双子座流星群と私の空白
平日水曜の22時過ぎに、急遽、流れ星を探しに行くことになりました。
夕食の旦那作カレーを食べ終え、ニュース番組を見ていた時のこと。
どうやら今夜は、双子座流星群の流れ星がよく見える日らしい。
ニュース内でも中継され、あ、今流れましたね、なんて言い合っている。
家の中から夜の空を眺めてみた。しかし星の一つも見えるはずなく。
外に行ってみる?でも最近本当に寒いしなぁ…。
名案、Youtubeで、中継チャンネルを見てみる!も、画質が悪い。夜空が不自然に明るいのが気になる。流れ星自体は見えるけれども、何か違う。
試行錯誤の私の隣で、よし、と旦那が腰を上げる。
ちょっとだけ、外に出てみようよ。
二人でいそいそと防寒対策だけして、近くの公園へ。
着込んだので寒くはないが、顔と耳が冷たい。
さて見えるかなと、夜の空を見上げる。
周囲の住宅の光が邪魔をして、一番星しか見えなかった。
これだったら、いつもの釣り場の方がよく見えるのになぁと零す旦那。
公園を出て、二人で立ち止まる。
今からさ、いつもの釣り場まで行ってみない?
腹ごなしよ、腹ごなし。
カレー2杯食べちゃったしね。もうご飯、少ししか残ってなかったよ。
食べ過ぎちゃうよね、カレーって。ね。
今日、肉を牛すじにしてみてんだけどさ、思いのほか上手くいってさ。
すごく柔らかくて美味しかったよ!
やっぱ煮込む前のひと手間だなぁ。良かったぁ。
いつもの釣り場までは、徒歩10分程。
10分で海に着ける、今の住まいが私は好きだ。
夜道、誰もいないのを確認して、星に関係する歌を熱唱する私。
supercellの君の知らない物語と、BUMP OF CHICKENの天体観測。
「今夜星を見に行こう」の盛り上がりと、
踏切を渡りながら歌う、「午前二時フミキリに」のマッチ感。
冷たい空気が気持ちよくて、格別だ。
途中、旦那の釣りの話も聞きながら、海へと向かう。
釣り場に到着すると、釣り人は一人も居なかった。
平日夜だからだろうか、もう寒い季節だからだろうか。
人の声無く、海の波の音だけ。ざざーん、ざざーん。
夜空には、オリオン座と、名も知らぬ取り巻きの星たちが見えた。
これよ、これ。この遠く果てしない暗さよ。
さっきよりも全然見える。10分程歩いて、町から少し離れただけなのに。
空を見上げ続けていると、暗さに段々と目が慣れてきた。
でも旦那的には、いつもの釣りの時よりも明るく感じるらしかった。
そりゃあお前さん、貴方はいつも朝3時とかに来ているからよ…
この時間じゃ、まだ遠く、町は煌々と光っていて、みんな寝静まっていないからよ…
…ねぇ、見上げる方向、こっちで合ってるのかな。
えっ、どういうこと?
方角よ。こっちで合ってるんかな。
今オリオン座を見上げてるけど、実は真後ろとか…?確かに、どっちの方角なんだろう…。
調べてくれば良かった、しくったわ。
あ、携帯、そういや持ってきて無かった、今、家の鍵しか持ってない。何なら財布すら無い。
わはは、どんなに身軽や。
っていうか、オリオン座しかわからん。
そうね、双子座はどれなんだろう…。
あれちゃう?
いや、あれはオリオン座の一部…。
双子座流星群とは…?
このたくさんの星のどれかや…。
…携帯を持ってたら、天体アプリとか無かったっけ。
あったね、それにハマってた時とかあったよね。夜空を移すと何座か分かるやつ。
そんな会話をしていたら、オリオン座の下の方にキラリと流れた光が一つ。
おおお!と二人で声が重なった。
今、流れたよね!
あそこだよね!今ね!あそこね!
見えたね!すごいね!
語彙力がどこかへ飛んで行っているうちに、また一つ。
ほらまた!
さっきの近くだったね!
願い事した?!
こんなん出来るかい!早すぎるわ!
その後も2つ程流れ、区切りよく、5つ目の流れ星を待つ私達。
く、首が痛くなってきた…。
あと一つ…あと一つだけ、星の終わりを見届けるんや…え、そうだよね?流れ星は、星の終焉なんだよね?
そうそう。
ん?流れ星は今現在の光なの?
そうそう、今この瞬間、大気圏に突っ込んで消滅したってこと。
え、星って何か、光のタイムラグがあるんじゃなかったっけ、過去の光だか、未来の光だか…
それはこの普通の星ね。ずっと昔に光っていたのが、今見えてるの。
もう、空間も時間差もよくわからんわ…広すぎや宇宙…。
私の宇宙基礎知識の無さに呆れたのか、5つ目の流れ星は現れることなく。
首が限界や、帰るかね。
そうだね。
来て良かったね!こんなに見れるなんてさ!
家だったら見れなかったよ。
ほんまよ!
帰り道の公園では、高校生か、大学生くらいの男の子たちが、数人集まって遊んでいた。
寒いのに、元気だな、若いなぁ。
星は見終わったのか、星には興味無いのか、定かではないけれども、寒空の下、彼らもとても楽しそうだった。
これ家着いたらさ、めっちゃあったかくて眠くなるんじゃない?
確かに、これは炬燵ですぐ寝れるやつや。
整う?整うかな?でも整うは熱いから冷たいか。じゃあ逆整うだ。
なによ、逆整うって。
しかし、よく見るとすごく着込んでるな!どんだけ着てるん。
ヒートテックと、パジャマと、もこもこの羽織と、冬用のウィンドブレーカー。おかげで何も寒くない。
ぶはは、ベイマックスや、ベイマックス。
貴方の健康を守ります。ぽぽん。
ねぇねぇ、見てみて、チェンソーマンのOPのパワーちゃんの爆発の時!
なんだそれ、そんなんだったっけ。
そうよ、こう、髪をかき上げ、こう!
いやぁ、ベイマックスにしか見えんわ。
なにぃ!
そんな会話を繰り広げながら、家に到着すると、23時を過ぎていた。
うがいをした水も冷たかったけれど、夜の冷たい空気が冷たくて美味しかったな。
そして案の定、炬燵に入った旦那は、その内うとうとし始めた。
10分経ったら起こしてと言っていたが、私はいつも言われた通りに起こさない。起こしても起きた試しが無い。延長されるのが関の山なので、寝返り等の頃合いを見て起こすようにしている。
その隣で、私はぼーっと、ぽやぽや、空(くう)を見つめていた。
あぁ、そうか。
ふと、降りてきた。そしてすとんと落ちた。
きっとこの、空白感なんだろうな、と。
テレビも点けず、寝ている旦那の隣で、浮かんできた場面があった。
「空白を大事にね」
そうか、これが、今までの私に足りなかったもの。
空けられなかったもの。
「休むって言われても…あの、質問なんですけど、みんな、休んでいる時って、何をしてるんですかね?」
言っている自分でも、こりゃ、なんちゅう質問だと思った。
あの時、言葉を貰ったけど、私の腑にはあまり落ちてなかった気がする。
でも今、やっと体感した。
これか。この、
よし、今から海に行って星を見に行こう!という、そんな時間。
そして、それを計画的に作る、機会を持つようにするということ。
楽しかった。大事にしたい。これからもこんな時間があったらいい。
だからもうさようならだ。
旦那と5分しか会話が無かった、心を忘れた毎日。
私は変わるんだ。
少しずつ、足し算や引き算をしながら。