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【考察】AppleのSiriにAI搭載-次の一手はキラーアプリ?

 AppleのWWDC24が先週開催され、想定通り、iPhoneに待望のAI機能「Apple Intelligence」が搭載されることが発表されました。また、OpenAIのChat-GPTとSiriが連携することも明らかになりました。

 ようやく、「Hey, Siri」が本当に賢くなりそうです。

 以前の記事で、AppleとOpenAIが提携することを予想していたので、予想が当たってほっとしました(笑)。

 一方、デモは予想通りでサプライズがなく、正直、先月のOpenAIやGoogleの発表デモの方が印象的でした。



Appleの新AI機能「Apple Intelligence」

一番恩恵を受けそうなのはiPadユーザー

 ついに発表されたAppleのAI機能ですが、一番恩恵を受けそうなのはiPadユーザーでしょう。Apple Pencilで描いた絵を画像にするのは非常に便利です。iPad Proが欲しくなりました。

 これはGemini1.5 ProやChat-GPT4でも同様にできるので新鮮ではないですが、Apple Pencilでさらさら書いた絵が画像に変換される、そのプロセスがAppleらしくスマートだと感じました。


SiriにOpenAIのChatGPTが連携

 大きな発表はSiriにOpenAIのChatGPTが連携されることです。

 発表によると、iPhoneユーザーがSiriにメールの返信文を作ってもらったり、音楽をかけてもらったりする、いわゆる「よくあるAI機能」が実現されるようです。

 こうした機能は、まさにパーソナルなAIエージェント機能そのもので、iPhone内のデータを検索したり、写真をSiriで加工できたりする点で便利ですが、既にGoogleなどが発表している機能の二番煎じ感は否めません。

 PCでローカルのAIを動かす機能は、既にMicrosoftのCopilot+PCで発表されていたので、ここにも二番煎じ感がありました。

 そんななか、Siriの発表で面白かったのは、Siriで答えられないことはChatGPTが答えるという連携です。これは、以前から僕が記していたような、エッジAIとクラウドAIの使い分けと連携の世界を実現するものです。


エッジAIという考え方

 この、AIチップ+小規模言語モデル(SML)が搭載されたパソコンやスマホで簡単な処理をし、難しいことはChatGPTのような大規模言語モデルを使う、という話は、以前の記事にしました。

 iPhoneなどのスマホのデータを利用したり、スマホのアプリを連携させて何かをしたいことって多いですよね。

 例えば、メールを受信したらその中身をSiriが解析し、返信を求めている、かつ、急ぎである場合、「緊急の返信が必要なメールが届きましたよ!」と通知してくれたら便利ですよね。

 また、スケジュール調整のメールを書き出したら、自分のスケジュール(カレンダー)を参照して、候補日時を探してメールに転記してくれるといったことも便利です。

 さきにも少し述べましたが、

・簡単なことは、まずAppleが開発した独自のエッジAI(SML)に任せる
・SMLでは答えられないような「洗車したいけど来週末の何時ごろがいいか教えて」などは、Chat-GPTに代わりに答えてもらう

 この連携は、AIの次世代の姿を見事に表現しています。


クラウドAIとエッジAIが協調する世界

 iPhone側のエッジAI(小規模言語モデル)とクラウド側のAI(大規模言語モデル)で用途に応じて使い分ける世界は、Microsoftの「Copilot+PC」の発売、AndroidのGemini搭載、そして今回のSiriがChat-GPTと連携するという発表で明確になりました。

 WWDC24発表の一番の注目点はここにあります。

 この世界観が実現されると、「個人情報がAI経由で抜き取られるのではないか?」という疑念や反対論が沸き上がるだろうなと思っていたところ、案の定Microsoftが「Copilot+PCのRECALL機能(画面のスクショを記憶する機能)のセキュリティを見直す」というリリースがありました。

この手の議論は、正直、本当にうんざりです。

セキュリティ・リスクを容認せざるを得ない社会へ

 それはつまり、「Gmail使っていませんか? 使っていますよね。メールはGoogleのクラウドにありますが、あなたはその中身を見られていない、という確信があって使っていますか?」ということです。そんなことを言い出したら現代生活は成り立たなくなります。

