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タイ旅行と、上品に見えてパワフルな友達と



「ルッダイマー。ルッダイマー。」

飛行機の中で「地球の歩き方・タイ」を読み、少しでもタイ語を話そうと基本の挨拶を繰り返す。

「サワッディーカーッ。(こんにちは)」

「コークンカーッ。(ありがとう)」

現地の人と話したい。

タイ語で話した方が通じるし喜んでもらえるんじゃないか。

ルッダイマーは「安くして。」だけど。

値段交渉は大事。

日本人はふっかけられるから。

ともちゃんと2人でワクワクしながら、でもタイ人に負けないよう気合いも入れつつタイに乗り込んだ。


暖かい南国の雰囲気に、気持ちが解放されていく。

辛いけど美味しいタイ料理。

市場では「ルッダイマー。」が大活躍。

英語で言うよりも、タイ語の方が効果ありだ。

お店のおばちゃんは一瞬「え?」と驚いた表情の後柔らかくなる。

「仕方ないなぁ。」という苦笑いの後、安くしてくれる。

10倍の値段で売ってくるタイ人の力強さを感じながら、こちらも負けじと交渉する。

そんなやり取りがゲームのようで楽しい。

地元の人と交流出来るのも楽しい。

帰りはタクシーで移動しようと乗り込んだ。

「あれ?メーターが動いてないじゃん。」

すぐに気がついて運転手さんに指摘する。

「メーター動かしてください。」

「今壊れてて動かないんだ。」

「、、、じゃあ降りる。」

「500バーツだよ。」

「いや、降りるから!」

「いやいや、じゃあ300バーツでいいから。」

「降りる!」

すぐ近くなのにその金額はおかしい。

ハッキリと態度を示し、ドアさえ開けようとする私達に、

「はぁーっ。分かったよ。」

呆れたような笑顔で、諦めてメーターを動かし始めた。

ほら、壊れてないじゃん!

その後は自己主張する珍しい日本人を気に入ったのか、腹を割ったようにいろいろ話してくれ、有益な情報を教えてくれたのだ。

「次の乗り合いバスでは400バーツと言われるけど、本当は200バーツで乗れるから。」

そう言うと、乗り合いバスの運転手さんに

「この人達俺の友達だから。200バーツな。」

と現地料金を念押ししてくれて助かった。

いい人じゃん。

事前に調べた情報で、あえてメーターを動かさず高額請求するタクシー運転手のやり口を確認しておいて良かった。

「やったね!」

丸め込まれず予想以上の結果となり、私達は満足し、高揚していた。



短大で仲良くなったともちゃんと私は、授業を一緒に受ける仲良しグループは別々だった。

でも、直感なのか、気が合う私達は自然に引き寄せられたのだ。

一見お嬢様のような、綺麗で上品な雰囲気。

でもガハハと笑う遅刻魔で、自由で行動的な性格が私は好きだ。

卒業間近にタイ旅行に誘ってきたのはともちゃんからだった。

「一緒にタイに行こうよ!私インドも行きたいから、その後そのまま1人でインド行くからさ。」

そんな感じの1週間のタイ旅行。


タイ人の商売人は日本人を見るとカモだと思うんだろうけど、それも彼らが生き抜くエネルギーと思えば自然なことなのだ。

基本的にみんな明るい。

タイ人はみんな「マイペンライ!(気にするな。問題ない。)」の精神を持っているのだと、知り合ったタイ人男性が教えてくれた。

その言葉にピッタリの最高の笑顔で。


私達はたくさんのお寺や、動物園やワニ園を回った。

すれ違うタイ人達に

「サワッディーカー!(こんにちは)」

と声かけると、みんな元気に笑顔で挨拶を返してくれる。


ある時校外の大きなワニ園に向かったはずが、全く違う所へ着いてしまった。

スマホのない時代。

地図とにらめっこするけどよく分からない。

あまりに時間がかかり、疲れ果ててしまった。

ともちゃんの言う通りの乗り物で移動してきたんだけど、全く違ったのだ。

でも、ともちゃんは申し訳ないという様子も心配する様子もなく相変わらずひょうひょうとしている。

私は疲労と不満も生まれていたけど、彼女の様子を見ているとそんな気持ちでいるのはバカバカしく思えてきた。

タイの田舎のどこにいるか分からない。

まぁ、それでもなんとかなるか。

マイペンライ。

そんなスタンスで歩き続けると、近くに乗り合いバスが停まった。

駆け寄っておじさんに行き先を告げると、運良くそのバスで行けるとのこと。

ほっとしてバスに乗り込み、何時間もかけてやっとのことで巨大ワニ園にたどり着いた。

ワニ。ワニ。ワニ。

小さいワニから大きいワニまで、どこを見てもワニ。

大きいワニは川でじっとして、目から上だけ水面に出ている。

小さいワニは、まるで出荷前のワニのぬいぐるみのように、ワニの上にワニ、そのまた上にワニ、と積み上げられたような衝撃の光景。

積み上げられたワニの数はおよそ100匹!

