3つのコツ

PJ02-コトの立ち上げ方、進め方

事例)「伊丹オトラク」「社のおにわ亭プロジェクト」

前回のnoteでは、プロジェクトの「目標設定」「合意形成」「一歩目」の難しさに対し、プレイヤー、プランナー、ファシリテーターの3つの役割を噛み合わせるIDCAサイクルと、プロジェクト型チームの活動指針について記述したが、「では、どんなコトから立ち上げていったらいい?」ということを述べていきたい。

すでにあること(やっていること)を活用。無理しない。

・狙いの一石三鳥

・小さく試し、イメージを共有する

なんだ、こんなことか。と思うだろう。当たり前じゃないか、と思うだろう。そう、こんなことでいい。でもなぜか多くの人は何かをやるとなったとき、難しくしたがる。話し合いたがる。プロジェクトは多種多様な人たちで成り立っているとは散々言っているが、言い換えると、プロジェクトはそれに生活の大半の時間は割けない人たちの集まり、ということだ。だから少しずつ出し合うことでモノゴトが動いていくことを大切にした方がいい。それぞれの本業のペースで考えたら、歩みの速度が遅いと思うこともあるだろう。しかしそれぐらいの遅さの方が、関わる人が多いゆえに、頭も身体も、理解と納得のペースがうまく紡げる。

2005年から14年間続いている兵庫県伊丹市の「伊丹オトラク」の歩み方含めて、もう少し具体的に説明していきたい。

ここでは一旦、プロジェクト型チームでの進め方というよりも、コトの立ち上げ方、進め方のコツとして語りたい(実のところ、コトの立ち上げ方のコツとプロジェクト型チームの進め方のコツはまた別物であるからだ)。

兵庫県伊丹市 いたみ文化・スポーツ財団 「伊丹オトラク」

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すでにあること(やっていること)を活用。無理しない。

 年齢、背景も参加動機も多種多様なプロジェクト。一歩目も合意形成も目標設定も難しく、”アイデア重視で即行動”と言っても、具体的なイメージがわかないことには、やはり及び腰になる。何も奇抜なアイデアを実施する必要はない。簡単な話、すでにあること、やっていることをアレンジしたり組み合わせたりすることからスタートすることをオススメする。

 ゼロを1にすることはやはりなんでも大変だ。1を2、3としていく方がやりやすい。一緒にやろう、としているメンバーの「すでにあるもの(やっていること)」を活かすことや、組み合せたり、アレンジしたもので、まずはコトを立ち上げていうことが大事だ。すでにやっていることだから、イメージがしやすく、話が早い。「無理しな(い)」くてもできることだから、了承もされやすい。そしてカタチにしてしまうと、ちょっとした関係がここから生まれる。その関係が大事なのである。


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伊丹オトラクの初期は、自分一人で近隣でライブをする店舗を渡り歩いたり、店舗の紹介から輪を拡げたりしていて、「全員集まって話しませんか?」みたいなことはしなかった。まずはプロジェクトとして、「どんなことをしたいのか」「何がしたいのか」というのをカタチを作り上げて「それだったら、こんなの、どう?」と提案されるぐらいでいいと思っていた。

・狙いの一石三鳥

 また、“すでにやっていること”というのは、すでに“それぞれがやる理由やメリットがある”ということでもある。だから、それを活用することの段階で、関わる人たちはすでに前向きな理由があるということだ。伊丹オトラクの初期のMAPづくりの段階では「新しくライブをやってほしい」ということは一切言わなかった。「今まで通りでいいので、そのライブ情報をまとめさせてください」というコミュニケーションから関係づくりを始めた。

