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八華のランサーを知るための資料本メモ②:『上杉謙信:政虎 世中忘失すべからず候』(ミネルヴァ日本評伝選)【 #FGO 関係、読み出し無料】

0.まえがき

 本記事は、Fateシリーズに出てくる八華のランサーこと、長尾景虎(上杉謙信)を知るために読んだ資料本:

 ●矢田俊文『上杉謙信:政虎 世中忘失すべからず候』 (ミネルヴァ日本評伝選)ミネルヴァ書房、2005年

のメモ書きで、2019年に記録したものを公開します。

*カバー画像出典元:



1.はじめに

 色々とあって、最近は八華のランサーこと、上杉謙信(FGOのプロフィールでは、彼の初期の名である「長尾景虎」が真名とされるが、以下、一般的によく知られた上杉謙信で呼ぶ)のことを学ぶため、本書は2019年8月末から私が読んでいた学術的専門書です。

 前記事「八華のランサーを知るための資料本メモ①」:

において、「私の専門はもともと中国前近代の歴史(しかも衣食住といった生活や信仰)」であり、日本の戦国武将に関しては、テレビの時代劇やゲームが原作の漫画を読んだ程度の知識しかないと申しました。で、ですね、そんな日本の戦国武将ビギナーの私には、「人文系の学術書を出版している」ミネルヴァ書房の本書の上杉謙信の評伝は、「読み進めにくかった」というのが正直なところです。
(だから、前記事①の「学研まんがNEW 日本の伝記」を読み、自分の中に上杉謙信の分かりやすいイメージを作った)

 著者の矢田俊文さんは、巻末のご経歴からして、バリバリの日本史研究者。そんな「職業・歴史学者が著者の著著は、伝記というより、ガチガチの論文を読んでいる気分」ながら、堅い文章を170ページ目の「おわりに」まで読了しました。
(ちなみに、一般的な文芸作品の文庫本は260~300ページで、本書の長さは全体でそれらの半分程度)

 今回はそのような、一般の人にはとっつきにくい堅さを持つ学術的な評伝の本書について、読後の所感をメモとしてまとめておきたいと思います。



2.矢田俊文『上杉謙信:政虎 世中忘失すべからず候』の内容とコメント

 2-1.一読しての印象

 この評伝を一文程度で表すなら、「16世紀半ばの越後において、守護の上杉家と独立性の強い領主との関係を分析しながら、いかに謙信が立ち回り、(一応)越後をまとめようともがき、次世代の上杉家当主へその権力体制のようなものを伝えたのか。それらについて、一次史料に基づいて浮き彫りにしたものです」といえます。使われている一次資料は、謙信が合戦への出兵を各領主に要請する文書(起請文)や、自分の配下に入った地域で公布した分国法などの書類が大半を占めていました。それに対して、謙信個人の性格や彼が抱いた感情を綴ったような書簡は、ほとんど含まれていません。


 本書での謙信は「戦国期越後の権力構造の中にいた歴史人物の一人」としての姿に重きを置いているのか、彼の生い立ちに関わる林泉寺で修業した時代の話や、彼が家督を継いだ兄の晴景を追い落とした頃のエピソードは不明でした。そのため、生身の人間的な謙信については、もう1冊の資料本こと新書評伝:
 ●今福匡『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』(星海社新書)、星海社、2018年(以下、新書評伝と呼ぶ)
に詳しいです。後日、この資料本シリーズ③として、メモをまとめたいところです。


 読みにくさについては、「堅い文章なのもあるけど、私の日本史戦国期の基礎知識が足りてないことが大きいんやろなぁ~」というのもあるのでしょう。とはいえ、序章にいきなり謙信没後の後継者をめぐる「御館の乱」の話が出てきたこともあると思われます。読んでいた私は、「え?本人の没後の話から始めるの?」と戸惑いました。その次に、父親で越後の守護代だった長尾為景と兄の晴景の話が続き、ようやく第4章で本人こと長尾景虎(後の上杉謙信)が登場します。

 以上の印象から、一人の戦国武将のドラマチックな生涯を物語的に楽しみたい人にとって、本書は向かないかもしれません。その一方で、彼の生きた戦国期越後をひっくるめて、上杉謙信のことを知りたい人には学べることが多いでしょう。少々、脱線しますが、私が本書を読んでいて、得た知識には次のようなものがありました。
 ・集落の形によって戦国期は区切りがあること(p.13あたり)
 ・よく大河ドラマで、家臣が主君に「おやかたさま~」と呼びかけるのを見るが、当時の文書には感じで「御屋形様」と表記されていた可能性( 「御館様」ではなく て。「屋形」が守護を指す言葉らしい)

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