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システム開発はなぜうまくいかないのか?(外注編)


システム開発はなぜうまくいかないのか?(外注編)

起業家や企業の経営者、大手企業の責任者の方が、何か新しいサービス開発や、DX、業務効率化を考えた際に一番難しい部分がシステム開発だと思います。そして、自社にナレッジやリソースがなく、自社開発が出来ない場合、まずはじめに検討するのが、システム開発会社への外注だと思います。

しかし、直近のニュースを見ても、名だたる大企業が巨額の損害賠償請求を求めて裁判にて争っています。また、以前は発注企業が勝訴する判例が多かったですが、近年では、発注企業の協力不足が原因だとして逆に発注企業への支払いを命じる判決が出る傾向に変わってきました。

自己紹介

はじめまして。
株式会社アジャイルテクノロジー中井一機と申します。
私はリクルートHD、日本マイクロソフト、NTTDATA等の会社にて経験を積んだ後、2019年10月にフリーランス(個人事業主)として独立し、2022年7月に法人成りしました。

ここ5年間はSES(所謂エンジニア派遣)で様々なシステム開発PJTに参画してきました。主なロールは、シニアコンサルタント(ITコンサル:WF(ウォーターフォール)の上流工程)、PM(プロジェクトマネージャー:WF)、スクラムマスター(SM:アジャイル開発)、プロダクトオーナー(PO:アジャイル開発)アジャイルコーチ、などのロールで、発注会社側、受託するベンダー側、自社開発をしている会社のアジャイル化など全てのステークホルダーの視点で開発プロジェクトに参画してきました。そして、それぞれの立場から日本社会が抱える構造的な深い社会問題に気が付きました。

日本企業経営陣のITリテラシー不足と開発丸投げの問題点

それは、日本のIT業界に蔓延っている多重請負構造の問題です。大きくは2つありますが、どちらもエンジニアに正当な報酬が届かず、発注者も受託する開発会社もそこで実際に働くエンジニアも、皆が損をする構造になってしまっている点です。

1点目は、SIerが受注だけして中抜きをして子会社に丸投げする開発体制の問題です。こちらはシステムを開発後納品しないとお金がもらえない契約の為、受託ベンダー側にも様々なリスクがあります。例えば完成まで1年かかるプロジェクトの場合は1年間の人件費はベンダー側が負担しないといけません。また、着手はしたものの、途中で要件や仕様に変更が入ったり、見積もり時に想定していなかった追加コストがかかる場合など、トラブルに発展しやすく、訴訟にまで発展しているケースが多数あります。

2点目は、SESという制度です。実態は人材派遣なのに派遣法が適用されず、また派遣会社にあたる紹介会社が商流に複数社入り込む事で、お客様が払う金額とエンジニアが受け取れる報酬にかなりの乖離がある問題です。契約が請負契約や準委任契約であっても、実態が労働者とみなされる場合は偽装請負として労働者は労働法の保護を受けれます。使用者である企業は違法行為として罰せられる事になっていますが、実態はほとんどのエンジニアが泣き寝入りをしています。

これら2つの問題点の共通点はエンジニアに正当な報酬が支払われない事です。また、間に全く仕事をしないで中間搾取だけする「中抜き事業者」が介在する事も問題です。正当な報酬が支払われない事で、エンジニアという職業の魅力低下によるエンジニアの減少にも繋がりますし、なによりお客様が支払う金額も割高になります。直接雇用するよりも2倍以上割高になるケースも多々あります。

商流の例
フリーランスエンジニアー紹介会社ー紹介会社ーコンサルー受託会社ー発注会社


詳しくは、公正取引委員会の「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書令和4年(2022年)6月公表」の資料や、経済産業省「IT産業における下請の現状・課題について」を御覧ください。

私はこの問題を解決するには、発注者である事業会社側がITについて深く学習し、ITリテラシーを高め、直接エンジニアを雇い、自社ですべてをハンドリング出来る体制にするしかないと確信しています。この多重請負構造による問題点に関しては解説すると長くなるので、別記事にて別途まとめます。

外注の利点と問題点

まず、システム開発を外注することの最大の利点は、専門技術へのアクセスとコストの削減にあります。しかし、この選択肢が必ずしも成功を約束するわけではありません。特にコミュニケーションコストは最初の大きな障壁です。要件の細かいニュアンスが正確に伝わらず、期待と異なる成果物が生まれてしまうことは少なくありません。さらに、言語や文化の違いも、正確な意図の伝達を妨げる要因となり得ます。現在日本ではエンジニアは人手不足で、中国、ベトナム、インドなどのオフショアエンジニアの活用が進んでいます。発注者には知らされていなくても、蓋を開けてみると開発ベンダー側がオフショア企業を利用しているケースは多々あります。

開発ベンダーの技術力不足もよくある問題です。開発ベンダーの技術レベルが低いと、最新のモダンなプログラミング言語や、Git、Docker、CD/CI(継続的インテグレーション)やDevOps、最近話題のAIなどの最新技術についての理解が浅く、プロジェクトの要求に合致しないケースが多々あります。また、最新の技術トレンドやベストプラクティスの適用が遅れていることも、品質に大きく影響します。特に日本の大手SIerには実際はエンジニアはほぼおらず、システムの設計だけをするSEがいる程度です。