今のご時世、みんな忙しい。忙しいが、新しいことも手がけなければいけない。この相反する悩みを生む原因の一つが「ずっとやっているから、やめられない」問題である。「新しく手がける分、今までやってきたことからやめる」は、実は現場では中々通用しない。むしろ担当者がそれを受け入れられない。すでにやっていることを「こんな風に変えてみない?(既存の取り組みの見直しをさりげなく行う)」「連携することで拡がりをアピールしてみない?(規模や新たな展開をアピール)」「今やっていることは今まで通りでいいし、このプロジェクトに参加していることは、それはそれで新しいプロジェクトという位置付けでもいいんじゃない?(既存事業でもカウントでき、新規事業という意味づけもできる)」といくつもの意味合いを一つのプロジェクトから提案する。3〜5ぐらいのメリットをすらすらと言えるぐらいが、適正なプロジェクトデザインであるし、それぐらい関わる人のメリットを考えることを心構えとしておきたい。

“プロジェクトはそれに生活の大半の時間は割けない人たちの集まり”と言ったように、少しのできることをお互い出し合うのだから、小さくてもいくつものメリットを生むような取り組みにすることがコツである。

伊丹オトラクはお店側のメリットは「個店の動きが全体の動きになる(街の面白い動きに参加)」「公共施設のプロジェクトなので色んなところにチラシを撒いてくれる(ライブの宣伝になる)」「劇場での本番時にも挟み込んでくれるから終演後に飲食店情報として寄ってくれる(本業の宣伝になる)」みたいなことがある。

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・小さく試し、イメージを共有する。

目標設定も徐々に目標や目的が見つかってくる、という状態でいいと思う。むしろ、それより大事なことは、関わってくれる人たちと同じ体験をどれだけ作るか、ということだ。

これに関しては言うよりも実際の変化を見せた方がいいと思うので、「伊丹オトラク」の小さく試しながら変化してきた経緯を見てもらいたい。

“普段づかいの音楽”というコンセプトも、初めの頃は“もっと自由に、もっと楽しく音楽を”と言う別のコンセプトで、それが徐々に変化して方向性がより定まった、と言う経緯もある。


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「すでにあること(やっていること)を活用する」という考え方も少しずつその解釈の幅を広げ、「すでにある”風景”を活用する」という風景の使いこなし方を提案していった。

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木陰を日陰避けにする、石垣を客席に見立てるなど、いわば借景からステージを作っていくと言う感覚であった。

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それがその内、風景だけでは飽き足らず、「天候」すらも活用しようとなり、ステージは「ハイエースの中」という気軽なスタイルをどんどん確立していった。この頃から「普段使いの音楽」というコンセプトを見つけていったように思う。

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そうなってくると「音楽を聴いてもらう」というライブ形式から脱したカタチで音楽を考えるようになってくる。「伊丹オトラクピクニック」と言う公園を活かした音楽の実験は「音楽と日常の関係性」を手がける試みであったと言える。

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「普段使いの音楽」というコンセプトが「音楽と日常の関係性」を扱うようになってきたとき、さらに手がけられるイメージは広がってきて、「流し」演奏という昔の演奏スタイルのリバイバルを思いつく。

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「伊丹まちなかバル」との同時開催によって、一躍大規模系の音楽イベントになってきたわけであるが、そうなってくると、過去にやってきたたくさんの小粒の実験がここで改めて、再利用されたり、さらなるアレンジによって、街ぐるみで日常を音楽で遊び倒す一日が生まれるようになる。

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伊丹オトラクは15年間も続いており、まずは小さく手がけて、うまくいったものや、タイミングがあったものは、活用されていったりしているが、もちろん消えていった試みもある。

とは言え、最近ではこの「普段使いの音楽」のカタチに共感してくれ長く関わってくれているミュージシャンやブッキングディレクターが、伊丹以外の現場でも、このコンセプトの風景をあちこちの現場に種まきのように手がけてくれていることが嬉しい。(特に淡路島では自分のほかの仕事を縁に、ヒューマンネットワークの交流が生まれ、イチゴ農園、水産会社、玉ねぎ畑と演奏するシチュエーションでの実現が生まれている)

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他地域に伊丹オトラクのテイストが浸み出していることは、伊丹オトラクとはまた別の展開ではあるが、「小さく試し、イメージを共有する」ことの積み重ねの一端を垣間見ていただければ幸いである。

