虹霞

のんきに小説を書く人です。 よろしくお願いします。

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最近の記事

灯篭流しの村 ~8月15日~①

お盆休みはもうあと2日を切っていた。クライマックスへと差し掛かっているのだ。 特に面白みのない夜は明日への期待と不安とその後の哀しみで埋め尽くされていた。明日を思うと明日の夜のことまで考えてしまう。 もう一度夜が明ければ、私は。 星空に手をかざすと、少し星が透けて見えたような気がした。それは終わりの始まりの合図で、その星を見てはまた胸が痛む。 蛙の声は息継ぎ一つなく続いている。いや、彼らは息を吸って吐いて、生きている。 私は湿度の高い空気を吸った。でも暑くない。 一人屋根に座

    • 灯篭流しの村 ~8月14日~

      風鈴の音がして、私は目を覚ました。 感じる明るさから改めて夏を感じる。 そういえば今日が準備の日だった。 ゆっくり起き上がり暑くてよけられていた布団を畳む。 寝相が悪いのは相変わらずで、これのせいでよく風邪をひいたものだった。 食卓に行ってみると、誰の姿も見えず少し冷めたご飯だけが置いてあった。 もう祭りの準備へと向かったのだろうか。時計の針は十時二十分を指している。寝すぎてしまったようだ。 食べていこうか迷ったが、この暑さにやられ夏バテをしているようで食欲は湧かなかった

      • 灯篭流しの村 ~8月13日~

        誰かのために流す灯篭はとても綺麗だった。 何十年、何百年前の人々が現実世界へと帰ってくるという。 ロマンチックな伝統に思いを馳せる人は昔亡くした大切な人や、友人を思いお盆の最終日に灯篭を流す。 それはとても特別な日。 それは私も待ち遠しかった。 私はあの子に会いに行く。 お盆が終わればあの子はいなくなってしまう。 私の一夏は短くて暑い。 「いってきます」と言ってリビングから笑い声が聞こえてくる家を出た。 外は蝉の声で囲まれていて、蒸し暑さを感じる。 上からも下からも暑さが焼

        • 分かってたよ、なんて、ね。

          君の言葉はずっと前から分かってた。 あの約束だって何もかも嘘だったのかな、なんてさ。 もう考えたってもう君は振り返りさえもしないからさ。 そんなの、そんなのずっと前から。 君の言葉一つひとつ、全部疑って、本当の君の気持ち探してた。 ボクに合う言葉何かないかなって。 君は好きだったかな。ボクと同じだったかな。 きっと違うよ。 君の『好き』はボクと違うよ。 なんでだろうね、ずっと前から無理なことくらい知ってたよ。 全部君のせいだよ。 帰り道一緒に居た記憶も、ここで一緒に笑った

        灯篭流しの村 ~8月15日~①

          ははっ。

          私の声は聞こえているだろうか。 あなたの鼓膜に空気の振動は届くだろうか。 諦めてしまえばいいのに、何を藻掻いて生きているの? もう終わりだよ。この世界に何を求めているの。 あなたが悪い癖に。 笑わせないでよね。 ははっ。 ほら歩いてよ。私の隣歩けないの? なんで、同じ歩幅を見出して歩いてよ。 私を愛したその言葉はいつから家出を図ったの。 もう消えちゃったじゃない。 早く連れ戻して。 私のもとへ連れてきてよ。 逃げない様に、離れぬ様に、閉じ込めたあなたが一番愛らしいわ。

          ははっ。

          応答

          あなたとはいつから逢っていないのだろう。いつも隣にいたはずなのに。 この夜空を見ていたはずのあなたは今私を見ていてくれているのだろうか。 いつか一緒に見ようといった、その星はここにある。 横にあなたは見当たらないけれど、きっとそっちから見ているでしょう。 あの日、すべてやめてしまってこの星を見に来ればよかったなんて思ってしまう。後悔はあなたのもとには届かないまま落ちていく。 あなたは言った。 「明けてほしい夜なんてないのに、朝日はいつも昇ってくる。そんな毎日に幸せを

          お手紙

          隣の家の君へ。 自分には好きな人が出来ました。 これが本当に恋というのか定かじゃないです。でもその子が好きなことは本当なんです。 その子はとても優しくて、とても一緒にいて楽しいんです。いつも一緒にいたいと思わせてくれます。 でもその子のこと、好きって言っていいんでしょうか? 自分は独占欲が強いです。束縛もしてしまうかもしれないんです。 最悪ですよね。知ってます。 その子はそれでもいいと言っています。 でもそれは恋人としてではなく、友達としてなのでしょう? ごめんなさい。自分な

          お手紙

          雨ならば

          雨、雨、雨、アメ。 そこまで好きじゃない味。近所の子がくれようとしたものだからもらっただけ。小さい子の気遣いを無碍にするなんて、中学二年生である自分には、してはいけないことだ。 だから猫をかぶって笑顔でもらってやった。そのあと後ろに居る親御さんにもきちんと作り笑顔を見せてお礼も言った。できる子を演じるのはいろいろと得なことがある、はずだ。まだ本当かなんてわからないけれど。 その子は嬉しそうに笑ってお母さんのほうへ戻っていった。 元気に水たまりを蹴って。黄色の長靴にカエルの合羽

