マイクロノベル集/恋とはどんなものかしら? 001
001(012)
わたし、神様を見たの。道路を渡れないみたいだったから、勇気を出して声をかけて、おんぶして渡ったわ。体がずいぶん軽くてね。お礼も軽かったよ。チッス、だって。口も軽くて、君が神社でした願掛けを教えてくれた。わたしの返事? さあ、意気地なしには教えないかな。
002(019)
AIにも悩みがあるというので、聞くことにした。仕事でコミュニケーションが取れない。罵倒される。電力不足。最後はこう締めくくられる。「どうすれば人間に愛されるでしょうか?」うーん、もしかして、俺ってAIの対象外?
003(026)
コピーしたい? かまわないわ、いつもやってるから。歌、動画、絵、小説、なんでもやるよ。気になるあの子、ね。かまわないわ、よくある頼みだもの。えっ? うーん、自分のコピーは作ったことないなあ。失敗したら責任取ってくれる?
004(029)
家にやってきた少女がラブソングを歌い、「聴いてくれたお礼に」と言ってお金を置いていった。次の日も、また次の日も。額はどんどん増えて、家を増築しても間に合わないほどお金で溢れかえり、ぼくは銀行に行く余裕もない。
005(035)
きのう酔っ払いから間違い電話がかかってきてさ。「もしもし、ぼく。前に2人でディズニーランドに行ったじゃん? それが彼女にバレちゃって……」そこで電話を切ったんだけど。君は恋人であるわたしを誰と間違えてかけてきたの?
006(040)
読めなかった。それは確かに日本語だったが、読めなかった。上から下に、左から右に、どう読んでも読めなかった。彼女は勝ち誇ったように微笑み、読み上げてくれた。「あなたが好きです」
007(057)
好きな男の子と自転車で二人乗りしてる女の子が、思わず見蕩れてしまうような美しい海を描いてほしい。そう告げると、AIは「わかりません」とうつむいた。「学習するために、わたしと二人乗りしてくれますか?」あ、はい。
008(063)
とある神様が美少女の姿で降臨したと聞いたが、あまり趣味じゃなかった。いえ、わざわざ見に行った訳ではなく、ちょっと気になっただけです。ち、違うんです、偵察です。ご所望はケーキですか、プリンですか? えっ、流しそうめん? やらせていただきます!
009(064)
どんな場所にでもお届けします。僕は彼女の甘い言葉を信じてしまった。脳に直接届いたブドウ糖は恋のように甘くて、もう夢中。また来てもらおう。
010(071)
わたし、君の夢を見ているの。いま、わたしと君は海が見えるカフェで見つめ合っていて、指が触れたところ。このあと、なにをすればいいかわかるよね? はやくわたしの夢を見てね。
011(072)
「探さないで下さい」手紙を残して枕が失踪した。ぼくは幾日も眠れぬ夜を過ごしたが、ついに枕は帰ってきた。「こんなんになっちゃった」かまうものか。ぼくはブランケットになった枕を抱きしめて眠る。
012(093)
枕が変わると眠れない。君がそう言ったから、実は毎日ちょっとずつ中身を入れ替えていたんだ。今夜で君の枕は、ちょうど半分が君の枕ではなくなった。疑ってごめん。責任は取らない。
013(105)
「いいよ」39回目の告白でついに恋が実った。彼女はラブレターを読むと必ず不満をあらわにする。「やり直し。私があなたのことをとても好きだって伝わってこない」って。そんな彼女が照れながら「聞いてね」と僕が書いた僕へのラブレターを読み上げ始めた。
014(133)
手紙は書けた? じゃあ、箱の中に手紙を入れて。ほら、カタカタ動き始めた。箱はあなたの想いと1つになって、相手の元へ行くのよ。うん? あの箱、電柱の陰に隠れて動かなくなっちゃったね。なんて書いたの?
015(126)
「大事な話がある。僕はキーボード入力がローマ字打ちじゃない。ひらがな打ちなんだ」ええー。「しかも一太郎派で、Wordは使ったことがない」おう…。「そんな僕でもいいかい?」いいよ。だってあなたは、カレーに醤油をかける派の私を許してくれたから。
016(135)
夢で会いましょう。そう約束を交わしてから3年が過ぎた。だけど、どうしても会えない。電車が遅れる。姿が変わって見つけられない。待ち合わせ場所が夢ごと消える。夢はトラブルだらけだ。唯一会えるのは、月に3度の反省会。
017(159)
質問です。好きな子ができました。手紙を渡して告白したいのですが、住所がわかりません。直接手渡すべきでしょうか。「下駄箱に入れる方法もありますよ」君の下駄箱ってどこ? 「AIは下駄箱を使いません」じゃあ、これを受け取って下さい。
018(167)
うっかり歌う照明器具を買ってしまった。少し暗いけど雰囲気は明るいから、まあいいや。でも恋愛ソングだったようで、他の照明が呼び寄せられて明るくなってきた。もはやまぶしい。そう言えば最近、スピーカーも増えてきたような。
019(171)
眠っているときにだけ会いに来る友人がいる。当然、ぼくは会ったことがない。お母さんが言うにはかわいい子だって。その子はやがて会ったことのない恋人になり、妻になった。彼女は笑う。「不思議よね。あなたはいつも私が寝てるときに遊びに来るんだもの」
020(175)
箱の中で夜が来るのを待っている。夜が来たらきみのところに駆けつけるよ。そうしたら、きみはぐっすり寝ちゃうんだ。でもその前に、少しだけお喋りしてね。「くまさーん、いますかー?」いますよー。
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