すでにあること(やっていること)を活用。無理しない。

・狙いの一石三鳥

・小さく試し、イメージを共有する

といったコツで拡がるプロジェクトを紹介したが、これらの価値観で立ち上げられたスタートして間もない他のプロジェクトも少し紹介したい。

兵庫県加東市 社商店街「社のおにわ亭プロジェクト」

【加東市】
兵庫県の中心から少し南東で「北磻磨」と呼ばれるエリアに位置する。人口約40,000人の内陸都市で、旧加東郡の社町、滝野町、東条町が2006年3月20日に合併して、新設された。隣接する自治体は篠山市、三田市、小野市、三木市、加西市、西脇市。やや小規模の市であるが、教育機関は充実しており、人口推移も緩やかな減少程度、年齢構成も30〜40代も比較的同規模の都市と比べて多い。

 相談は2016年ごろ、たまたま知り合った兵庫県の職員さんから「ちょっとここの商店街でどうやろ?」と声がかかったのが関わり始めたキッカケだった。兵庫県加東市の特徴から言えば、若い層も充分おり、日本酒の酒米である山田錦の一大産地であることからも地域資源は少なくない都市なのだが、依頼主である社商店街は、随分高齢化が進んでおり、人通りも少ない印象だった。

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しかし、かつては門前町や官庁街として栄えた経緯もあることから、商店街には立派な神社仏閣や100年以上商いを続けてきた商家があるなど、趣きは充分すぎるほど残っていた。

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「ここには何があります?」と聞くと、地元の商店主さんたちは神社仏閣や史跡を一通り言った後は「昔は色々あった」と回想モードに入っていった。しかし、視点をずらせば「語り部はいる」。またここは加東市の中でも小高い丘で、実に夕焼けが美しく日暮れとなれば商店街が真っ赤に染まるのも光景として素敵であった。なんとなく二つのイメージがここでぴったりとハマり、「ノスタルジー」とか「かつて栄えた商店街」というイメージをそのまま大切にしても良い気がした。何より会合に来てくれるおじいちゃんたちに悲壮感が全くなく「このまま縮小していくことを受け入れていっても良いんじゃないかな」と思えたからだ。(すでにあるもの・風景を活用する。無理しない)

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 ぼんやりとそういうイメージを掴んでいたので、商店街の会長から「MAPを作りたい」という発案を受けた時は、ただのMAPではなく、商店街のかつての雰囲気を伝えるシンボルビジュアルになるポスター的役割を果たすことと、語り部の方々のウンチクを載せて街の厚みを見える化すること、カットイラストからポストカードや商店街の作成物にも転用できる汎用性を想定し、商店街の方向性を緩やかに束ねることも狙いにした。(狙いの一石三鳥)

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するとまた会長から「このMAPを活用したスタンプラリーの開催に併せて手作り市みたいなマーケットをしてみたい」と希望を受けた。神社の敷地でやることもいいとは思ったが、近隣で類似イベントをやっていることもあったし、まだまだこの商店街にマーケットイベントで出店してくれるようなネットワークも少なかったため、もっと小規模で、でも社商店街の特徴を伝える中身にしたいな、と思った。(小さく試し、イメージを共有)

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 そんな折ふと思い出したのが、MAPづくりで散策していた時に見つけた商家だった。「立派な建物ですね〜」「うん、でもあそこは今は空き家やねん」「え?!こんなキレイに手入れも行き届いているのに?!」

散策中にこんなやりとりもしたこともあり、会長に無理言って中を見学させてもらったところ、全然使える状態で、商店街の数少ない若いの方も「こんなところ、あるんですね〜」と思わず口に漏らしたのを聞いた時「地元の若い店主さんでも新鮮なのであれば、充分に資源になるな」と感じ、この空き家を一日だけ解放して、その中でマーケットイベントを実施することにした。(すでにあるもの・風景を活用する。無理しない)

