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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 善人視点2

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 善人視点2

閑話 善人視点2
「なんかさぁ。最近、帆夏(ほのか)と千家(せんげ)、いい感じだと思わない?」
「いい感じって?」
「何ていうか……あと一歩、だと思うんだけどなぁ」

 親友と、幼馴染みを眺めながらそんなことを言っている隣のこいつも、オレの幼馴染みで、物心がついた頃から一緒にいた。その表現がぴったりくるほど、家も近いし、両方の両親の仲もいい。
 そんな怜那(れいな)の楽しくてたまらないという表情の

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 兄と友人の6月14日

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 兄と友人の6月14日

閑話 兄と友人の6月14日
「なんか思い出しちゃうよねぇ」
『……なにが?』
「え、うーん、西とボクが喧嘩した時のこととか」
『かずがひたすらにモテまくってた時のこととか、な』
「ああ、西、やっと来たね」
「悪い、待たせた」

 住んでいる家の最寄り駅で待ちあわせをした友人、兼、同居人が電車を降りた、と電話がかかってきてから数分間、ボクは友人と話しながら、昼間に別れた少し不器用な弟のことを思い出

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #15

第15話 6月15日

「あ」
「あ、おはよう、千家(せんげ)くん」
「お、はよう」
「うん?」

 寝坊をせず、遅刻ギリギリではなく、7時55分に学校に着くバスに乗っていれば、途中のバス停で羽白(はじろ)さんが乗ってきて、ふいに昨日の兄貴の言葉を思い出し、変な挨拶になった。

「どうかした?」
「……うん?」
「うん?」

 普通に、俺の横に並んだ羽白さんは、俺よりも少し背が低いからか、自然と少

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #14

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #14

第14話 6月14日

「買い物?」
「そ。誕生日の時は仕事があって帰ってこれないからね。少し早いけど、誕生日祝いもかねて、成浩(なるひろ)のプレゼントを一緒に買いに行こうと思って」

 昨晩の夕食時に言った兄貴の言葉に、「あ、今月、誕生日か」と呟いた俺に兄貴は「成浩らしいな」と笑った。

「で、何か買うか決まった?」

 昨晩、兄貴が言った通り、駅前にある大きなショッピングモールまで買い物に来た

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #13

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #13

第13話 6月13日

 ガチャ、と静かだった家に音が響く。

「父さん? 忘れ物?」

 ついさっき、母さんを迎えに行きがてら買い物に行く、と家を出た父さんが、何か忘れ物でもしたのか、と開けっ放しにしておいたリビングのドアに向かって声をかける。

「あれ? 成浩(なるひろ)一人?」

 そう聞こえた声は、俺の予想とは、違うものだった。

「……なに?」
「いやー?」

 にこにこ、と妙に楽しそう

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #12

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #12

第12話 6月12日

「……くだらな」
「…仰るとおりで」
「あんたたち、高校生でしょうよ」
「……うっせ」

 久方ぶりに、正座、というものをさせられている。

 目の前には、腰に手をあて仁王立ちをしている寺岡さんと、「れ、怜那(れいな)ちゃん」と焦った表情をしている羽白(はじろ)さんの姿。

 そして、俺と同じように正座をさせられているのは、思い切り不貞腐れた表情をしている照屋善人(てるやよ

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #11

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #11

第11話 6月11日

「あー、えっと、委員長。それ持とうか?」
「え、あ、ありがとう」
「どこまで?」
「教室、なんだけど」

 図書室に寄った帰り道、照屋(てるや)と羽白(はじろ)さんはまだ委員会があり、寺岡さんも、羽白さんと戻るとのことで、まだ図書室にいる。
 特に本を借りる以外にやることの無かった俺は、一人先に借りた本を片手に廊下を歩いていたのだが、前方から、結構な量のプリントとノートを抱

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #10

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #10

【6月10日 】

 今日も、雨。

 昨日、帰宅して天気予報を見たら、どうやら先週末に梅雨入りをしていたらしい。
 特に気にしていなかった、とテレビを見ながら呟いたら、母さんに、「しばらくバス通学なんだから、少し早く起きなさい」と言われた。
 とはいえ、少し早く、といっても、1時間も30分も早く家を出るわけじゃないし。そう思い今朝も、いつもと変わらずにのんびりとしていたら、思いの外、バスまでの時

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #9

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #9

第9話 6月9日

「おはよう」
「あ、おはよう。千家(せんげ)くん」

 カタン、と引き出し椅子の音が響く。腰を下ろし、カバンの中から朝飯のパンを取り出していれば、なんとなく、視線を感じた気がして顔をあげれば、こっちを見ていたらしい羽白(はじろ)さんと目が合った。

「どうかした?」
「千家くん、それ、朝ごはん?」
「ああ、うん。寝坊した」
「今日はバス?」
「そう。午後に雨降るって言ってたのす

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #8

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #8

第8話 【6月8日】

「千家(せんげ)くん、今日も速いね」
「…普通じゃないか?」
「そうかなぁ。私は速い、って思ったよ?」
「…まあ…一回読んだことあるし」
「これも読んだことあるの?」
「え、うん」

 パタン、と読み終えた本を閉じながら答えれば、羽白(はじろ)さんが驚いた表情を浮かべる。

「小学校の時も、図書カードにいっつも千家くんの名前があるなぁって思ってたけど、本当に色んな本、たくさ

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #7

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #7

第7話 【6月7日】

 何故だか、パッ、と目が覚めた。

 時刻は午前10時。
 今日は日曜日。駄菓子屋の店番はない。

 特に連日予定が入るようなタイプでも無い自分は、日曜日にのんびり起床しても誰にも咎められない。
 もう少し寝ていても良かったはずなのに、何でこの時間に起きた……と、目が覚めたことにほんの少し後悔をしたものの、ぐぅぅ、と空腹を主張してきた音に、目が覚めた原因を知る。
 とりあえ

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #6

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #6

第6話 【6月6日】

「……ねむ」

 本日、6月6日、土曜日。
 今日は授業がない。部活も帰宅部の俺にとっては何もしない曜日で、いつもなら午前中いっぱいをかけて二度寝、三度寝をすることもしょっちゅうだ。
 けれど、今日は照屋(てるや)に誘われたアルバイトがあり、そんな休みの日にもかかわらず朝9時に外を歩いている。

 駅の北口側に住む俺の家から高校まではそれなりの距離があるため、通学に自転車を

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #5

僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #5

第5話 【6月5日】「あ、千家(せんげ)くんだ」
「?」

 ガチャン、と停めておいた自転車を動かしていると、背後から名前を呼ばれた気がして振り向く。

「……?」

 そこに居たのは、少し驚いた顔をしている俺の隣の席の羽白(はじろ)さんで、「呼んだ?」と首を傾げながら声をかける。

「あ、ううん。あの……」
「?」

 首をふるふると軽く横に振りながら答える羽白さんが少しだけ困ったような表情を浮

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僕たちは陽氷を染める ー とある男子高生の6月の話 ー #閑話 6月4日夜 照屋視点

閑話 6月4日夜 照屋視点「あ、もしもし?なる?」
『……なに』
「うっわ、テンションひっく!」
『…そりゃあ…お前…』

 ーとりあえず宿題をすませ、本を読もう、とした瞬間にかかってきた電話、となれば、それはそれはテンションも低くなるであろう。
 電話越しに、テンションの低い声で、本日やっと番号を交換したクラスメイトにそう伝えられるものの、そうは言っても、電話にちゃんと出てくれるんだ、と彼の優し

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