ファシリテーション力をあげたい、という人には常日頃、「年に一度でいいから、信頼できるファシリテーターやワークショップデザイナーと組んで実施したらいいですよ」とアドバイスをしている。まさに自分にとっても、今日のワークショップは新しい経験ができたキッカケであった。


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