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「社のおにわ亭」というネーミングは、社商店街の商家や古民家は、みんな京都の町家のような鰻の寝床のように間口が狭く、奥行きがあるのが特徴で、大抵の方々は中庭を持っていたこともあって、この建築様式を社商店街の一つのフラッグにして発信したいな、と思ったことと、単なるマーケットイベントを超えて、空き家を社商店街周辺の加東市のニューファミリー層も集えるようなコミュニティの場づくりにもなったらいいな、という想いを込めた。(狙いの一石三鳥)

門前町でもあり、官公庁の街の歴史を持つ商店街らしく、かつて代書屋であった立派なお屋敷を舞台に出店は大小含め15店舗。物販、飲食、ワークショップ、似顔絵、音楽とバラエティに富んだ内容だ。売り切れも出た盛況ぶりながら、それ以上の手応えが実はあって、それは僕らも予想外のものだった。

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マーケットイベントがどこもかしこもやっている中、旧商家を舞台にしたマーケットイベントは「空き家活用」「商店街の賑わいづくり」「ニューファミリー層の誘客」「新規出店希望者と大家さんのマッチング」など、いろいろな切り口から注目をあび、新聞にも大きく取り上げられた。(狙いの一石三鳥)

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客層は、出店のラインナップからは30代40代が中心と思っていたが、60代以上の客層が2.3割はいてて、古参の商店街の方々の知り合いや、大家さんの知り合いも多くきており、「このたびは、おめでとうございます」「覗いてみたいと思っていたんです」「綺麗なお庭ですねえ」といった挨拶がいきかっていた。

大家さんも「いやいや、中々行き届かないところも多くて…」と照れながら謙遜する姿に、(あ、これは大家さんの発表会みたいなことにもなってる)と気づくこととなった。これは集客層や来場理由が普通のマルシェではまちがいなく有り得ない。この日の主役も来場者によっては違う人物で、人口が決して多いとは言えない地域において、かなり豊かな状況が現前していた。

また近隣の別の空き家をお持ちの大家さんも覗きにきて「うちも昔は米問屋だった空き家があって、つくりも豪華だから、みにきてほしい!」と連れて行かれる展開になったり、「こういう一時的な活用なら、うちも開いてもいいよ」とこれも見学させてくれることになった。(小さく試し、イメージを共有)

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商店街の方々とも「こうなればいいな、と思っていたことが、まさか一回目からできるとは!」と興奮気味になったが、あらためて、ここは歴史ある目抜き通りだったんだな、と再発見することとなった。先祖代々の立派な建物を使わなくなってても、ずっと綺麗に手入れしていた。

この想いを商店街が引き継ぐ形でパブリックに開く場づくりを目指し、2回目以降、マーケットの開催を通しながら、休眠状態だった旧家が少しずつ開かれていっている。(小さく試し、イメージを共有)

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こう振り返るととんとん拍子で発展したように思われるが、当初、高齢化し空き家や閉店が増えている商店街で、人通りも少なく、さてどうしようと頭を悩ましていたけど、なんか元気なじいちゃんたちが多いなあ、と思ってて、その面白い不良老人たちと、空き家ツアーしたり、駐車場で酒盛りしたり、淡路島へレトロ洲本を視察したりしながら、徐々に、ここだからできることを紡いでいったことが成功要因であろう。

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「やってみなくちゃわからない」「具体的に動けば具体的な反応や形が見えてくる」ということに尽きるのであるが、コトの立ち上げ方、進め方のコツである

・すでにあること(やっていること)を活用。無理しない。

・狙いの一石三鳥

・小さく試し、イメージを共有する

ということが少しは幅を持って伝えられただろうか。

実際、加東市では商店街発信からの動きであったことが、行政も動き始め、改めて古民家活用のプロジェクトがテコ入れされようとしている。また運営も商店街以外のメンバーも集うようになり、実行委員会化しつつあることから、このプロジェクトも「輪を広げ、どのように進めていくか」という次のフェーズに入っていることがわかる。

それでは、次回のnoteでは、【仲間のつくりかた、見つけ方、輪の拡げ方】と【風通しの良いチームの作り方】などに触れていきたいと思う。



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