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【旅の記憶】アクアアルタとBrekの晩ごはん

フィレンツェから列車でヴェネツィアのサンタルチア駅へ着いたのは、
年も暮れかけた12月26日だった。小雨が降っていた。
雨と関係があるのか、時期的なものかわからなかったが、
街にはアクアアルタ(高潮で街が一部浸水する)のなごりがあった。
簡易的な桟橋が組み立てられ、もう水がある程度引いた今は、それらが積み上げられていたのだ。
街の人も観光客も、特に注意を払っていない風であるところを見ると、
日常茶飯事になっているのだろう。
私はその、アクアアルタのなごりの桟橋を物珍しく眺めながら、周辺をぶらついた。

移動手段は、ヴァポレット(水上バス)。この乗り放題チケットさえ持っていれば
迷宮ヴェネツィアの中で迷っても、大運河まで出て水上バスに乗ってしまえばいい。
それは決めてあったが、一人旅でいつも困るのが食事であった。
買って宿に戻るにしても、お店で食べるにしても
一人で入りやすくて、注文しやすくて、値段が最初からわかっていてしかも安い、
という店を見つけるのはなかなか難しい。
しかもこの入り組んだヴェネツィアでは、わかりやすい場所にある、というのも大事な要素となる。
その全ての要素を満たしてくれたのが、サンタルチア駅からすぐ、
ヴァポレットの駅からもすぐの、Brekだった。
レストラン風だが、セルフサービスで、自分で注文をしにいく。
料理の表示もわかりやすくて、値段も明瞭。
しかもオーダーしてから作ってくれるので、温かいものを食べることができる。
例えるなら、大学の学食や社食が一番しっくりくるだろう。
私はヴェネツィア滞在中何度も利用し、トマトソースのペンネを食べ、ハンバーグを食べ、かぼちゃとサルシッチャのパスタを食べた。
どれも温かく、冬のヴェネツィアでほっとできる場所だった。
こういう店が一つ見つかるだけで、旅はとても安心できるものとなる。
私は、一人旅の間は基本的に、夜は出歩かないことを自分に課している。
そういう意味でも、このお店はヴァポレットの駅のすぐ傍で、少々遅くなっても夜道を一人歩きしないで済む安心感があった。
私はお腹を満たし、沢山の観光客と共に、ヴァポレットが到着するのを待った。
そんなとき、時間の流れがとても優しく感じられたのだった。



※今、ネットで検索してもBrekはヒットせず、ストリートビューで
 ぶらついてみたところ、閉店しているのかも、という雰囲気でした。
 はっきりしたことはわかりませんが、閉店していたらとても残念です。
                 (旅した時期:2013年12月)


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