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第44話 ワイフのチカラ

スウィートブライド代表中道諒物語。ウェディングプランナーに憧れ百貨店を退職し起業。でも40歳で全てを失う大きな挫折。そこから懸命に這い上がりブライダルプロデュースの理想にたどり着くまでの成長ストーリー。※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

2012年6月初旬。

ーーー スウィートブライド創業の1ヶ月前。

朝9時。ピアホテルの深夜バイトが終わり、松屋で「旨辛ネギたま牛めし」を食べ厨房のおばちゃんといつもの雑談をした僕は、姫路駅南側のロータリーへ向かった。

地場産ビルの前あたりで立って待っていると、運転席から手を振る女性が運転する白いハイエースがこちらに向かって来るのが見えた。椎名凛子が言ってた通りだ。初対面でのこのナチュラルな感じに僕は思わず笑ってしまった。

普通ならキチンとお互い立って名刺交換するのがビジネスマナーであろうが、僕はそんなのおかまいなしで車の助手席に乗り込んだ。

「今日は遠方からわざわざすみません!」

「いえいえ、こちらこそ声を掛けてくれて嬉しかったです。ありがとう!」

彼女の名は、岡田悦子。テーブルクロスやナフキンなど結婚式場向けのテーブルウェアを取り扱うメーカー「フェリーチェ」の社員だけど、見るからにおつぼねさんと言ったところだ。

この車で日本全国どこでも営業行くよ!という感じの人情味あふれる女性。僕たちはすぐに意気投合し、会話も盛り上がった。

そして全く仕事の話をしないまま、ブラージュに到着。椎名凛子の時と同じように、僕の方で店内の全てを案内しながら説明をしていく。ようやく仕事らしい会話になってきた。

岡田さんに頼むのは、お食事会スペースの高砂席とゲストテーブルのテーブルクロスだ。

ブラージュの店内で使われている配色は、ブラウン、白、グレー。基本的には濃いブラウンのテーブルクロスが合うだろうと、僕と岡田さんの意見は一致。そしてせっかくの撮影なのでもうひとつ、ベージュアイボリー系のクロスと、また高砂席にはゴールドのランナーも用意する事にした。

色の他に柄ゆきもおおよそ決めた後、岡田さんはブラージュにある全てのテーブルのサイズをメジャー採寸し、ノートに記録していった。

2012年6月中旬。

フェリーチェから段ボール箱1個口が自宅に届いた。
箱の中には先日岡田さんと決めたテーブルクロスのサンプルが入っていた。

それを持ってブラージュへ向かう訳だが、今回はワイフを連れて行く事に。ワイフはもともと百貨店でテーブルクロスを扱っていたから、テーブルウェアに関してはプロ。最初は少し渋っていたワイフであったが、何とか頼み込み同行してくれる事になった。

ブラージュに到着し田辺シェフにワイフの紹介を簡単に済ませた後、すぐに披露宴会場用にテーブルをレイアウトしていく。まずは高砂席に濃いブラウンのテーブルクロスをセットし、そこにゴールドのラインを2本かけてみた。

「あれ?・・・・」

僕はワイフと顔を見合わせる。

「何か違うよな・・・」

「うん。ブラウンでは無いね」

店内のこのスペースの壁面はライトブラウンとダークブラウンの配色で、カーペットと椅子はグレー系でまとめられていた。パッとこの部屋を見た感覚からいくと間違いなくダークブラウンが合うはずなんだけど、実際にセットしてみるとどうもしっくりいかない。

僕たちはとりあえずもうひと組用意しているベージュアイボリー系のテーブルクロスをセットする。

「これは、問題無いな。面白味は無いけど」

アイボリー系の方は通常のレストラン営業の時とそんなに変化があるものではないので、普通に馴染んでいた。

「黒じゃないかな・・・」

しばらく店内を見渡しながら考えこんでいたワイフがぼそりと呟いた。

「黒かぁ・・・。でも結婚式で黒は無いと思うけどなぁ。それに黒の上に食材って合うのかな・・・」

全く想像できないという僕に対してその不安を打ち消すようにワイフが付け加えていく。

「黒のクロスをベースにちょっと太めのシルバーのランナーを足せばいいんじゃないかな。シルバーを使う事で貴方が思ってるような黒感は紛れると思うよ。ここは茶色がベースのお店だけど、伝わってくるテイストは茶色のクラシックではなくて、モノトーンのモダンなのね。だから色は使わない方が全体の調和としては合うと思うんだけどなぁ・・・」

僕はその場でフェリーチェの岡田さんに電話をする。そして黒のテーブルクロスとシルバーのランナーをすぐに送ってもらうように手配をした。

ーーー その翌日。
早速届いたクロスを持って、再びワイフとブラージュへ出かけた。

僕は恐る恐る真っ黒のテーブルクロスをセットする。そしてワイフの指示通りの少し大きめのシルバーのランナーを縦に2本かけてみた。

「わぁ!」

僕とワイフは顔を見合わせ満面の笑みを浮かべた。

バッチリ合っていた。
ブラウンのテーブルクロスをセットした時に感じた野暮ったさは全く無く、クリアでシャープなイメージが本来持っているブラージュのイメージをさらに洗練したものにしていた。

実際にテーブルに皿を置いて座ってみても、黒色から受ける僕が持っていたマイナスイメージは全く感じられず、むしろ好印象である事に驚いた。

(さすがワイフ!仕事でも頼りになる人だなぁ)

僕はすぐに岡田さんに電話を入れる。興奮して高揚した僕の声に、岡田さんの元気溢れる笑い声が返ってくる。僕はその状態をスマホで撮影し、その画像をフェリーチェの岡田さんとフローリストの本田さんと椎名凛子の3人へ送った。

小さな仕事ひとつひとつに、喜びがある。

まだおままごとのようなこのスウィートブライドの仕事に、いい歳して感激する。それってとても素敵な事じゃないかと思うんだ。

僕はワイフを少し小粋なイタリアンバルに誘った。

無事にテーブルウェアが決まった事への僕からワイフへの感謝の気持ちを込めて・・・。


第45話につづく・・・




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