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第39話 プチウェディング終了

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2012年6月25日。

ピアホテルでの深夜バイトの後、僕は珍しくドトールコーヒーにいた。何が珍しいかと言うと、この僕が姫路の中心である「みゆき通り商店街」にいる事だ。

オードリーウェディングを辞めた2009年から僕はこの商店街を全く歩いていない。この3年、常に人目につかぬよう大通りを避け、下を向いて生きてきた。大好きな神社巡りでさえ今では神社に怯えるようになり全く行っていない。

あの一件は、僕の全てを変えていた。

それでも僕は勇気を振り絞って、もう一度この姫路の街で、そしてもう一度ブライダルでチャレンジする決意を固めたんだ。だからそんな心の弱い部分をひとつひとつ払拭していかなければいけないと思っていた。

今日ドトールを選んだのは、そういう理由からだ。

世間から見たら普通にモーニングをしている穏やかな日常の風景だろうが、僕にとってはメンタルを破壊するくらい大きな変革であり弱点克服といった感じだった。

僕は気分を紛らすためにスマホにイヤホンを差してユーチューブを開いた。どう検索してたどり着いたのかは覚えていないんだけど、スマホの画面からは山下達郎さんの「I LOVE YOU」が流れていた。

ーーー 心がとても穏やかになるのを感じた。

(この曲、今後のスウィートブライドの企画やPVとかでBGMとして流せたらいいかもしれないな・・)

スウィートブライドの目指す「大人ウェディング」の世界観がそこにあるように感じて、僕はしばらくリピートで聴いていた。

いつしか、みゆき通り商店街への恐怖心が払拭されていくのを感じ、少しずつだけどその恐怖心は仕事モードへと変化していった。仕事モードというよりは、ウェディングモードと言った方がこの時は合っていたかもしれない。

こうして僕は自身の重症患者してのリハビリを意識的に増やしていった。

2012年6月30日。

今日でプチウェディングのコンサル契約が終了した。
2009年、路頭に迷ったあの日、神谷さんが手を差し伸べてくれ僕は何とか生きながらえる事ができた。

プチウェディングというプロデュース会社は、これからの僕の人生にとってとても大きな意味を持つだろう。僕自身の人生の大きな変換の時をこのプロデュース会社とともに生きれた事は何物にも代えがたい財産である。

スタッフの皆に挨拶をし、神谷さんにお礼を述べ、僕はプチウェディングのサロンを後にした。

本当にありがとう・・・。

ーーー その日の夜。
ピアホテルの深夜バイトは無い日なので、プチウェディングのサロンを出た僕はそのまま家に帰宅した。

「今日でプチウェディング終わったよ」

キッチンで洗い物をしているワイフにそう言って、僕はダイニングの椅子に腰をおろした。

「お疲れ様でした」

ワイフはそう言うと、僕の前にコーラのペットボトルを置いた。

「ん?コーラ?」

「もうお酒やめたんでしょ」

そう皮肉っぽく微笑むワイフに、僕も少しふてくされながら笑顔を返す。

さぁ、明日から7月だ。
いよいよスウィートブライドがスタートする。


第40話につづく・・・



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