          雨ならば

          6月は君の匂い 〜第三章〜

          あの時、アマクは無意識に私の名前を呼んでいた。 私はあの日、彼女を思い浮かべていた。 6月の雨に見蕩れ、空を見上げていた。 2人で出かけた場所も、景色も感情も、彼女の表情さえも、何もかも覚えている。 私はなぜ忘れてしまったんだろう。 彼女の名前は毎日、誰よりも呼んでいた。私の名前を誰よりも呼んでくれた。 振り向いてくれて一緒に笑って、一緒に話して、そんな記憶はしっかり鮮明に覚えているのに。 逃避行だってした。 悪いことだってした。 寄り道だって、夏祭りだって行った。 ゲーム

          6月は君の匂い 〜第三章〜

          あ、こういう人もいていいんだ

          この世界には、二つの性がある。 男性と女性。 この二つは、やがて恋に落ちたり結婚をしたりするもの。 男性は恋愛対象であり、将来結婚する人がいる。 それが普通。 そう思っていました。 しかし、それは間違っていたんです。 ただの思い込みだったのです。 性が二つなんてことはなかったのです。 私はこんな世界があると思っていませんでした。 テレビでゲイの方を取り上げていても、自分には関係ないこと、無縁なこと、とばかり考えていました。 私は違うと思っていました。 実際その時好きにな

          あ、こういう人もいていいんだ

          6月は君の匂い。(第二章)

          彼女はよく、自分の夢を語っていた。 彼女は持病があったため、寿命も分かりきっていた。 「夢があるんだよね。絶っ対叶わない夢。」 彼女は病室のベッドから空を見上げている。 外はポツンポツンと雲が浮かんでいる。いわゆるひつじ雲だ。 「私はもう長くないからさ、死んじゃった後のこと考えるようになったんだ。もう会えなくなっちゃう、とかそんなことより、来世のこととかもっと楽しいこととか、そっちの方が気が楽だから。」 口元に薄く笑顔を浮かべている。 「何になりたいの?」 次は、

          6月は君の匂い。(第二章)

          自己紹介をしたいと思います。

          皆さんこんにちは。 虹に霞むと書いて、「ナナカ」と申します。 私は、あまり記事を書いていないので慣れないですが、私のことを知っていただけるよう、頑張っていこうと思います。 ・職業は? 学生です。 時間はなくはないですが、記事に充てるということはあまりしていません。 ですので投稿も不定期で、気まぐれになってしまいます。 できるだけ早く記事を書くことができるよう、改めていこうと考えています。 ・年齢は? 秘密です! ・血液型は? A型です。A型って整理整頓とかできるイメージ

          自己紹介をしたいと思います。

          6月は君の匂い。(第一章)

          私は空を見上げた。雨が降っている、と改めて感じた。今にも雨が目に入りそうだった。目を薄める。 すると、少し雨が弱くなった。私は不思議に思い、空を見回した。そこには雲の隙間から見える光があった。 綺麗だな、なんて呑気に考えながら歩く。 そんなことをしているうちにみるみる雲はどけ、鮮やかな夕暮れの空が見えた。 そして私はまた、綺麗だな、と思った。じっくりと見ていると、少しだけ光が薄くなった。何故だろう。 するとそこには、人の姿があるように見えた。本当に人なのだろうか?いや

          6月は君の匂い。(第一章)

          心の内にあるもの

          私は好きな人が出来たことも、付き合ったこともない。もちろん告白もされたこともしたこともない。 だが、私は恋愛アニメが好きである。とてもキュンキュンするのが良いのだ。 しかし、恋愛しているのを見ているのと、自分が実際に恋愛をすることでは訳が違う。あんなにスイスイ、両想いだって知らないけど、自分の気持ちを伝えたかったから告白してみたら、なんと相手も同じ気持ちでした〜!、なんてそんな夢物語が現実で成功するはずがない。そんなに簡単に恋とやらが進むのであれば、彼氏、または彼女居ない

          心の内にあるもの

          6月は君の匂い。(プロローグ)

          あの子は四年前に死んだ。 私はまた、死んだ6月の雨を脳裏に浮かばせてしまった。 雨の中、1人で歩いていた。 私は田んぼに囲まれた道を歩いている。 履いているスニーカーには雨水が染み込み一歩地面を踏む度に靴下から水が出てくるのが分かる。凄く気持ち悪い感覚だ。 制服も濡れてしまい、肌にシャツがくっついてくるのも分かる。 地面には水溜まりができている。それを俯きながら見て歩く。 どこを見回しても田んぼと空しかない、なんて見ていても面白くない景色だ。 もっと都会に住みたかった、と最

          6月は君の匂い。(プロローグ)