品質管理についても、外注する際の大きな課題です。外注先がしっかりとした品質保証プロセスを持っていない場合、またはそれが発注企業の期待するレベルに達していない場合、最終的な製品の品質に大きく影響します。これは、納品後のシステムの安定性や拡張性にも関わってきます。

また、コストとスケジュールの見積もりが誤っている場合も少なくありません。予期せぬコストの増加やプロジェクトの遅延は、特にスタートアップ企業などにとっては致命的な打撃となります。

一番の問題点

しかし、これらの問題をすべて上回るのが、発注企業のITリテラシー不足です。もし自社内に十分なITリテラシーを持つ人材(CTO)がいなければ、外注先から納品されたシステムの品質を適切に評価することができません。これは、長期的な視点で見ると、さらに多くの問題を引き起こす原因となります。これは、品質チェックはテスト会社に任せておけばOKといった簡単な問題ではありません。

解決に向けた取り組みステップ1

この問題に対処するための最終的な提案は、信頼できるCTOを自社に雇用することです。CTOは、テクノロジー戦略の立案から、プロダクトの開発・運用に至るまで、幅広い責任を持つ重要な役割を担います。特に外注を利用する場合、CTOは外注先との技術的な対話をリードし、プロジェクトの要件を的確に伝達し、納品された製品の品質を評価する能力を持つ必要があります。また、CTOは、外注先が使用する技術スタックや開発プロセスが自社のビジネス目標と一致しているかを確認する役割も担います。

解決に向けた取り組みステップ2

さらに、外注に完全に依存する体制から脱却し、自社での開発能力を段階的に高めていくことも重要です。最終的には自社開発が出来る体制を目指す必要があるでしょう。このアプローチには複数の利点があります。まず、自社での開発は、製品に対するより深い理解とコントロールを可能にし、結果的に顧客のニーズにより密接に対応する製品を生み出すことができます。また、自社での開発チームを持つことで、技術的な柔軟性が高まり、市場の変化に迅速に対応する能力が向上します。サービスの根幹技術を他社に丸投げするのはリスクです。自社でキチンとハンドリングできる体制にする必要があります。逆に、自社開発が出来るレベルになったら、ベンダーを都合よく利用することが出来ます。

自社開発への移行は、必ずしも一夜にして行われるものではありません。最初は小さなプロジェクトやプロダクトの一部から始め、徐々に内部の開発能力を高めていくことが賢明です。この過程で、アジャイル開発の原則を取り入れ、フィードバックループを短く保つことで、製品の品質を徐々に向上させることができます。また、アジャイル開発では、チームメンバー間のコミュニケーションが重視されるため、内部チームの協力関係も強化されます。

このような変革を成功させるには、経営層の強いコミットメントが必要です。また、適切なCTOの選定、チームメンバーの教育と育成、そして外注と内製のバランスを適切に取ることが重要となります。長期的に見れば、このような取り組みは、企業の競争力を高め、より優れた製品を市場に提供するための基盤となります。

自社サービスのご案内

最後に、手前味噌になりますが、弊社では自社開発やシステム開発内製化に向けたコンサルティングサービスを実施しております。初回相談は無料で実施しておりますので、まずは1度お気軽にお問い合わせください。

アジャイル開発のプロとして5年間様々な現場を見てきましたが、本当の意味でのピュアアジャイルを実践出来ている企業は私の体感だと1%以下です。これは、世界から25年遅れています。アジャイルというのはエンジニアのマネジメント手法です。未来は誰にも予測不可能です。そんな予測不可能な世の中の変化に対応するには、アジャイル開発しかないと私は確信しています。

私やパートナーのアジャイル開発やプログラミングに精通したエンジニアが御社の社外CTOとして発注企業様側の味方として助言を行うサービスも行っております。私の創業の想いは、これらの事業を通じて日本のIT業界に蔓延る多重孫請構造という社会問題をぶっ壊し、再度日本を世界に誇れる経済大国にしたいという点です。今の産業構造のままでは、いつまでもUIの良い使い勝手の良いサービスは日本から産まれません。また、お客様も不当に割高な金額を支払っており、開発ベンダー視点でみれば儲かっているかもしれませんが、日本という国全体で考えたときにはタコが自分の足を食べているかの如く、経済成長には全く貢献していません。

まとめ

システム開発の外注は、専門知識の活用やコスト削減といった利点を持ちながらも、コミュニケーションの障壁、技術力の不均衡、品質管理の課題など、多くの難題をはらんでいます。特に日本企業の場合、経営層のITリテラシーの不足や多重請負構造に起因する問題は、企業の成長とイノベーションを妨げる大きな障害となっています。しかし、これらの問題に対峙し、自社での開発能力を段階的に高めることにより、製品の品質と市場対応能力を向上させることが可能です。アジャイル開発の原則を取り入れ、適切なCTOの下で外注と自社開発のバランスを見極めることにより、企業はより優れた製品を市場に送り出すことができるでしょう。私たちアジャイルテクノロジーは、この変革のプロセスをサポートし、日本のIT業界に新たな風を吹き込むために、皆様の側で力を尽くして参ります。最終的なゴールは、持続可能な開発プロセスと高品質な製品を通じて、企業の競争力を高め、顧客満足を実現することです。この道のりは決して容易ではありませんが、御社の未来を素晴らしいものにするお手伝いが出来ることを楽しみにしております。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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