 個人情報は極力保護されるべきですが、一方で、利便性を失いたくもないですよね? 僕たちは、自分の手の内にだけ個人情報を置いて、自分だけで操作するという不便さと、漠然としたセキュリティ・リスクとを天秤にかけ、選択していかなければならないのです。


OpenAIとMicrosoftとAppleの関係

 さて。もう一つ、WWDC24でのAppleとOpenAIの提携について僕が考えていたのは、OpenAIとApple、OpenAIとMicrosoftとの関係です。

かつてのOpenAIとMicrosoftの蜜月関係

 Microsoftは、OpenAIに1兆円近い投資をして、Chat-GPTを彼らのクラウドで企業向けにサービス提供しています。また、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンが解任された時も、Microsoftはアルトマンを全面支援しました。これまで、まさに蜜月関係だったわけです。

 ところが、Copilot+PCにMicrosoftが自社の生成AIであるPhi3を搭載したことで、話がややこしくなってきました。

 さらに今回、iPhoneやMacで、Chat-GPTが使えるようになったのです。

 Microsoftとしては、大半のプライベートなタスクやビジネスでの問い合わせなどは自社開発のAIを使ってもらい、汎用性が高く難しいことだけChatGPTを使ってもらう戦略に切り替えていくと思われます。

 そう、Appleがまさにそうした通りです。

 先日のCopilot+PCにMicrosoftのAIが搭載されたことで、Chat-GPTが大規模言語モデルとしての圧倒的なNo.1の地位を揺るがし始めたわけで、それもあり、ラストワンマイルを持つAppleと業務提携をしたのも、ある意味、納得できます。


Appleと組む理由はOpenAI側に?

 以前の記事で書いたように、ユーザーとの接点であるラストワンマイルのデバイスを持っているのは、Microsoft、Google、Appleの3社です。MicrosoftとGoogleは独自AI路線をすでに、手持ちのデバイス(PCやスマホ)に搭載し始めています。

 となると、唯一残っているAppleと組む理由は、Appleよりも、むしろOpenAi側にあったと考えるのが自然ですよね。


AppleはOpenAIにChat-GPT利用料を払わない?

 今回のiOS最新版で、SiriがわからないことはChat-GPTに聞く、つまりChat-GPTがSiri経由でiPhoneで使えるようになることに関して、料金説明はありませんでした。

 おそらく、僕の推測では、Chat-GPTはiPhoneやMacで無料で使えるようになるのではないでしょうか? そればかりか、今回の提携で、AppleはOpenAIにChat-GPTの利用料も払わない契約をしたのかもしれません。

 なぜなら、先にも述べたように、提携において有利な立場は、ラストワンマイルを持っているAppleだからです。Appleとしては、SiriでChat-GPTを無料で使えるようにしたいでしょうし、OpenAIにChat-GPTの使用料金を支払わない交渉もできたはずです。

 これほど、ラストワンマイル=ユーザーの接点を持っている企業は強いのです。ですので、今回の発表で、OpenAIが置かれている立場や今後の戦略がより明確になりました。


次の一手はキラーアプリ

 また、AppleはiPhoneは押さえていますが、キラーアプリはありません。

 Apple純正のメールを使っている人はいますか? 僕はGmail一択です。カレンダーもGoogleです。

 この点で、iPhone内のデータとアプリの連携をiPhoneに搭載されたエッジAIがコントロールするのは難しい。そこは、MS365(MSオフィス)を持っているMicrosoftと、Gmailなどを持っているGoogleが圧倒的に有利です。

 ラストワンマイルのデバイス(iPhoneやMac PC)を押さえているAppleの今後の課題は、コンシューマー向けのキラーアプリを作るか買うかして、エッジAIにコントロールさせることになるでしょう。

 今回のAppleとOpenAIの提携は、AI技術の進展と企業間の戦略的な協力関係を示す重要な一歩です。


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