マガジンのカバー画像

ながつきの短編小説

13
長月龍誠の短編小説集です。愛しの作品たちです。気になった作品があったらぜひ読んでみてください。
運営しているクリエイター

#ショートショート

【短編小説】勇者の日常(#itioshi)

【短編小説】勇者の日常(#itioshi)

《約2300文字 / 目安5分》

「若き英雄! 19歳の青年が大悪党を滅ぼす!!」

 あれから10年が経ち、そんな見出しも最近では見なくなった。

 特注のダイニングテーブルでコーヒーを片手に、窓から差し込む光で新聞を読む。世界は平和になったなと感じて、気持ちよく新聞をとじる。ありがとうと言葉に出す。これが俺の毎朝のルーティンだ。

 10年前のことはよく憶えている。俺が剣を握り、悪魔を滅ぼす

もっとみる
【短編小説】カプセル型の薬|ポンコツ博士の研究室(#青ブラ文学部)

【短編小説】カプセル型の薬|ポンコツ博士の研究室(#青ブラ文学部)

《約1400文字 / 目安3分》

 昼寝をしていたんだと思う。私はソファから起き上がり窓を開けた。小麦色の空の奥から太陽がひょっこり覗いていて、沈みそうでまだ沈まない、この時間帯が愛おしい。

「助手よ、きれいな眺めだね」

 気が付くと博士が隣にいた。不意にも私はドキッとしてしまった。博士の顔が、今日はちょっと凛々しく見える。

「博士、なんだかお若くなりました?」

「何を言っているんだ。僕

もっとみる
【短編小説】青写真|ポンコツ博士の研究室(#シロクマ文芸部)

【短編小説】青写真|ポンコツ博士の研究室(#シロクマ文芸部)

《約1300文字 / 目安3分》

「青写真っていうんだよ、これは」

 博士がなにやら寂しげな表情をして写真を見ていた。気になったのでバレないように博士の後ろから私も写真を見ていたのだが、どうやらバレてしまったらしい。

 写真には、海を眺める麦わら帽子をかぶった女性の背中が写っていた。

「この女性って誰なんです?」

「……昔の、ちょっとした知り合いかな」

「とかいって、元カノだったり?」

もっとみる
【短編小説】破壊したい愛

【短編小説】破壊したい愛

 《約800文字/目安3分》

 私はゴミだ。
 ポテトチップスが入っていた袋、塩気が残っている袋。

 いま私は、アスファルトの上に転がっている。アスファルトの冷たさと小石が体に刺さって、とても痛い。

 私は目を閉じた。

 そのとき風が吹いた。強い風だ。

 ぶわっと吹いた風は、私を宙に浮かせて、一回転させた。

 私は驚いて目を開けると、目の前には大きな空があった。

 そして、遠くには苦

もっとみる
【短編小説】ありがとうを言えない

【短編小説】ありがとうを言えない

《約2600文字 / 目安5分》 

 温かいご飯の匂い。

「よーし。こんなものかな」

 ママは私をおんぶしながら、鼻歌交じりにご飯の支度をしていた。リビングの方を振り向くと、いつの間にか薄暗くなっていた。いつもこんな時に、パパが帰ってくる。そう思うとワクワクが止まらない。

「完成……かな。ここみ、ご飯できたよー」

 歌声がママの背中から聞こえてくる。ご飯、できたのかな。ママの肩に精一杯手

もっとみる