なんだか気持ち悪くなってくる、、、


でもその後レストランでタイ名物のトムヤムクンもしっかり食べた。

初めてで、辛いのと酸っぱいので不思議な感覚だったけど、美味しかった。

店員さんに

「アローイ、マー。(とても美味しい)」

と伝えたけど、通じてないようで眉をひそめた怪訝な顔になる。

何度か言ってみると、パッとひらめいたように目を輝かし、

「アローイ、マー!」

と教えてくれた。

イントネーションが違ったようで、「マー」の部分だけやや高音で強く発音するのが正解。

「アローイ、マー!」
「アローイ、マー!」

店員さんに続いて繰り返し、ミニタイ語教室を終えると打ち解けていろいろ話した。



そんな1週間はあっという間に過ぎ、帰国の日になった。

そう。私は日本へ帰国、ともちゃんはそのままインドに向かうのだ。

時間の都合で、私達は空港でもなくタイの道端で別れた。

「じゃあねー!インド行ってらっしゃ〜い!気をつけてねー!」

ともちゃんの乗ったバスを見送ると、突然異国の地で1人きり。

私は怖さや緊張はあまりなく、残り時間を市場で買い物を楽しもうと思っていた。

でも、1人と2人は違う。

2人だと値切れた交渉も1人だとなめられるのか、お店のおばちゃんが強い態度で話してきてうまくいかない。

タイ人の態度が変わったのだ。

公共のバスに乗った時が分かりやすかった。

数日前にも乗ったそのバスは見た目は日本のバスとほぼ同じ。

中に切符を売る制服を着た人がいて、乗り込んでから切符を買うシステム。

1人切符1枚3バーツだったはずだ。

私が乗り込むと、無表情のおばちゃんが切符を売りに近づいてきた。

そして切符10枚売ってきたのだ。

私は驚いて、

「私1人だから切符1枚3バーツでしょう。」

と主張した。

数日前に同じ区間にその金額で乗ったばかりだから、間違えるはずがない。

でもおばちゃんは無表情のまま、ただ「30バーツ。」と繰り返す。

観光客など他に誰も乗っていないバス。

地元のタイ人がたくさん乗っていたけど、見回してもみんな知らんぷり。

「日本人なんだから10倍払って当然」と言っているようにも見えた。

私は繰り返し主張し、

「数日前に乗った時は3バーツだった。」

と言ってもおばちゃんの表情は全く変わらない。

「30バーツ。」

と言い放つ。

負けた、、、

悔し〜い!

日本人が至る所で10倍の値段を払わされているのは知っている。

気がついても言えない人達と、ふっかけられていることに気づいていない人達もいる。

30バーツは大した金額じゃない。

でも、金額の問題じゃなのだ。

私はそれまでなんとかタイに溶け込んで受け入れられたように感じていたけど、1人になってからは「よそ者感」が半端なかった。

急にタイ人みんなに拒否されたような気持ちで、悲しくて悔しかった。


そんな終わり方でタイに別れを告げ、初めて1人で飛行機に乗った。

途中で、隣の座席のドイツ人のおじさんに話しかけられた。

2ヶ月も旅行しているというおじさんに驚いたけど、ヨーロッパ圏では2〜3ヶ月の長期休みは当たり前と聞いて羨ましくなった。

長期旅行を楽しみに、その為に働いている人も多いとか。

日本では働いているとせいぜい1週間の休みといったところ。

文化の違いを感じながら、生き方も考えさせられてしまう。

意気投合した私達は話が弾んだ。

20代の私は、50代のドイツ人のおじさんと一緒にウイスキーで乾杯。

陽気なおじさんはガハガハ笑い、私もケラケラ笑った。

ほろ酔い気分で、ご機嫌で帰国したのだった。




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