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その蝶についていきました



臨機応変にとはいうものの
人には向き不向きがございまして
私は臨機に対して応変することが
どうにも上手く出来ないのです

そんなことを迷っていた時
目の前に蝶々がおりまして
それがそれがまた
私の行く道を導いてくれているようでして
ついつい後ろを尾けていったのです

ふわふわ、ふわふわ
わけも分からぬ軌跡を描いて
蝶々はただ、飛ぶ

ただ、飛ぶ

ふわりふわりと
かと思えばキュッと進路を右に
そこに花があるから
きっと蝶々は飛んでいる

私は蝶々の後を尾けて
あるところにたどり着きました

それは海

果てのない海

蝶々は青い海の向こうへ
きっと花を探して飛ぶが
きっと花は見つからず
海へ沈んでしまうのでしょう

そこでふと
自分の足元を見て気がつきました
私は裸足でここまで来ていて

気づいた時には足の裏母指球あたりを
石で切って怪我をしていました

ふふふ、ふふふと声を立て
私はおかしくなって笑いました

蝶々のようにふわふわと
そうなりたいと思い尾いて行ったその先は海

私は蝶に焦がれ
蝶は海に焦がれ
海は、終わりに焦がれているのか

はて分からぬその先を
海を見て感じている私が
ふふふ、ふふふと声たて笑う

砂浜は白く波は揺れ
蝶はどんどん奥へ行く
水平線を目指し飛ぶ
きっと本来蝶々が
海に近づくことはない
だが
私がここまで尾行したから海に会えたのだ

きっとあの蝶々は海に焦がれ
海を愛し海の色をしていたのでしょう

蝶々を追い込んだ自分の自己防衛が
都合のいい妄想を掻き立てて並べた

臨機応変などできないと
そう思っていた私が
都合のいい妄想を自分を守るために並べた

これを臨機応変と言わずして
何を臨機応変と呼ぶのでしょう

私は怪我した足の裏
そっと波につけて立ちました

飛んだ蝶々のその向こう側
水平線に向かって立ちました

生きている

何も出来なくたって
そこにいる私という人間は
生きるということは出来ていました

秋初め、波の音
夏の終わりと蝶の羽根

私が私を
肯定するには十分な景色でした

勝手に生きていい理由を
見つけるためには十分な景色でした

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