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置いたカバンと全力疾走


とりあえず走ってみた

何も意味は無いけど
そこに荷物を全部捨てて走り出してみた

荷物と一緒に
何かを置いてくることが出来た気がして

とても嬉しくなって飛び跳ねた

飛び跳ねた先にあった水溜まりに足が入り
お気に入りの靴が濡れたって構わなかった

ただ私は何かを置いてくることが出来たことが
とてつもなく嬉しくて
嬉しくて 嬉しくて

目から溢れる涙は決して苦しいからではなくて
決して悲しいからではなくて

ただ嬉しいからだと思って

そう思い込んで

ひた走る

「そう!楽しいんだよね!嬉しいんだよね!」

外野から聞こえるその声で
よりいっそう自分が楽しいと思った

悲しいことなんて無かったことにしたくて

死んだ友人の顔すらもう

私は覚えていなくて

置いてきた荷物の鞄の中
友人の首はどこか笑っている

ただそれを忘れたくて

ただそれを楽しいと思いたくて

私はひた走る

荷物を持たずひた走る

その「何か」を忘れたいから

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